女王様と看病
長い髪は黄金の絹。青い瞳は海の宝玉。肩も露わな純白のドレス……ではなくピンク色のかわいいパジャマ、お揃いのナイトキャップ付き。大きなベッドに潜り込み、いつもより優れない顔色。
そう! なんと今回はエリサ様の寝室にお呼ばれしちゃいました! 僕から突撃した訳じゃなく、エリサ様からのご指名です!
「メイドコワイ」
「極めて正常な反応」
はい。という訳でですね。比較的マシなメイドことまなみちゃんから甚大なるメンタル攻撃を受け、寝込んでしまったエリサ様です。比較的マシとはいえメイドはメイド、悪魔である事に違いはなかった。
「それでその、聖域たるエリサ様の寝室に私をご指名との事ですが、一体どのようなご用件でしょう」
「添い寝して」
「は??」
「だから、添い寝してって言ってるの。一人は怖い、夜も眠れない」
「………………!?」
聞き違いではなかったか……。
これはまずい。どうやらエリサ様、ダメージが深刻過ぎてご乱心なさっている。
添い寝なんてできる訳ないだろ。僕だぞ。手に触れる事さえできないのに添い寝なんかしたら無限の残機もゼロになるわ。
「失礼ですがエリサ様、それはできません。せめてもう少し段階を踏んでいただけませんか」
「何だよ、余の言う事が聞けないのかよ。お前も敵かそうなのか」
「私は永久不変エリサ様の味方です! たとえ世界を敵に回そうともエリサ様のおそばに立ち、そして勝利する所存です!」
「じゃあ添い寝ぐらいできるだろ。ほら、入ってこい」
そう言ってエリサ様は布団をめくり上げ、手招きをしてきた。ベッドから熱気が甘く香る。頭がクラクラする。
はい無理もう無理ごちそうさま、潔くベッドにダイブして死のう――そんな事を思いながらふらふらベッドに近付くと、後ろから誰かに羽交い締めされた。
「やめろ僕! ダイブしたら死ぬぞ!」
「『もう一人』、だと!? くっ、こんな時に理性が発動したか!」
「……熱があるのかな? お前が二人に見える」
「そうですエリサ様が見ているのは幻覚です! 誰かー! 誰かいないかー!」
『もう一人』が勝手に叫び、僕をずるずるとベッドから引き離していく。
「やめろ離せ! エリサ様から誘ってくださってるんだぞ、こんな機会はきっと二度とない! ダイブして共に死のう!」
「ふざけた事を言うな! ご乱心の弱みに付け込むなんてそれでも僕か!」
ケンケンガクガク!
ポカスカポカスカ!
罵り合い殴り合う僕と『もう一人』。
「別に熱はなさそうだ。お前が二人に見えるけどまあいいや。二人とも添い寝しろ」
「えっ」
「えっ」
意図的なのかそうでないのか、エリサ様が再び甘い熱気をぱたぱたこっちに漂わせてくる。
「今行きま~す」
「僕も~」
どうやら『もう一人』もあっさり陥落したらしい。『もう一人』だって僕だからな、仕方ない。
二人してゾンビのようにエリサ様のベッドに近付こうとした時、しかしまたもや後ろから羽交い締めにされた。
「やめろ僕! 二人とも正気を失うなんて情けないぞ!」
「そうだそうだ! それでも僕か!」
見ればもう一人も羽交い締めにされていた。どうやら『三人め』『四人め』を呼んでしまったらしい。
ケンケンのケン! ガクガクのガク!
ポカスカのポカ! スカスカのスカ!
罵り合い殴り合う僕と僕と僕と僕。
「お前、どんどん増えてないか?」
「気のせいです! この世はすべて夢まぼろし!」
「何言ってんのか分かんないけど、さすがに四人は多いから減らして。あとほら早く添い寝添い寝」
そして漂ってくる致死性の甘い熱気――
あれ、これはもしや無限ループに突入してしまうのでは?
「――――はっ!?」
「どしたのエリッくん?」
山のような謎機材と大量のモニタ。まなみちゃんの部屋にいた僕は確かな異変を感じ取った。
どうやら何人かの僕が致命的な状況に追い込まれているらしい。
もっとも、僕を致命的な状況にまで追い込めるのは僕ぐらいだから、きっと内輪揉めでも起こったのだろう。
面倒なので僕意外の僕をデリートデリート。
「何でもないよ。とにかく、今度会った時はエリサちゃんって呼んであげて? エリサ様、ああ見えて繊細だから」
「分かった! まなみ、これからはエリサちゃんって呼ぶ!」
まったく、まなみちゃんは素直でかわいくてロリ巨乳でよろしい。どっかの青髪メイドに見習わせてやりたい。
「じゃ、僕も忙しいからこれで」
「うんっ! また遊びにきてねっ!」
かわいらしく手を振るまなみちゃんに笑顔を返し、部屋を出てすぐ猛ダッシュ。
『もう一人』はエリサ様の寝室にいたはずだから、エリサ様の目の前で消えた事になる。ごまかすのは簡単だけどエリサ様のそばにいるのが僕の仕事だ。一人もいないのはさすがにまずい。
それにしても、寝室で一体何が起こったんだろう?
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