女王様と水着回

 青い空!

 青い海!

 そう、今回は!

 水着回だーっ!


「つーかお前何でいんの? マジで意味分かんないんだけど」

「鞄の中に隠れてました。いつもいつでもエリサ様のおそばにいるのが私の仕事ですから」


 そんなエリサ様、本日はドレスでなく水着でございます。

 全体的にウサギをモチーフにした白ビキニ、そして頭にはウサ耳付き水泳帽。

 そう、ウサ耳部分に収納する事でロバ耳を隠蔽!

 準備でき次第出発なら準備に時間を掛ければいいじゃない! という訳です。


「まぁいいや。それより海だぞ海! ひゅー! 超きれー!」

「エリサ様のほうがお美しいですけどね。くれぐれも帽子は取らないようにしてくださいね」

「そんなの余が一番分かってるわバカ野郎」

「よくお似合いですよ。水着に萌え耳とか僕を殺す気かよ」

「タメ口! タメ口やめろ! ジロジロ見てんじゃねえよ!!」


 二人でよろしくやっていると、来なくていいのにマリーが寄ってきた。黒地に白いフリルが付いたメイドビキニだ。あらかわいらしい。


「お二人ともさっそく大盛り上がりですね。ところで女王様、その不自然過ぎる帽子はなんですか? 頭に何か隠してらっしゃるのですか?」

「は、はっ!? そそそ、そんな事ないよ!? 何にも隠してない、マジで何にも隠してないから!!」

 

 エリサ様、嘘下手過ぎかよ。

 まあいい。想定内。正直僕も不自然だと思うからね。


「僕がそれ被らなきゃ海には行かせないって駄々こねたからね」

「こんなイカれた人間かどうかも分からないロリコンカスがあの国の実質トップ。私なら即ジャンヌダルクですね」

「革命起こさないでよ。あとロリコンでゎない。いつもより暴言ひどくない?」

「あらかじめ申し上げておきますがこの水着は私の趣味ではありません。メイド服を着たロボという観念に縛られているのです」

「あっ、もしかして恥ずかしいの? メイド水着恥ずかしい?」


 以下、マリーの公式設定より引用。

 メイドロボ。メイド業に従事するメイドではなく、メイド服を着たロボ。


 なるほど、システムに組み込まれているのか。

 まなみちゃん、すごいこだわりようだなぁ。


「あれ? そういえばまなみちゃんは一緒じゃないの?」

「そのためにこちらを用意しました」

「ロープ? 何に使うの」

「こうします」


 こうして僕はヤシの木に括りつけられてしまった。


「えっ、何で??」

「お嬢様ー。もういいですよー」

「ほんとー?」


 そう言ってロッジから出てきたまなみちゃんは、白のスクール水着を着ていた。ちゃんと名前も書いてあるようだが、胸がでか過ぎて読めない。

 それにしても。


「エッッッッッッッッッッッッッッッッロ!!!!!」


「次同じ言葉を口にしたら命はないと思ってください。本人はエロくないと思ってるんです。かわいいと思ってるんです。お嬢様を性的な目で見る事は絶対に許しません」

「いやそれ無理じゃね? すごいでかいとは思ってたけど、いや、すごいね。あんなのもう男を駄目にする存在じゃん」


 ロリとセクシーの究極の調和。まなみちゃんは究極のエロ存在と化していた。


「どうやら正気は保てたようですね。特別に目隠しは勘弁してあげましょう。お嬢様のあの姿を見ると大抵の男は理性が崩壊するのですが」

「兵器じゃん。うちの国知らないあいだに兵器抱えちゃったよ」

「エリッくんどうかな? まなみ、かわいい?」


 腰に両手を当て小首を傾げたまなみちゃんは、最高の笑顔だった。


「エッッッッッッッッッッッッッッッッ!!


 …………こうして僕はヤシの木に縛られたまま目隠しをされてしまった。

 みんなで遊んでいるのだろう、弾ける水音、キャッキャと楽しそうな声が聞こえる。


「冤罪だー! 今すぐ開放しろー! 僕は悪くなーい!」


 何をどれだけ叫んでも女の子達のもとには届かないようで、海辺の熱い太陽にジリジリと焼かれながら、僕はただエリサ様のウサ耳帽が取れやしないかだけを心配していた。


 それからどれぐらい経っただろう。

 もう汗も出ず、声も枯れた。


「……僕はここで死ぬのか。せめて一度だけでもエリサ様の耳をはむはむしたかった」

「クッソくだらない最後の望みですね」


 すぐそばでマリーの声が聞こえて、目隠しが解かれた。久しぶりの日差しに目が眩んだ。

 マリーはじっと僕の目を見ていた。

 海を見ればエリサ様とまなみちゃんがビーチボールで遊んでいた。幸いにもウサ耳帽は問題なさそうだ。


「僕は許されたのかな?」

「変態ロリコンド畜生が許される日など永遠に来ません。それより、確かめたい事があります」

「変態ロリコンド畜生でゎないけど、何かな? 答えたらロープも解いてくれる?」

「自力で脱出しないのはなぜですか」


 少しも目を逸らさず、マリーは探るように僕の目を覗いてきた。

 ……なるほど。そう来たか。

 エリサ様の不自然過ぎるウサ耳帽について聞かれると思っていたけど、そうか。

 目線を切り、再びエリサ様を見た。

 とても楽しそうだ。永遠に守りたい――守らなければならない笑顔だ。


「……ここは国外だからね。国境の外だと僕は普通の執事。そういうこと」

「なるほど。自国内でなければ人外めいた力は発揮できないと」


 ペットボトルのふたを開け、マリーは僕の頭に冷たい水をかけてきた。生き返るような心地よさだ。

 それから半分ほどになったペットボトルの飲み口を口に当ててくれた。

 ごくごくと冷たい水を飲み干すと、渇いた身体に力が戻るのが分かった。


「あなたは、何者なのですか」

「エリサ様の敏腕執事だよ」


 マリーの目は動かなかった。何も言わず、彼女は待っていた。

 もちろん、こんな答えで納得してくれるとは僕も思っていない。

 しかし、どう答えればいいのだろう。

 彼女がよその国の人間だからとか、そもそも人間じゃないからとか、そういう問題ではない。

 そうした意味でいえば、僕はマリーを信用している。

 興味本位という彼女の行動原理は、明確で裏がない。エリサ様の呪いに関しても、きっと興味だけで全面的に協力してくれるだろう。

 エリサ様のためならば、エリサ様が傷付かない範囲ですべて明かしてもいい。

 だから僕は、僕自身のことに関しても、答えたくない訳ではなく。


「僕にもよく、分からないんだよね」


 僕は普通の人間ではない。人間かどうかも、きっと疑わしい。

 しかし、では何者かと問われると、実のところ、僕自身。


「そうですか」


 疑う様子もなく、それ以上問い詰める事もなく、まるで僕がそう答えるのを分かっていたかのように、マリーは短くそう言った。

 そう言って、身体を縛っていたロープを解いてくれた。

 思えば彼女は初めから、聞きたいことではなく、確かめたいことがあると言っていた。

 メイド風のビキニを着けたマリーの身体は上から下まで、とてもロボットには見えなかった。


「干からびて死なれても困りますからね。ロッジで休んでいてください。詳しい話は帰ってから聞かせてもらいましょう」

「マジで? もっとエリサ様の激レア水着姿を堪能したいんだけど?」

「お嬢様に近付くことは絶対に許しません」


 細腕に捕まれ軽々と肩に担がれ、ロッジの中に投げ捨てられた。閉ざされた扉からガチャンと音がした。どうやら鍵を締められたらしい。起き上がり扉に向かったが、内側に鍵らしきものは見当たらない。


「冤罪だー! 今すぐ開放しろー! 僕は悪くなーい!」


 扉をドンドン叩きながら叫んでいると、外からマリーの声が聞こえた。


「海なんていつでも来れますよ。生きてさえいれば。女王が妙な帽子を被らなくて済むようになったら、また来ればいいのです」


 それきり、マリーの声は聞こえなくなった。大切なお嬢様のところへ戻ったのだろう。

 僕は騒ぐのをやめ、冷たい床で大の字に寝そべった。

 生きてさえいれば、か。

 確かにその通りだ。

 エリサ様の呪いが解ければ、海だけでなく、いろんな美しい世界へ一緒に行くこともできるだろう。


 生きてさえいれば。

 なんだか不穏な言葉な気がしなくもないが、そんな事より安心してほしい。


 水着回は、次回も続く。

 意味ありげで重たげな話は終わり!

 次回はちゃんとキャッキャウフフでちょっぴりセクシー、かわいく楽しいみんなの水着回だから! 楽しみにしててね!


 モデル体型エリサ様のウサギモチーフ白ビキニ!

 クール系マリーの不本意メイドビキニ!

 爆乳ロリまなみちゃんの白スク水!


 わくわくがとまらねぇな!!

 僕目線じゃないのがおおいに不満だけどね!!


 ……ポロリもある、かも?


 乞うご期待。

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執事様と女王様 ~女王様の耳はロバの耳~ アキラシンヤ @akirashinya

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