第4話 カイガロカ

「あの野郎、水を独り占めして嫌がるんだろうか。懲らしめてやろうぜ」

「でもアレはカイガロカ様だろうと思うよ」

「呼びかけにも応えず、勝手に水を盗るってのはどう思う?悪い奴だろう」

「うん!でも?」

「でも大聖龍だから許せる?」

「そうなんだ」

「じゃぁ。聞くけれど君の大切なモノを勝手に取って行ったなら許せるかい」

「う〜ん。それはダメに思う」

「そうだろう。アイツはもうないと思っていやがる。だからもう一度雨を降らせてくれ」

「分かったよ。でも喧嘩しなくても良いんだよ」

「いや、喧嘩じゃない。相手に俺たちの事を気付いて貰うのさ」


 クルドは大雨を降らせた。俺は女二人に大声ではしゃぐ声を出させ、笑い声を高らかに辺りに響かせた。しばらくするとまたあの大岩が揺れてドラゴンが顔を出し、また、「チッ」と言いながら、首を中に入れた。


 やはり水が異空間に吸い込まれ無くなった。

「やっぱり。奴は水が嫌いか、女の声が嫌いかだな」

クルドにもう一度雨を降らせさせてみた。今度は二人に何も声を上げずに静かに過ごしてもらった。ドラゴンは出てこない。おいおい、奴は出てこない。女の声に反応してるんだろうか?


 ミランダが夕食の用意を始めた。ソレアが食卓を準備した。クルドは俺たちの側に横たわって俺たちを見ていた。ミランダが肉を焼き、パンを用意し始めると良い香りが辺り一面に漂い出した。あの大岩あたりの空間が歪みドラゴンが顔を出した。辺りを見回し、また水があるのを見て「チッ」と言って顔を引っ込めようとしたとき、俺たちが目についた。


「おいっ!そんな所で何してる。俺様の領分だぞ。静かにしてる分には許しておいてやるが、うるさくすると許さんぞ」


そう言って首を引っ込めようとした時、アキオは大声を出して笑った。

「そこのお前、笑ったなぁ。許さんぞ」

「誰です。俺が笑うのがそんなにいけない事ですか」

「お前は誰だ」

「俺はアキオ。ここにいて、楽しいから笑っただけです。多くの命は歌い笑い、飛び跳ね、飯を食い、オナラをする。これは自然の生業です。お許しあれ」

「くそっ。これだから許せん。俺は静かな所で瞑想に耽っている。邪魔する事は許されんと思い知れ」

「これはなんと心の弱い事です。ドラゴンと言えどもそんな事ではいけませんなあ」

「お前ごときに言われる筋合いはない」

「カツ!誰に言われようが言い逃れ出来ませんぞ」

「なんだその言われようは」

「俺はアキオ。俺の世界に一休禅師と言われるお方がおられた。そのお方が言われた事、申し述べておく。清閑にとらわれる事なき。囚われること即ち煩悩。瞑想をするものはどの様な所でしても瞑想出来なくて何とするぞ。愚か者め」

「・・・・・・」


カイガロカはただ黙っていた。そして、俺を見た。

「お前は竜の戦士だな。お前の申しよう承知した。なるほど、ここの場所がうるさくなり、いやになっていたが、俺の我が儘であったとは。許せ」

「お分りいただければ良いのです」

カイガロカは頭を下げると首を引っ込めようとする。

「暫く!お待ちいただきます様にお願い致します。ここに控えるクルドに聖印を授けては頂けませんか。幼い時より瞑想をしておりました。どうかお願い致します」


カイガロカはクルドを見て、笑い出した。

「こいつはただの夢見こちゃんだぞ。瞑想なんて出来るのか。こいつは面白い。力はあるがどうしたものか」

カイガロカは少しだけ考えていたが、クルドに問いかけた。

「お前、このワシから聖印を受けて何とする?」

「えっ!どうかな。どうするか分からないよ。そうだね。使い所がなければ放っておくよ」

「勿体無いとは思わないのか?」

「そうだね。役立つなら使うよ。でも多くを傷つけるなら使わないよ」

「なるほど。良い心がけだ。だが、心がけだけではこの聖印は与えられんのだ。試練の間にくるか?」

「行く」

クルドはすぐに行く事になった。空間が歪みクルドは吸い込まれた。気がつくと俺やミランダ、ソレアも一緒だった。


「お前たちも竜の戦士なんだからクルドとやらと頑張れ」

そう言う声が消えると周りは何も見えなくなり、空間に入れられた感じがした。

ミランダとソレアを抱き寄せ、呼吸を合わせて静かにしていた。二人は何故か俺と同じ呼吸に合わせてゆっくりとなってきた。クルドも慌てる事もなく、寝息を立てる様にその場にゆっくりとしていた。


 何時間経っただろうか、静かな時間だけが続いていた。

「ええいっ!もう良いわ。分かった分かった。くれてやる」

そう言う声がしたと思ったら元の場所に立っていた。クルドは聖印をもらっていた。

「お前達。慌てず、立派だった。多くのものは空間から出ようと足掻き、苦しむ。これでは聖印なんぞ渡せるものではない。アキオとやらお前には感謝しておる。お前には加護を与えておく。さらばじゃぁ」


声が消えた時、俺たちはお昼の時間に思えた。太陽が二つ真上に上がっていた。遺跡を見ると何もなく、水のかけらもなかった。

「ここにきた時みたい」

ミランダが言う。

「いや、着いた時にはもう少し日が傾いていた様に思う」

ソレアが答える。


カンガロカ様は時間まで操るんだろうか。クルドは次の目的地に向かう。クルドが飛び始めると、あのイヤな雰囲気がし始めた。

「クルド。ちょっと待った」

「アキオ。なんだい」

「そっちじゃない方だとどっちになる」

「そうだね。南に行く事になるよ。だいぶんと遠回りになると思う」

「いや。そっちに行こう」

クルドと俺たちは南に進み結局は難を逃れた。それは後で知る事になる。クルドの観はあまり当てにならないらしい。


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