女王様と海

 長い髪は黄金の絹、大きな瞳は海の宝玉。肩も露わな白いドレスがお似合いで、今日もロバ耳かわいいエリサ様。

 今日も今日とて謁見の間です。

 おや、エリサ様が遠い目をしていますね。口も半開きですごくバカっぽい。

 そんなところも含めて僕はエリサ様が大好きです。


「余、海行きたい」

「よりによって一番無理なやつ」


 バカ過ぎてついに忘れたんですかね? 頭にロバ耳生えてるんですよ?

 今のエリサ様には宇宙より無理です。


「海は広くて大きいらしい。余、海行きたい」

「どうやら今まで知らなかった模様」


 すごくないですか。エリサ様、これでも十代後半なんですよ。

 逆にどうやって知らずに生きてこれたんですかね? しかも女王なのに。

 とにかく海へは行けないので早々にこの話は終わらせましょう。


「失礼ながらエリサ様、内陸国ってご存知ですか?」

「ないりくこく。陸ない国。つまり全部海。余、海行きたい」

「その国沈んでません? 逆です。陸に囲まれて海がないんですよ。で、うちも内陸国なんです。つまり海へは行けません」

「は?? 海がないなら作ればいいじゃん」

「まさに女王」


 さすがはエリサ様、パンの代わりにケーキとは格が違う。

 発想がナポレオンだよ。もちろん悪い意味で。


「まなみちゃん、島持ってるんだって。知ってるかお前。島って周り全部海なんだぞ。余、海行きたい」

「なるほど島」


 趣味でメイドロボを造ったまなみちゃんだ、お金持ちなのは何となく知ってたからツッコまない。

 だが島が借りられるなら海は行けそうだ。

 海と言えば水着だ。水着不可避だ。どうしようエリサ様の水着姿を見た僕の鼻血で海が赤く染まっちゃったら。サードインパクッちゃったらどうしよう。


「いいですね。さっそくまなみちゃんに連絡してみましょう」


 トゥルルルルル。

 トゥルルルルル。


『何かご用でしょうか。どうやら無言電話のようですね。切ります』

「無言電話判定が早過ぎるしそもそも何でマリーが出るの? まなみちゃんのスマホだよね?」

『これは私のスマホですが』


 表示を確認してみた。

 まなみちゃんのアイコンとまなみちゃんの名前が表示されている。


「くだらない嘘を! つくなよ!」


 ツーツーツー。

 既に通話は途絶えていた。

 今度はマリーにかけてみる。


『また無言電話ですか。せめてパンツの色ぐらい聞いたらどうですか。切ります』

「さっき喋ったしパンツの色に興味はないしね。そんな事よりまなみちゃんは? まなみちゃんに用があるんだけど」

『これは私のスマホですが』

「知ってるよ! こっちかけたらまなみちゃんが出るかと思ったの! でも近くにいるんでしょ? スマホあるんだし。ちょっと代わってくれない?」

『色ではなく形状が大事だと』

「パンツの話を広げなくていい! 今はまなみちゃんに用があるの! 暇ならこっち来ていいから今はまなみちゃんに代わって!」

『多忙につきお嬢様は電話に出られません』

「どうせゲームしてるだけでしょ? いいから代わってよ」

『いえ、お電話です』

「そうなの? 誰と?」

『そちらの女王ですが』


 横を見れば、エリサ様が楽しそうに通話していた。


「ありがとー! じゃ、準備できたらまた連絡するね! ばいばーい!」

「島、貸してくれる事になったんですか?」

「おう。お前がマリーとイチャイチャしてるあいだにサクッとな。三人で行くからお前は留守番してろ。余、海行ってくる」

「萌え耳はどうするんですか?」

「は??」


 しばらくポカンとしてから、エリサ様は頭に生えたロバ耳に手を当てた。


「は??」

「は?? じゃないですよ。もしかして忘れてたんですか」

「………………うん。ヤバい、どうしよう、もうまなみちゃんと約束しちゃったのに。どうしようどうしよう」


 まさかの自分のロバ耳忘れるパターン。

 いつか来ると思ってましたけどね。エリサ様すげえバカだし。


「一緒に行かず、島だけ貸してもらえばいいのでは」

「やだよ!! みんなで海に遊びに行くの!! みんなで行くから楽しいの!! 海なんて一人で行ってもただのデカい湖じゃねえか!」

「既に主旨変わってる問題」


 ちなみに、まなみちゃんとマリーには王冠が外れないという事にしています。

 だけど海には行きたい。僕も行きたい。

 何より友達がいないエリサ様が嬉しそうに遊んでいる姿に尊みを感じたい。


「分かりました。私が何とかしましょう。この敏腕執事エリック様に不可能はありません」

「本当か!? じゃあ頼む!! 間に合わなかったら死刑な死刑!」

「かしこまりました。ところでいつ行くんですか?」

「準備できたらだけど」

「つまり今から?」

「そうとも言うな」


 問題ないよ。だって僕は敏腕執事だからね。


 という訳で、次回。

 まさかの水着回。

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