執事様とメイド様 その2

 青い髪を丸く束ねて、いつもいつでもすまし顔。メイド服を着ていれば仕事は終わり、本気でそう思ってるものだからサボってばかり。ごっご遊びでメイドをやっているメイドロボ、その名はマリー。

 訳が分からないよね。僕もさっぱりだ。


「マリー、入っていい?」 


 言いつつマリーの部屋をノックする。仕事は一切しないマリーだが、興味を持たせて勝手に動いてもらう分には役に立つ。マリーにはエリサ様の呪い――本当はロバ耳だが、呪われた王冠という事にして動いてもらっている、はず。つまりその進捗を聞きにきた訳だ。


「その声はド変態ゴミ虫ですね。今着替え中なので少し待ってください」

「ド変態ゴミ虫でゎない! 敏腕執事エリックだよ!」

「似たようなものじゃないですか。着替え終わりました、引き返すなら今ですよ」

「マリーはたまに分からない事を言うね」


 言いつつ扉を開けると、薄暗い部屋の中、マリーはドエロい下着姿でベッドに寝そべっていた。紫のスケスケのフリフリ、そもそも布面積が少ない。なぜかメイドの象徴ヘッドドレスだけは着けたまま。

 一呼吸置き、部屋から出て扉を閉めた。


「マリーのバカー!! 着替え終わってないじゃーん!!」

「着替え中に無理矢理入ってきた事、女王に報告しますね」

「やめろぉ――――――ッ!!」


 再び扉を開けて突入。既に何かを打ち込んでいたスマホを取り上げると、マリーはいつものすまし顔で言う。


「今度こそ下着姿と分かっていながら突入してきましたね。ちなみにですが、この部屋には監視カメラを仕掛けてあります」

「僕をハメてどうするつもりだ!? あと服を着ろ!」

「何となくです。特に意味はありませんが、弱みを握れるなら握っておいた方がいいでしょう?」

「考え方がクズ過ぎない!? はいこれ着ろ!」


 どうやら僕が来たと知ってわざわざ脱いだらしく、脱ぎ捨てられていたメイド服を寝そべるマリーの身体にかけた。


「せっかくですから目に焼き付けておいていいんですよ? もちろんお代は頂きますが」

「あいにくマリーのエロ下着に興味ありませーん! 後ろ向いてるから着たら言って!」

「私も好んでこんな下着を着けている訳ではないのですが。……はい着ました」

「早過ぎるからダウト! ……好んで着けてる訳じゃないってどういう事?」

「秘密です。ミステリアスな女はお好きですか」

「あいにくエリサ様しか興味ないんで」


 そう返すとマリーは黙り、布の擦れるような音が聞こえ始めた。ようやく服を着る気になったらしい。


「ところで話は変わりますが、私の身体、きれいだと思いますか」

「きれいだと思うよ。黙っていればマリーはかわいい。もちろんエリサ様には遠く及ばないけど」

「それはどうも。……はい、着ました」

「本当に?」

「本当ですよ」


 振り返ると、マリーはエロ下着の上にエプロンだけを着け、身体を起こしていた。


「……もうそれでいいよ。で? 呪われた王冠の件、何か分かった?」

「なかなか興味深い事に、呪いとやらが実在するらしい事は掴めました。ところでこのショーツの横の蝶結び、普通はフェイクなのですがこれは本当にほどけるんです。試しにほどいてみませんか」

「ほどく訳ないだろ。実在が掴めたってのは呪術師みたいなのを見つけたって事?」

「いえ、そういう訳ではありませんが」


 そう言ってマリーはしゅるりとショーツの紐をほどいた。紫色の薄布がはらりとめくれ、くびれた腰から丸いお尻のラインが繋がる。

 こいつは一体何がしたいんだ? 僕がエリサ様にしか興味ないのはよく知ってるだろうに。


「この国は呪いと縁が深い国なようですね。王国の起りからして、呪いとは切っても切り離せない」

「……随分と深いところまで探ったね。歴史書にも記されてないはずだけど」

「国内ではそうかもしれませんね」


 そう言ってマリーはゆったりとした動作でなぜか背を向けてきた。エプロンは前しかカバーしてないし、ほどけたショーツはめくれてきれいなお尻が丸見えだ。


「マリー、さっきから何してんの?」

「ブラのホック、外すの手伝ってくれませんか」

「手伝う訳ないじゃん。ほんとに意味が分からないんだけど?」

「国内では、もっとも国外でも国家機密の扱いでしたが――この国は起りから今の女王に至るまで連綿と血が続いているようですね。興味深いのは更にその先、現女王を除きすべて男性、しかも短命」


 マリーはブラのホックを外し、肩紐をゆっくり落としていく。僅かに身体を捻り顔をこちらに向け、探るような目で僕を見つめている。


「そういう血筋だからね。偏った血筋なんて珍しいものじゃないし、例外だって当然あり得る」

「若くして王座を継がなくてはならなかった歴代の王達のそばには、常に極めて有能な家臣がいたそうです」

「何が言いたい?」

「本当に何の興味も示さないんですね。私がロボだからですか」

「違うよ。僕はエリサ様一筋だからね。マリーだって知ってるじゃないか」


 僕にはエリサ様という絶対的な存在がいて、他は眼中にないというだけ。

 それにしてもマリー。

 想像を遥かに超える調査力だ。


「はぐらかさないで教えてくれない? 一体どこまで掴んだのかな?」

「この写真」


 振り向きざま、マリーは紙飛行機でも飛ばすように一枚の写真を滑らせてきた。器用なやつめ。

 モノクロの、それも随分と画素の粗い写真だ。オリジナルではなく幾度も印刷を繰り返されたものだろう。


「何代か前の王様だね。分かりにくいけど謁見の間に違いない。これが何か?」

「玉座の左に写っている男、あなたにそっくりですね」

「そうかな? ここまでボケてるのによく分かるね」

「写っているのはあなたなのでは?」

「そんな訳ないじゃん。何十年、下手したら百年前とかの写真でしょ? 僕が敏腕執事だからってさすがにないない。大体、これ王冠の呪いと関係ある?」


 一挙手一投足、更に細かく、呼吸や心音、瞳孔の開き具合。

 どれだけ小さな違和感も見逃すまいと、マリーが神経を研ぎ澄ましている。


「私の推測が正しければ大いに関係あります。女王の身を案じるなら、本当の事を話した方がいいと思いますが」

「本当の事も何もなぁ……。さすがに見当違いだよ。もっと別の角度から探った方がいいんじゃない?」

「そうですか」


 落胆した様子もなくいつものすまし顔で、マリーは脇を見せつけるように腕を上げ、首の後ろに手を伸ばした。


「ところで私は裸エプロン状態な訳ですが、今からエプロンを取ろうと思います」

「そう。じゃ、僕も忙しいから失礼するよ」


 奪ったままだったスマホを床に置き、振り返る事なくマリーの部屋を出、すぐさまエリサ様の待つ謁見の間に向かう。

 王家の男系で短命な血筋とエリサ様のロバ耳、二つは本当に関係があるのだろうか。僕の方でも調べてみる必要がありそうだ。


「エリサ様、ただいま戻りました」

「……おいド変態、これは一体どういう事だ」

「ちょっと、エリサ様までド変態はやめてくださいよ。これって何です?」


 なぜだか虫を見るような目をしたエリサ様は、僕にスマホのモニタを向けてきた。

 無音の動画が再生されている。ちょうど僕がスマホを奪うためにマリーの部屋に突入したところ――

 あっ、これヤバいな。

 ヤバ過ぎるな!?

 あいつマジで監視カメラ仕掛けてたのかよ!!

 つーかこの短時間で仕事早過ぎない!?


「いえあのこれには深い訳がですね!?」

「マリーは着替え中にいきなり入ってきて『おとなしく言う事聞け』って脅されたらしいんだけど!? 画像バラまくって脅されたって言ってるんだけど!!」

「虚言です!! この画像はマリーが作った偽動画です!!」


 動画はうまく編集されていて、写真を投げてきたあたりはきれいに切り取られ違和感なく繋がれている。まさに高度なスキルの無駄遣い!


「お前さっき深い訳が何とか言ったじゃねえか! 思い出すのも屈辱的な恥ずかしい言葉を言われたり言わされたりしたって言ってるんだけど!! おいお前! お前!!」

「あわわわわわ」


 大変だ大変だ逃げ場がないエリサ様がバカとはいえこれはさすがにちょっと難しいのではないでしょうか!!

 窮地に追い込まれた僕が右往左往七転八倒していると、エリサ様のスマホがピコンと鳴った。


「あ、マリーからだ! ……ん? さっきの動画は間違い? え、合意の上?」

「そうそれ! 合意の上! そういうプレイを合意の上でやってました!」


 マリーいいぞよくやった! 合意の上のプレイなら問題ない!


「……ってそんな訳あるかぁ――――――ッ!! 大体全部あいつが勝手にやった事じゃないかぁ――――――ッ!!」

「このド変態!! うじ虫ゴミ虫ミドリ虫!!」


 ……それからしばらくエリサ様は口をきいてくれなかった。

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