メイド様と地下の大書庫
お城の地下深く更に奥深く。明りの類は何もなく、響くのは階段を降りる二人分の足音だけ。
「まさか大書庫の存在まで嗅ぎ付けるとは驚きだなぁ」
「メイドですから当然です」
僕の後ろを歩くのはマリー。口が悪い青髪のメイドロボ。
大書庫の存在はエリサ様にも伝えていない。きっとまなみちゃんがどうやってか探し当てたんだろう。
「おや、宝箱がありますね」
「フェイクだよ。ここまで潜って何もないんじゃ逆に怪しいからね。開けたら僕に伝わるようになってる。……さて、ここだ」
一見すれば何の変哲もない壁。よく見てもただの壁。だがこの向こうに地下書庫はある。
開くのに最新のシステムも精巧な技術もいらない。
ただ、誰にも開けられないぐらい重いだけ。
懐中電灯を口にくわえ重い隠し扉を押し開けると、大きな空間が広がっているのが分かる。
「明りつけるからちょっと待っててね。懐中電灯いる?」
「ド変態グソクムシの唾液が付着したモノを持てと? セクハラで訴えますよ」
「ド変態グソクムシでゎない! じゃあいいよ!」
暗闇の中ローソクに火をつけて回ると、マリーはもう勝手に本を手に取り立ったまま読み始めていた。
「だけど、本当にエリサ様の呪いを解く鍵がこんなところにあるの?」
「私達の読みが正しければおそらくは。国の起りから書かれたものはどこですか」
「そんなの知らないよ。別に興味ないし」
「管理しているのはあなたでしょう。女王の執事が知らないはずありません」
「ほんとに知らないってば。僕はエリサ様の執事であって、国の歴史なんか興味ないもん」
「まさにそこです」
そう言ってマリーは本を棚に戻し、階段に座る僕を見上げてきた。
「あなたは事実上この国を統べる立場にいながら、女王個人を重要視しています。仮に国の存亡と女王を天秤にかけた時、あなたは迷いなく女王を選ぶでしょう」
「そりゃそうだよ。エリサ様大好きだもん。マリーだって母国とまなみちゃんだったらまなみちゃん選ぶでしょ?」
「自分の命と女王の命なら」
「もちろんエリサ様だよ。愛するってそういう事でしょ。で? それと呪いとどういう関係があるの?」
マリーとまなみちゃんの捜索力はすごいけど、見当違いな向きで探しているような気がしてならない。
それとも何か企んでいるのだろうか? そうは思いたくないな。
「それを確かめるためにここへ来たのですが。本当にどこにどの本があるか分かりませんか? 今なら何でもしてあげますよ」
「ほんとに知らないしマリーには呪いを解く方法しか求めてないよ。エロ系なんかマジいらないからね。勝手に脱ぎ始めたらここに閉じ込めるよ?」
「ローソクの位置は正確に覚えているのに?」
「だからっていちいち本まで読まないでしょ」
そんな疑うような目で見られてもなぁ。
女王なんてただの肩書じゃないか。僕はエリサ様というバカかわいい人を愛してるんだよ。
「分かりました。ではメイド達を総動員して探します」
「別にいいけど、持ち出し厳禁だよ。あと丁寧に扱ってね」
そう返すとマリーは出口からさっさと出ていってしまった。ここではスマホの電波も届かないからだろう。
僕も謁見の間に戻ろう。こんなところに用はない。
指をパチンと鳴らし、灯したローソクの火をすべて消した。
謁見の間に戻ると、エリサ様はスマホで動画を見ているようだった。
「お待たせしました。何の動画見てるんです?」
「別に待ってねぇけどな。おめシスの動画。かわいい。すげーかわいい」
「おめしす?」
「島国のブイチューバー。まなみちゃんが教えてくれてこの国の字幕もつけてくれた。リオちゃんすげーかわいい。レイちゃんハンパねぇ。マジやべーな島国」
「ほうほう」
ブイチューバーなるものは聞いた事がある。島国独特の謎文化だ。
エリサ様が興味を持ったなら僕も勉強しておかないと。余もやりたいとか絶対言い出すだろうし。
「つーかお前、地下の本がいっぱいあるとこ行ってたんだろ? マリーから聞いたぞ」
「あれ? エリサ様、大書庫行った事ありましたっけ?」
「何だお前、覚えてねぇのかよ」
動画を見ながら、エリサ様はさして興味もなさそうにそう言った。
しかし不思議だ。まるで僕と大書庫へ行ったような口振りじゃないか。そんなイベントがあったなら僕が忘れるはずないのに。
ま、エリサ様だし記憶なんてどっちらけだろう。きっと本屋とかと混同してるに違いない。さすがエリサ様クオリティ。
「そういやお前あん時、何で余が宝箱の中に隠れてるってすぐ分かったんだ?」
「……!?」
変わらず、エリサ様は楽しそうに動画を眺めていた。
地下で、本が沢山あり、かつ僕と繋げた宝箱があるのは大書庫だけだ。
「うんちスプレードッキリやべーな……余もやりたい……」
「エリサ様、それっていつの話です?」
「うるせぇな。今おめシス見てんだから黙れ」
「……お口ジャックじー」
僕が忘れてるっていうのか? 本当に?
エリサ様との大切なメモリアルを? この僕が?
もしかしたらマリー達は、見当違いな場所を探している訳では、ないのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます