第13話 世界の片隅で

 クルドと共にドラゴンの村に帰る。長老オルガはクルドの成長を喜んでくれた。これで全て課題が終わりクルドと別々の歩みが始まるものと考えていた。

「アキオ。今日までありがとう。ディオスが現れるまでは何もないと思って良い。でも、必ず奴は復讐の為やってくる」

「俺もそう思う。思いたくもないが、やって来るだろうな」

俺たちがそんな話をしていた頃、ディオスは自らの巣穴に戻っていた。


「奴らをどう料理してやろうか?と、いつも思っておったが、今日、これしかないと思いついた事がある。ダッシュガヤよ。お前に意見する機会を与えてやろう。何なりと申してみよ。ワシはドナトカムナの空間で戦いを挑み、ここで奴らを破ろうと思うのだが。どうだろうか」

「ディオス様。ドナトカムナとはいかなる場所で御座いますか?」

「おう。そうであったな。お前にはまだ話しておらなかったな。ドナトカムナというのは亜空間と呼ばれるものだ。この世界はカタと呼ばれ、死後にはカムナに向かう世界観だ。この世はカタとカムナがあるとされておってな。ドラゴンでも一部の者しか知らぬ理よ」


「でわ、ドナトカムナとはカムナに近いのでしょうか」

「いや、ドナトカムナはカタのすぐ隣なのだ。だから物質が往き来出来る。ドナトカムナの隣はドナカムナ。この世界は往き来出来ないとされておる。ドナカムナに落ち込み、その淵から這い上がってきたものはいないとされている。その世界の芯が精神世界のカムナなのだ。ドナトカムナは、ワシの作りだした亜空間だから誰彼がどうこうできるものではない。だから、あの忌々しいつる草を持ち帰った意味が分かるか?」

「はっ?いこうに」

「うん。そうよな。この前、グエルがアレに絡め取られ、クルドの最後の攻撃を受け、奴は滅びた。今度はクルドがその運命を受ける番だと言うことよ」


「ディオス様、それは分かりました。ただ、この度の計画、ただ一つ問題があります。それは餌がありません。奴らを誘き出すための餌がありません」

「ワハハハハ。そんなことは分かっておるわ。その餌、お前が調達してくる事になっておるのだから。ワシは無関係よ。良い餌を探して参れ」


「お前の餌を置いた場所にワシの亜空間の口を付けておく。すると、口を開けるとな、こうして大きく空間が裂けると、爆発的な空間崩落が起こり、どんなものも引き込まれるのだ。奴らは訳が分からずアタフタするであろうよ」


「では、良き餌となるものを探しに行って参ります」


 ダッシュガヤはディオスにああは行ったものの、良き餌など何処にあるのやら判らずじまいであった。だが、ミランダにソレアは女王の地位にある。下から見上げれば何か見つかるかも知れぬと、ダッシュガヤはソレアのアの国に舞いこんだ。


 アの国は武を誇る国。何処で話を聞いても中々ソレアの急所が見当たらなかった。アの国の王都でソレアに不満を持つものを捜していたが見つからず、諦め掛けていた時、酒場でクダを巻いている一人の男が目についた。


「何がソレアだ。くそ〜!腹が立つ」

男は名をガレ・ザクラ・アイラといい、前王の甥っ子であった。王の甥という立場ではあったが、アの国では兵役は免除されず、国境警備に派遣されており、九死に一生を得て生き残り、今酒を飲んでいるのであった。多くの国民はソレアを女王として認めてはいるが、俺がこの国の王となるのが当然だと主張するこの男は、自分を見つめている女がダッシュガヤである事など知る由もなく、意気投合して酒盛りを始めた。


「俺が王になって当然だ。あいつはただの跳ねっ返りさ」


 ダッシュガヤは男に酒を飲ませ、ソレアの事を聞き出した。それによるとソレアの母ソニアは王宮にも住まず、元の住まいにソレアの父のガテヤと二人で暮らしている。家来も数人しかおらず、女王の家族とは思えぬ生活だと話していた。それでダッシュガヤは妙案が思いついた。


 ガテヤの屋敷の門を叩き、来訪を告げる者が現れた。

「こんな夜遅くに誰だ?」

家来のゴーヤは不服タラタラ言いながら、門を叩く者に姓名を尋ねた。

「私はガレ・ザクラ・アイラ様の家来の者。本日、この近くで宴会に呼ばれましたが、帰る前にガテヤ殿に会いたいと申されまして、お連れ致しました。こんな夜遅くにソレア女王様のご両親に面会の申し込み、誠に失礼と思い、主人に思い留まるように申しましたが、私も仕える身、恥ずかしくもここに参上し、門を今、叩いております。お許し下さいます様に願います」


これを聞いたゴーヤは慌てて、事の次第をガテヤに報告。ガテヤは昔気質の古武士。すぐに相手の申し出を聞き入れ、客間に二人を招き入れ、ガレ・ザクラ・アイラを上座に座らせ、酒と肴でもてなそうと家来達に指示していた。


「ふん!ソレアがなんだ。俺が・・・・」

ガレは酔いが回り、周りが見えておらず、自分が誰と話していることも分からぬくらいに酩酊していた。ガテヤは怪訝な顔をして聞いていた。


「さて、お主はガレ様のご家来と申されましたか。ご用件はお聞き及んでおられますかな」

「はい。ソレア女王様、死去後のご自分の王就任の談判でござります」

「うん?お前は誰だ。アの国の者ではないな。この国に生きる者はその様な物言いはせん。名乗りを上げたらどうだ」

「何と申された」

「これはこれは。失念しておりました。御身はダッシュガヤ殿ではござらぬかな?」


 ダッシュガヤは「チッ」と言い放つと、剣を手に持ち立ち上がる。ガテヤも剣を抜き斬り伏せる覚悟で睨みつけた。ダッシュガヤはナラニオを抜き、その赤い刀身をガテヤに見せつけた。

「やはり、ダッシュガヤ殿でありましたか。これはめでたい。ワクワクする」

「ふん!そなた。バカであろう。この我と斬り合い、勝つつもりか?百年早いわ」

「何の、ワシは百越えしたばかり、いくらあなたでも負ける気がいたしません」

「気狂いが」


ダッシュガヤは引戸を蹴破り、庭に躍り出た。ガテヤも押し出し、遂に切り結ぶ事に。二度まではお互い無事に済んでいたが、三度めの斬り合いにガテヤの剣が折れ、勝ち誇るダッシュガヤ。ナラニオを振り下ろすが妻ソニアが薙刀で受け、凌いでいる内に、ガテヤに剣をわたし、二人でダッシュガヤと斬り結ぶ。ソニアは薙刀でナラニオを受け、ガテヤは剣で斬り付ける。さしものダッシュガヤも追い詰められたと諦めかけた時、天空に一筋の稲光が走る。


「これが獲物か。男か女か。どちらが獲物か」

ダッシュガヤ答えて、「女です」と。


空から大きな手が伸びてきて、ソニアとダッシュガヤを掴み消え去った。






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