女王様とアイドル
長い髪は黄金の絹。青い瞳は海の宝玉。肩の露わな純白のドレスがお似合いのエリサ様、ようやく回復致しまして謁見の間からお送りします。なおロバ耳は未だ健在。
「もうだめだ死のう」
「そこまで落ち込まなくても」
耳まで赤くしたエリサ様は真っ赤な顔を両手で覆って今日も元気です。
「だってお前に添い寝しろとか言ったんだぞ! もう死ぬしかないだろ!」
「言い方! デレからのツン! ちなみに二人とも添い寝しろとも仰いました」
「分かった二回死ぬ。つか二人って何。もう一人誰」
「うなされて僕が二人に見えていたようですね」
「ん? そうなのか」
と、顔を隠すのをやめたエリサ様。もう顔色が元に戻っている。
「じゃあ別にいっか。きっと熱でもあったんだろ。頭がどうかしてたみたいだしお前が喋らなきゃ問題ない」
「切り替えの早さがすごい」
「つーかお前、ちゃんと仕事してんの? 余を呪ったやつ早く見つけろよ。謁見の間にいるのに誰とも謁見できねえし遊びにも行けねえんだけど」
「申し訳ございません。実はその件で一つご提案がございまして」
「何だ言ってみろ」
「いっその事『萌え耳生えました!』と喜ばしげに広く報せるのはどうでしょう。かわいらしいですし国民からも必ず歓迎されます。エリサ様のアイドル性がよりパワーアップするかと」
「あり得ねえよバーカ!! ロバ耳生えた人間なんてキモいだけだろうが! それで喜ぶ国民なんかみんな死刑だ死刑!」
「ナシですか」
いや、歓迎されると思うけどなぁ。もともとバカかわいいで定評のあるエリサ様だし。公表したら祝賀ムードに萌え耳特需、いい事尽くめなんだけど。
「でもそうか、アイドルか。いいなアイドル。余、アイドルやりたい」
「いいですねやりましょう!!」
「いいよな! やろうすぐやろう!」
その発想はなかった! エリサ様珍しくいい事言った!
言うまでもなくエリサ様は僕の永遠のアイドルだが、歌って躍る姿も見てみたい。曲とか写真集とか出して。握手会は絶対させないけど。
「じゃあまずメンバー揃えないとな」
「え? グループなんですか? エリサ様だけでいいのでは」
「そりゃあ余は完璧だけど引き立て役がいるだろ。とりあえずまなみちゃんとマリーでいいか」
「妥当なところですね。二人とも黙っていればかわいいですし。もちろんエリサ様には遠く及びませんが」
彼女らが応じてくれるかは疑問だけど、多分大丈夫だろう。ごっご遊びでメイドやってるぐらいだし。
「グループ名はそうだな……『余とその他』」
「壊滅的なネーミングセンス!!」
「何だとてめえ!! 一発で余がメインって分かりやすいだろ!」
「確かに分かりやすいですがもう少し真面目に考えましょう。例えば『王国エンジェルス』とか」
「だっさうわだっさ!! お前の方がダサいじゃねえか! 何か野球とかサッカーのチーム名ぽいし!」
「私も言ってからそう思いました。とりあえずグループ名は置いておきましょう。まず方向性から決めていきましょうか」
「そりゃ王道だろ。女王だし」
「そうですね。女王様ですし」
「………………やっぱ今のナシで」
「え、今のボケたつもりだったんですか」
「言うなよ!! そういう事言うなよ!!」
分かりにくいなあ。いつも素でボケてるじゃないか。思い付きでボケられても困っちゃうよ。
それにしてもエリサ様がアイドルかー。夢が膨らむなあ。歌って躍るエリサ様を想像しただけで興奮してき……うん?
「エリサ様って歌って躍れましたっけ?」
「当たり前だろ。余だぞ。何なら歌ってやろうか」
「本当ですか! 是非お願いします!」
「おう。余の美声に酔いしれろ」
立ち上がったエリサ様はこほんと咳ばらい。そして。
「ボエ~~~~~~~~~~」
「お見事でございます!」
伝説のボエ~頂きました。さすがはエリサ様、狙ったところにきっちり落としてくるんだから大したもんだ。普段の声はきれいなのに不思議なもんだなぁ。
「ボエ~~~~~~~~~~」
「もう結構ですありがとうございました。ちなみにそれは何て曲ですか」
「何言ってんだお前。国歌も知らないとかあり得ねえだろ」
今のが国歌とな。ジャミングできそうな国歌だな。少なくとも僕が知ってるのと違うやつだ。
「もしよろしければついでにダンスも見せて頂けませんか? ドレスですから躍りにくいとは思いますが」
「ダンスかぁ。国歌に振り付けないしアドリブになるけど」
「では私がボイスパーカッションもどきを。ドゥンツカッドゥドゥンドゥンツカッ」
「お前そういうのもできるのな。よーし」
「ドゥンツカッドゥドゥンドゥンツカッツドゥンツカッドゥドゥンドゥンツカッ」
「ボエ~~~~~~~~~~」
……うーん、何て言えばいいのかな? ホラー映画でこういうの見た事ある。エクソシスト的な。呪われた女の子的な。あと何で歌ったんだろ。
「はいオッケーでーすありがとうございましたー」
「やっぱり余って何でもできちゃうよな。自分でもすごいと思う」
満足げだけど、さーてどうしたもんかな。
僕は音響兵器呪いダンスでも一向に構わないけど、じゃあこれを国民にお見せできるかってなったら別の話だよね。SNSで誰とでも繋がれるこの時代、ダイレクトな感想をエリサ様のお耳に入れる訳にはいかないし。
「ひとまず、エリサ様が歌って躍るに相応しいプロデューサー陣を探しておきます。やはり最高の音楽と振り付けを吟味したいですから少し時間がかかるかもしれませんが」
「おう頼んだ。余はユニット名考えとく。ふんふふ~ん♪」
あれ、鼻歌は普通に歌えるんだ。わっかんないなぁ。
そんな訳でとりあえず、問題は先送りする事にした。飽きっぽいしバカだしそのうち忘れるだろう。そう願いたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます