女王様と退屈

 長い髪は黄金の絹。青い瞳は海の宝玉。肩の露わなドレスと呪われかわいいロバ耳が今日もお似合いエリサ様。

 という訳で今日も何する訳でもなく謁見の間です。


「エリック、何かおもしろい事言え」

「いきなりのムチャ振り」


 どうやらエリサ様は暇を持て余している模様。ルーチンワークで謁見の間にいるけど萌え耳のせいで誰とも会わないし、これといって趣味のない人だし。


「ゲームはどうされたんですか。狩りゲーやってたじゃないですか」

「ずっとメンテ中。さーばーがはっきんぐ? らしいんだけどよく分からん」

「そんな事があるものなんですね」

「はっきんぐしてるのまなみちゃんらしいんだけど」

「まなみちゃん何してるの!?」


 そう言えば久しぶりに会った時もメカメカしい格好で近衛兵倒してたし、部屋は謎の機械でいっぱいだったし。機会があれば聞いてみよう。


「だからさっさとおもしろい事言え」

「うまくかわせたと思ったんですが。ではエリサ様、ピザって一〇回言ってみてください」

「は? めんどくさい。お前が言え」

「ピザピザピザピザピザピザピザピザピザピザ。ではエリサ様、ここは?」

「肘」

「ですよね」

「何それ全然おもしろくねえんだけど?」

「協力する心! エリサ様、トークはキャッチボールです。私がボール投げてるだけじゃ成立しないんですよ。少しぐらい協力して頂かないと」

「分かったからおもしろい事言え」


 全然分かってらっしゃらない。大体おもしろい事言えって言われておもしろい事言える人なんているの? トークでお金頂いてる人達だって難しいと思うなぁ。

 しかし、エリサ様が望むのならばそれを叶えるのが僕の役目。こういう事もあろうかと準備はしてある。


「謁見の間は今日も閑古鳥、お客様はエリサ様しかいらっしゃいませんが、逆に言えばエリサ様だけにお話しするとっておきの一席でございます。昔は昔その昔、ジョンという魚屋が住んでいました。腕のいい魚屋ではありましたが毎月の家賃の払いもままなりません。たいそう酒が好きで好きで、稼ぎはみんな酒代にいってしまうのです。歳末も近いのというのに今日も酒を飲んで寝てしまいました。さすがにかみさんもたまりかねて『ねえおまえさん。起きとくれ! 魚河岸に行っとくれよ』『おい夜中に大声出すなよ。いい気持ちで寝てたってえのに』『じきに夜が明けるよ。仕事に行っとくれ』『まだ暗いじゃないか。もう一眠りさせやがれ』『もう! 歳末も近いっていうのに仕事もしないでまったく。どうやって借金返そうって言うんだい』『言われなくたってわかってらあ。うちだけ歳末が近いってわけじゃねえや』『何言ってんのさおまえさん、ぐずぐずしないで早く行っとくれ!』ジョンは寝ぼけた様子で回りを見回し」

「待ってちょっと待って」

「いかがなさいましたか」

「長ぇよ!! もっとパッと言ってサッとおもしろい話にしろよ!」


 まったくわがままだなぁ。島国の落語、僕のテッパンなのに。


「そう言えばこの前、ある国の王族のおもしろい話を聞きまして」

「そうだよそんな感じだよやればできんじゃねえか。ある国の王族の。それからどした」

「女王様にロバ耳が生えてるらしいんですよ。ププーッ!」

「余! それ余だよ! 全然笑えねえよ!! 何だてめえおもしろがってんのか!?」

「まぁぶっちゃけ?」

「おいこらてめえ!! 薄々分かってたけどハッキリ言うなよ! あとタメ口やめろ!」

「失礼いたしました。しかし、気にし過ぎもよくないのでは。いっそ笑い話にしてしまった方が気も楽かと思います」

「それお前がロバ耳生えてねえから言えんの! 想像してみろよ自分にロバ耳生えてる感じをよ」

「お断りします」

「想像ぐらいしろ! そこ否定したら話転がらねえだろうが!」


 もわもわもわ~ん。


「私にロバ耳は似合いませんでした」

「そういう問題じゃねえの。髪とかす時すげえ邪魔。あとシャンプー入ったらすげえ痛い」

「真にロバ耳生えてる者にしか分からない悩み」

「そうだぞ。お前以外に会う時王冠被んなきゃなんないし。地味に王冠重いし。引っ張ったらこれまたすげえ痛いし」

「え、何で引っ張ったんですか」

「引っ張ったら抜けるんじゃないかと思って」

「私も引っ張ってみてよろしいでしょうか」

「いい訳ねえだろバーカ!! 何でこの流れでイケると思ったんだよ!」


 さすがに無理があったか。一度ぐらい触ってふーってしてぺろぺろしたいのだが。


「ちなみにエリサ様は何かおもしろい話などございますか。いや失礼、もちろんありますよね。世界で一番美しくしかも何でもできちゃうエリサ様ですから、爆笑必至の持ちネタぐらいありますよね失礼いたしました」

「あっ、当たり前だろ! 余を誰だと思ってんだ。余だぞ!」

「それではお聞かせ願えますか」

「……ちょっと待ってちょっと時間欲しい」

「まさか今から考えるとか」

「そんな訳ねえだろ! テッパンネタが多過ぎてどれにするか考えてんだよ!」

「では一番おもしろい話をお願いします」


 うーん考えてる考えてる。エリサ様ったらほんとチョロいなぁ。

 どんなつまらない話でも僕は笑ってあげますよ? さあ来いほら来いどんと来い。


「……ある国の王族の話なんだけどさ」

「ほうほう。ある国の王族の」

「……そこの女王、頭からロバ耳生えてるらしい」

「あはははははははは――――――っ!!」


 まさかの自虐ネタ! しかも被せ!

 エリサ様ったら思ったよりやりよるでしかし!


「てめぇ笑ってんじゃねぇ――――――ッ!!」

「ふっき、腹筋が、腹筋が死ぬっ! ふひひっ!」


 このあとすごい怒られた。

 理由はよく分からない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る