女王様とお忍び

 青い瞳は海の宝玉、流れる髪は黄金の絹。肩も露わな白いドレスがお似合いで、今日も最高に美しいエリサ様。あとロバ耳。

 今日も今日とて謁見の間です。


「女子会楽しかったなー」

「そうですね。まさかあれがああなってああなるとは思いもよりませんでしたが、おおむね楽しかったですね」


 ま、僕は二度とやりたくないけどね。無限の残機がゼロになるところだったよ。


「余、もっとみんなと遊びたい。だから早く何とかしろ」

「……? 何をでしょうか?」

「これだよこれ! ロバ耳だよ! 当たり前のように受け入れてんじゃねーよ!」


 あー。

 確かに。エリサ様はそういう存在だと思いつつあった。

 違和感まるで仕事してない。


「でも、そろそろ慣れてきたんじゃないですか? お似合いですし、なくなったら萌えポイントがちょっと減るまであります」

「確かに慣れたけど! でも何? お前ロバ耳がなくなったら余のかわいさが目減りするとか思ってんの?」

「あり得ませんね。エリサ様はいつでも最高にお美しいです」

「そうだな? じゃあ無駄に重い王冠もめんどいし、外出の時のニット帽もあったかくなってきたらどうすんだって話だろ。つまりロバ耳はない方がいい」

「なるほど理解」


 珍しくエリサ様が理路整然と正しい事を言っている。槍の雨でも降るんじゃないだろうか。


「分かったらさっさと余を呪ったやつを探しにいけ」

「かしこまりました。では参りましょう」

「は??」



 という訳で街に下りてきました。エリサ様はニット帽に眼鏡、パーカーにジーンズのお忍び有名人スタイルで。ちなみに僕はいつも通りです。


「は?? 何で余まで一緒なの? お前一人で探せよ!」

「相変わらず素晴らしい時間差ツッコミ」


 服着替えて街まで下りてきて、満を持してツッコむっていうね。そんじょそこらの女王じゃこんな芸当はできないよ。


「いえ、これにはちゃんとした計画があるのです」

「おうどんな計画だ言ってみろ」

「ロバ耳呪いをかけたやつはエリサ様に私怨を抱いていると思われます。ロバ耳にしてやったぜくっくっく、はーはっはっはっはーっ! な訳です」

「まぁそうかもしれねえな」

「しかし! ロバ耳で困ってるはずのエリサ様が普通に街を歩いてたらどうでしょう。ぐぬぬ、こんなはずでは! もっと強い呪いをかけてやるぜ! と、こうなると思うんですね」

「駄目じゃねーか! いよいよ余がロバになっちまうだろうが!」

「そこでです! 呪ってるやつはこう、あからさまに呪ってる訳ですから! そこを敏腕執事たる私がササっと華麗に! とっ捕まえるという寸法です!」

「うん……?」


 おやエリサ様は納得いってないご様子。

 一体この完璧な計画のどこに疑問があるというのか。


「だったら、分かりやすくドレスで出てきた方がよかったんじゃね?」

「何を仰いますか。エリサ様はこの国のアイドルですよ? 普段通りのドレスでは一目瞭然エリサ様、全国民が押し寄せてパニックになってしまいます」

「でもこの格好だったら誰も気付かなくね?」

「何を仰いますか。相手はエリサ様の熱烈なアンチですよ? どんな格好であれ必ずエリサ様と見抜いてきます。もはやエリサ様だと気付いた者が犯人と言っても過言ではありません!」

「よく分かんねぇけどまあいいや。つまりテキトーにぶらついてたら犯人捕まるんだな?」

「間違いありません!」


 それから二時間後。

 僕はハンズで買ってきた板とかでトンテンカンテン看板を作っていました。


「おいエリック、おい。聞いてんのかてめぇ」

「少々お待ちください。もうすぐ完成しますので」

「だーれも気付かねーじゃねぇかよ! どういう事だこれはよ!」

「ちょっと変装が完璧過ぎたようです」

「それでもおかしいだろ! 余、この国の女王だよ!? 一番偉くて一番かわいいの! なのに眼鏡一つで誰にも気付かれねぇのは逆におかしいだろ!」

「属性の不一致です! 眼鏡エリサ様はそれはもう最の高ですが、一般には認知されておりませんので! 時代が! まだ追い付いていないのです! という訳ではい完成!」


 用意したのは大きくエリサ様と書いた手持ち看板。

 これを僕が持って街を練り歩くと。


「おう! それなら一発で余って分かるな!」

「私もそこそこ知名度ありますし、信用度も問題なし! すぐ本物のエリサ様と気付いてもらえるはずです!」

「よーし! リベンジだー!」


 それから更に二時間後。

 謁見の間に戻ってきました。服も着替えたよ。


「くっくっく、はーはっはっはっはー! やっぱり余は人気者だな! みんなから超かわいい超かわいいってな! 最高だったな! 余、最高!」

「エリサ様がご満足なら何より……ぐふぁ」

「で、お前は何で倒れてんの?」

「嫉妬、ですかね……ごふぁ」


 エリサ様がキャーキャー脚光を浴びている裏で、僕はボコボコにされていた。

 常にエリサ様のおそばにいるのが羨ましいのは分かるけど、ここまでする?

 おっとまだナイフが刺さってた。ぽいっと。


「頭に斧刺さってるけど」

「これは失礼。ぽいっと」

「しっかし楽しいなー! 余、またやりたい! 定期的にやりたい!」

「……あまり頻繁にやるとレア感薄れますから、また皆が忘れた頃に。今度は準備もちゃんとして」

「そうだな! 次はどんなコスプレしようかな~♪」


 エリサ様がご機嫌よろしいようで何より。

 目的を忘れてるけど、いつもの事だからいいとして。

 そんな事より、僕は思った。


 熱烈なアンチに恨まれているのは、もしかして僕のほうなのでは?

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