第19話 処刑場の笑い声

 ガッカハは、カニシュのまだ幼い二人の娘が仇討ちをしたと聞き、涙を流し喜んだ。カニシュの荘園は寂れ、今は昔の面影さえない荒れ果てた姿をしていた。大戦で山河は荒れ果て、多くの国民は苦悩していた。逃げたダッシュガヤは西部を糾合。国を作り上げ、戦いを辞めぬばかりか更により大きな戦いを我らに仕掛けてきた。カニシュ家も多くの人を戦役でなくし、国の中で没落した家の一つであった。五人いた兄弟は末の弟を残し、あとは戦死。末の妹たちはまだ幼く、兄であるガクク・カニシュは引き取ろうとしていたのだが、村を通りかかった老婆が言った一言が姉妹をこの村に縛り付けた。


「まさにまさに。ここにダッシュガヤ。まさに現れんとす。誰やある。かのものを捉えんと、あるやなきや。かのものここに縄を受け、まさにこれ、ことわりを告げる」

こう老婆は村人に話、何処かに行ってしまった。多くの者が忘れても、姉妹は忘れる事が出来なかった。今日で無ければ、明日がある。明日で無ければ、いつかはある。毎日、どんな形であろうとも必ずの思いで支え合いながら姉妹は生きてきた。この毎日が今日成就し、ガッカハにダッシュガヤを引き渡す事になった姉妹。


 王宮に戻ったミランダはダッシュガヤ捕縛の報に接し、驚きもしたが安堵した。

「これで一連の不幸な戦いの原因をなくす事ができる。これで一つの区切りができる」


ミランダはガッカハに至急捕縛し、王宮に連行する様に命を下した。

「私めにご下命くださり、ありがたき幸せ。見事果たして見せましょう」


三日後、ミランダは捕縛されたダッシュガヤと面談した。

「ダッシュガヤよ。水は美味かったか?」

「ふん。喉の乾きが癒えればただの水よ。我が居なければ、お前たちもただの支配者よ。女よ。我がこの世に荒波を沸き立たせ、多くの民草が溺れ苦しみ、ただの藁しべに縋り付いただけのことよ」


「なるほどのう。お主の言うことも一理ある。だが、お主を憎む心が今回お主を虜にしたとは思えぬのか」

「そうよなあ。世は変わり、人も変わるもの。我を憎む者も最後には称えるかもしれぬぞ。我を神と崇め、神殿を作りおるやも知れんわ。ハハハハハ」


 ダッシュガヤは牢に入れられ、過ごすこと三十日。国中は沸騰し、死刑を求める意見書が大波の様に押し寄せ、未亡人や孤児達が王宮の前で怒りのデモを繰り広げた。その上でミランダの大臣達は、中つ国の中央広場にて死刑とすると取り決めた。牢から出され、車に乗せられて中つ国に旅立つダッシュガヤを見た多くの者達が石や腐った野菜などを投げつけ、恨みを晴らした。その道はおおよそ七日行程。怒りに狂う民衆は追いすがり、二日かけて石を投げ込む者も居た。


「ワッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハハハハハ。よくぞ来た。とくと見るが良い!我の姿を。この後見ること叶わぬからな!この世を思い通りに動かした真の支配者にして、この世を救わんと命を賭けた我を見よ!」

 十字に組まれた木にダッシュガヤは張り付けられ、刑場の真ん中に晒された。その中で大声でかくの如き大見得を叫んだ。その声を聞いた詰め掛けた民衆は怒り狂い、石を投げつけ、最前列の者は唾を吐きかけ、呪いの言葉を全員が合唱した。


「ふん!愚か者どもが、ごみ虫のくせに。一人前に思い上がりおって。バカめが」

 ダッシュガヤは腹から吹き出す様な声で呟いた。処刑を執行する様に刑務官が指示を受け、十字架に駆け寄る。二人が槍を手に持ち両脇から刺して貫く様に指示が下された。正に槍を持つ手が天に向かって刺し貫かれようとした時、大空は黒雲に覆われ、稲光が鳴り響き、大ききな太陽の様な目が一つ輝き、刑場を眼下に見て居た。

「あ、あっ。なんだアレは」

多くの民衆が叫んだ時、空から赤く輝く手が伸びてきて、ダッシュガヤを貼り付けた十字架を掴もうとした。

「馬鹿者!早く槍で突け!遅れをとるな」

中つ国の大臣バルバは叫んだ。だが、槍を持つ二人は雷で黒焦げにされており、駆け寄る武者が辿り着かんとした時には赤い手が十字架を握りしめ、天空に連れ去ろうとしていた。


 まさにその時、雲から大きな足が現れたかと思うと赤い手を地面に踏みつけた。多くの建物が潰れ、多くの悲鳴が聞こえた。十字架は勢いで東の方角に飛ばされ、赤い手は地面に踏みつけられた形で逃げ出そうと暴れていた。見ると天空は晴れ渡り、大きな目が見えていた所よりもまだ上に大きな目が二つ見えた。


「グワッ!ア〜!」

なんと恐ろしげな声とも叫びとも取れる響きが空気を振動させて、空間を揺らした。今度は手が現れ赤い目玉の化け物を捕まえようとした。だが、目玉は行方をくらませ、見えなくなった。手は足の下にある赤い手を捕まえ、その五本ある内の指一本をちぎり取った。その時、空気が震えた。もう一本指をちぎっり取った時、地震が引き起こされた。その時足が思いっきり地面を踏みつけた。それで地震は無くなり、多くの者たちは安堵した。


 足が地面を踏みしめた時、赤い手は手からするりと逃げ出し、空間に消えた。大きな手は消えたあたりの空間を裂き、手を突っ込んだ。


 多くの民衆は怯え、建屋に逃げ込む者や、中つ国から逃げ出す者も続出し、大混乱が引き起こされた。その為、ダッシュガヤを捕まえようと向かった者達が十字架にたどり着くとその姿は忽然と消えていた。その報に接し、大臣バルバは悔しがった。


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