女王様とブイチューバー
長い髪は黄金の絹、大きな瞳は海の宝玉。肩も露わな白いドレスがお似合いで、ロバ耳かわいいエリサ様。の王冠着用バージョン。
今日も今日とて謁見の間です。
「余、ブイチューバーになりたい」
「知ってた」
前回ブイチューバーの動画観てましたからね。当然そう来ると思ってました。
だから僕もブイチューバーをいっぱい観て、動画編集も勉強した。
簡単そうに見えて、その実ブイチューバーになるのは大変だ。
お手軽にスマホだけでできるものもあるが、エリサ様は満足しないだろう。なので企業レベルの機材も揃えたし、編集の方法も勉強した。
何本もおもしろい企画を考えるのは大変だし、個人の場合だと更に演者も自分でやらなきゃいけない。喋りも大切、編集も大切。
楽しそうに見えて眠れない夜もあったろう。
頑張ってるブイチューバーさんマジリスペクト。
僕はすべてのブイチューバー、並びにその関係者を尊敬しています。
「じゃ、エリサちゃん試しに撮ってみるね~」
「うん、まなみちゃんありがとー」
「おやおやおや?」
いつの間にかちっちゃいカメラを構えたまなみちゃんが。
エリサ様も呪われかわいいダンスを踊り始めたし。
これは一体どうした事だろう。
「まなみちゃん、何してるの?」
「ブイチューバーエリサちゃん撮ってるんだよ?」
「そのちっちゃいカメラで?」
「うん。こっちが撮影ボタン、こっちが編集ボタン、こっちが企画ボタン。で、この赤いのが全部の停止ボタンで、この青いの押したら投稿できるよ」
「………………」
何という事でしょう。僕が必死こいて勉強しているあいだに、まなみちゃんは動画投稿の概念を覆す機械を発明していました。趣味でメイドロボを作っちゃう天才は考え方の次元が違う。
カメラの背面を見れば、キモかわダンスを躍るエリサ様がバッチリ映っている。
「あれ? でもこれ実写だよね。残念だけど謁見の間、撮影NGなんで」
「違うよCGだよ? 解像度はモニタをほら、こうやってすーって」
「うわ、急にポリゴンちっくになった」
「そして手を離すとこう」
「カメラから翼生えた!?」
小さな翼を生やしたカメラがエリサ様の周りをぐるぐる飛び始めた……。
「エリサちゃーん。何か声ちょうだーい」
「ボエ~~~~~~~~~~~~~~~」
「おっけーありがとー」
「ボエ~~~~~~~~~~~~~~~」
「今ので声が撮れたから、企画ボタンから好きな企画選んで、編集ボタンで好きな編集選んで、あとは青いの押したら動画投稿できるんだよ」
「!?」
カメラが戻ってきたので試してみた。
すごい。これはすごい。
もはやエリサ様を撮る必要もなく、企画を考える必要さえない。
何から何を感知しているのか、編集ボタンを押すとちょっと違うなって部分がぴったりいい感じになる。
モニタをタッチすれば背景や衣装が変わる……いい感じに……。
「おー。ちゃんと余がブイチューバーになってる。まなみちゃんありがとー!」
「えへへ。これぐらいお安いご用だよ~」
「………………」
確かにすごい。でも何かが違う。何が違うのか分からないけど、納得がいかない。
「失礼ながらエリサ様、ご自分で考えて喋らないと意味がないのでは」
「は? 意味ってなんだよ。ちゃんとおもしろい動画撮れてんだろが」
「普通に撮る事もできるよ? 生配信とかそういうの大事だしね」
「しかし、企画すら自動だとエリサ様である必要が……」
「うるせえなぁ。余じゃん。余がモデルで、余の声じゃん。おもしろいの撮れてるんだからそれでいいじゃねえか」
「エリッくんは何が不満なの?」
……これでいい、のか?
よく分からなくなってきた。ブイチューバーって何なんだ。
「自動投稿機能もあるよ? 最も閲覧数が稼げると想定される日時に自動的に配信されます。マリーで試したら三日で登録者数一〇万人突破しました!」
「すごーい! 余もすぐすぐ大人気ブイチューバーだ!」
「マリーの場合は私生活に支障をきたすからモデルも声も全然違うのにしたけど、エリサちゃんは女王だしこのままで大丈夫だよね?」
「だいじょぶだいじょぶ! 全然問題ない! フッフゥー!」
「……モデルも声も全然違うのにできるなら、もはや中の人などいらないのでは?」
「ブイチューバーに中の人なんていないよ?」
「!!」
そうだった。ブイチューバーに中の人などいない。
動画の中にいる存在そのものが実在。中の人などいない。
ブイチューバーの火付け役となった四天王の一人だって超高性能AIを自称してるんだから、モニタに映るエリサ様っぽい彼女こそ真のブイチューバーだ。
「どうやら既成概念に囚われていたようです。何も問題ないですね!」
それから三日後。
「動画おもしろいけど、余は別におもしろくねぇな?」
「ですよね」
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