女王様と一計

 長い髪は黄金の絹。青い瞳は海の宝玉。肩も露わな純白のドレスがとてもお似合いで、あくび顔すらお美しい。あと呪われかわいいロバ耳ね。見慣れてきたから忘れがちだよ。

 はい。どうやら今日もエリサ様は暇を持て余している模様。

 そこで僕は一計を案じた。

 以前エリサ様が弱って寝込んだ時、僕に添い寝しろと言っていた。思い出してからは死のうと嘆いていたが、僕が二人に見えていたと知った途端ケロッと気にしなくなった。

 つまり、エリサ様の前で『もう一人』を呼べば、手を繋いたりできるんじゃないだろうか?

 弱っていると錯覚させる事でデレてもらおうという逆転の発想。

 普段の僕の立ち位置は玉座の右、なので左に『もう一人』を召喚。


「という訳で『もう一人』を呼びました」

「何だよという訳ってよ。何の説明もなかっただろうがよ」

「逆です逆。左を見てください」

「左? あれっ、お前素早いな」

「えっ」

「えっ?」


 ……僕が素早く移動したと思ってるのか。この人は声の位置とか気にしないタイプなのかな?


「では今度は右を」

「おおぅ。いや、お前が素早いのは分かったから余の後ろをちょろちょろすんな」

「それでは二人合わせて同時に前へ」

「はいはいすごいすごい。二人に見えてる見えてる。だからどうしたっつーんだよ」

「えっ」

「お前さっきから何してんの?」


 もしかして、残像だと思ってる……?

 だとしたらそれはそれですごいはずだけど、エリサ様には分からない……?

 いきなり難題にぶつかった。

 バカを相手に僕が二人いると証明するにはどうすればいいのか。


「見てください肩車です」

「はいはいすごいすごい」

「……これは残像だとできないと思うのですが」

「じゃあ二人いるんだろ。実は双子だったとか」

「!?」


 ちょーっと前まで僕が二人いたらビビっていたはずなのに!?

 過去は過去、毎日私は新しい私。ってか!? やかましいわ!!

 では逆に『もう一人』を目の前で消してみる。


「これで双子説は消えました」

「どうせ後ろにぴったり隠れてるんだろ? つまらんつまらん」

「隠れてないですよ! ほら、ほら!」

「おーすごい見事なシンクロ」

「違いますよ! じゃあ僕の周りをぐるっと回ってみてくださいよ!」

「やだよめんどくさい余に命令するとか何様だよ。お前が余の周りを回れよ」

「かしこまりました」


 ぐるり。

 意味がない。

 知ってた。


「私はエリサ様にびっくりしてもらいたいのですが」

「何で」

「それはちょっと言えないのですが」

「お前のくせに余に隠し事とはいい度胸だな。ま、余はお前が何隠してるか知ってるけどな?」

「!?」


 まさか企みがバレていたと!?

 だから全然驚かなかったって事なのか!?

 いやまさか、バカなエリサ様に限ってそんなはずは。

 しかしエリサ様はしたり顔でにやにや笑っている。これは確実に何かを知っている顔だ。


「お前、マリーと付き合ってるんだろ?」

「は?」

「マリーはお前と違ってちゃんと報告してきたぞ。ほら、画像付きで『私達付き合い始めました』って」

「ほへ?」


 ずいと寄って向けられたスマホの画像を見てみると、ラブラブにデコられた僕とマリーのツーショット。かなり巧妙な合成画像。

 すーっと下がってマリーに電話。


『この電話は現在使われておりません』

「おっさんみたいな第一声やめろ! てかエリサ様に送った画像あれ何!? 意味も目的も分からないよ!」

『どれの事でしょう。付き合い始めましたのやつですか』

「何それ他にもあるの!?」

『ド変態と付き合うようになった流れっぽいのをいくつか』

「やめてよそういうの! エリサ様バカなんだから本気にしちゃうでしょ!」

「ちょっと待てお前! 余はバカじゃない! バカじゃないから!」

「失礼いたしましたぺこりん!」


 何だ何だよまったく意味が分からないよ。マリーの目的がさっぱり分からない。


『ところでド変態、付き合い始めましたの画像送った時の女王の反応、知りたくないですか』

「すごく知りたい教えて教えて」

『そういえば最近じゃがりもの新しい味が出ましたね。オイルサーディン味』

「分かったあとで好きなだけ送るよ! だから教えてよ!」

『ではスクショを送りますので。ファッキュー』

「何で罵倒したの!?」


 待つ事五分。

 いや待たせ過ぎだろ。マリーの事だからスクショも用意してただろ。

 無駄に待たせるとかほんとやめてほしい。

 で、届いたスクショを見てみるっと。


「ちょっとエリサ様! 『へー』って何ですか『へー』って! もうちょい何かありませんでしたか!?」

「別にねぇよ。あ、おめでとう」

「めでたくないですよ! これ嘘ですから! 画像は偽物、私とマリーは付き合ってないですから!」

「ふーんそうなんだ」

「リアクションがうっすぅーい!」


 うっすうすのぺらっぺらだよ! 僕への興味ミクロンレベルなのカナ!?


「別にいいじゃん。付き合っちゃえよ。ロボ同士お似合いじゃねえか」

「ロボ!? マリーはロボですが私はロボじゃないですよ!」

「えっ」

「えっ」

「はあぁ――――――ッ!?」


 すっとんきょうに叫んだと思ったら、エリサ様は目を見開いて絶句してしまった。


「……もしかして今の今まで私をロボだと思ってたんですか?」

「違うの!? でもマリーが言ってたよ!?」

「一番確度の低い情報源を根拠にしないでください! 私はロボじゃないです!」

「えっ、ちょっと待ってえっ? じゃあ何なの? お前何なの?」

「当たり前に人間ですよ!」

「……ばたんきゅー」

「わあぁエリサ様が気絶したー!」


 このあとエリサ様は寝込んでしまった。

 男として見られてないとは思っていたが、人間とも思われてなかったらしい。


 ……今回はこのへんでいい? 少し泣いてくる。

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