お嬢様とメイド様
青い髪はお嬢様の趣味、その身体は無数のよく分からないものでできていた。
初めまして。メイドロボのマリー・シュバインタインです。
この場合のメイドロボとはメイド服を着たロボであり、メイド業に従事するロボの事ではないのですが、お嬢様の『ほんとのメイドになってみよう!』という思い付きにより今は某国で本業メイドです。
ま、働いてないですけど。
同じくお嬢様も働かないので私の部屋へ遊びにきました。
「ねえねえ、呪われた王冠って嘘だよね?」
「嘘ですね。酒場でニット帽被ってる女王見てますし」
で、このロリ巨乳がお嬢様です。見た目中学生ぐらいですが実は二十歳手前です。私を作ったマッドサイエンティストでもあります。
私の胸が慎ましいのは大きくても邪魔なだけだからというお嬢様の実体験によるものだそうです。やかましいわ。
「じゃあ呪いって何なんだろうねー? エリッくんは何を隠してるのかな」
「頭にキノコでも生えてるんじゃないですか。それにしても呪いとは。運よくおもしろ案件が見つかりましたね」
女王の頭キノコはどうでもいいですが、この国の成り立ちは興味深いものがあります。
そして何より、あのイカれた執事が興味深い。
身体能力が異常に高い。
明らかに複数人いる。
首が落ちても死なない。
女王の寝室の空気を瓶詰めし、時々手に取りじーっと眺めている。
あ、最後のはド変態エピソードですね。
「エリッくんはねー、きっと魔法少女なんだよ!」
「はいはいそうですね」
お嬢様は異常を超えて超常の域にある人間を魔法少女だと信じる悪い癖があります。繰り返しになりますが二十歳手前です。痛過ぎるんじゃないでしょうか。
少なくともあの執事、少女ではないと思うのですが。
「……もしかしたら、少女に変身したりもできるかもしれませんね」
「そうなんだよ~! 執事は世を忍ぶ仮の姿、しかーし! その正体は魔法少女エリリン! 世界がピンチの時には悪の組織と戦ってるんだよっ!」
「私が見た時には竜騎士っぽい恰好でしたが」
あの時の事は今でも忘れません。
テトリス一本勝負でお嬢様に瞬殺され、罰ゲームとして伝説の巨大魚を釣りに行かされた屈辱。
幸いにもすぐ釣れましたが。
しかしあの時、私は見たのです。
あの執事が、竜騎士っぽい姿でゴブリンの群れを一掃するのを。
「りゅ、竜騎士系魔法少女!? 新しい、エリッくん新しいよ!」
「ステの中途半端感がやばそうですね」
そういえばあの執事、魔法らしきものを使えるんですよね。
しょっちゅう分身してますし、戦闘能力が未知数です。
そんな意味不明ながら強い力を持つ執事が解決できない問題――女王の呪いとは。
「お嬢様、写真の男は解析できましたか?」
他国から入手した、何代か前のこの国の王の写真。
画質は粗く判別できなかったが、あの執事らしき男が写っていた写真。
「あれは無理だよ~。アナログモノクロで新聞の切り抜きを撮ったやつだもん。でもオリジナルがあるかもしれない場所は見付けたよ? このお城の地下、設計にはないすっごく広い空間があるみたい」
「よくある事ではないですか? どんな国の国家中枢だって地下にシェルターなり線路があるものでしょう」
「赤外線で見た感じ書庫みたいなんだよね。国会図書館みたいな感じかな。でも、それなら隠す必要ないと思わない?」
「おもしろそうですね。行ってみましょう」
「いぇーい! ついに私も魔法少女になれるかもっ!」
いくつもの隠し通路を通り抜け。
いくつもの罠をくぐり抜け。
真っ暗な螺旋階段を下りた先には、真ん中にぽつんと宝箱が置かれた、小さな部屋がありました。
「見るからに怪しい宝箱ですね」
「うん。それ、触っちゃだめだよ。微弱だけど生体反応が見える。この部屋の壁の向こうに書庫があるはず」
「……普通の壁にしか見えませんが」
「そうなんだよね~。かなり分厚いんだけどね~」
謎スコープを覗きながらお嬢様は困ったように言いました。
ちなみにこのスコープもお嬢様の発明品です。何が視えているのか分かりませんが、おそらく何でも視えているのでしょう。
「仕方ないですね。ぶち破りますか」
「そうだね。仕方ないね」
何でも視えているならば、いくら厚くても見た目通り石壁のはず。
トラップらしき宝箱を避けて近付き、触れてみても確かに石壁。
繋ぎ目に妙なところもない。ノックをしても返事はない。
「何回ぐらいでいけそうですか」
「五回だね。……痛かったらやめてね?」
「痛覚ぐらいオンオフできるようにしてくれませんか?」
「だってそんなのメイドロボじゃないもん」
お嬢様のメイドロボ定義が未だに分かりません。
歳は取らないのになぜ髪は伸びるのでしょう?
ま、考えても仕方ありません。
さて。
やりますか。
「メイドパーンチッ!!」
※物語の途中ですが、ここでマリーから重要なお知らせです。
私は決して、好んで必殺技を叫んでいるのではありません。
叫ばないと発動しない仕様なのです。そう、これもお嬢様のメイドロボ定義。
繰り返します。決して好んで叫んでいる訳ではありません。
ちなみにメイドパンチとは、要するにすごい正拳突きです。
深く腰を落とし、右拳を勢いよく突き出す、あれです。
※以上、流れをぶった切ってまで訴えておきたかったマリー・シュバインタインからお知らせしました。
「メイドパーンチッ!!」
轟音が響き。
部屋が震え。
激痛が走り。
「――――ッ!!」
それでも、壁には傷一つ付いていませんでした。
「マリー!! 大丈夫っ!?」
「……大丈夫、です。それにしてもこの壁、お嬢様のドリルでも無理そうですね」
「――そうだね。この壁にも、魔法少女の力が秘められてるのかも」
魔法、少女?
ああ、なるほど。
確かにあの執事なら、開けられるかもしれない。
「今度また、エリッくんと二人で来てくれる? まなみはマリーのレンズから見てるから」
「……どうしてお嬢様は来ないんです?」
「それは秘密」
私の手の具合を確かめながら、お嬢様は嬉しそうに言いました。
……まったく、異性としての興味はないと言っているのに。
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