女王様と狩りゲー
長い髪は黄金の絹。青い瞳は海の宝玉。肩の露わな純白のドレスから覗く鎖骨ぺろぺろ。みんな大好きエリサ様と今日も謁見の間からお送り致します。
「よっしゃ獄炎竜の牙ゲット。もうすぐ獄炎装備が完成するぞ」
「エリサ様、宝物庫からデカい剣を見つけてきたのですが」
「余、今忙しい」
何てこったい。デカい剣はロマンっていうから苦労して見つけ出してきたのに。これ勇者しか抜けないやつですよ? 僕でも抜けなかったから勇者を召喚して抜いてもらったんですよ?
なのにエリサ様ったら現実よりもゲームに夢中ときたもんだ。
「そのゲーム、そんなに楽しいですか」
「超楽しい。デカい剣振り回してドラゴン倒すとか最高だな」
「ですからそのデカい剣がここに……」
まあいいや。エリサ様が楽しいならそれでいい。
という訳で伝説っぽい剣をぽいと投げ出し、僕も携帯ゲーム機をオン。
「実は私もそのゲームやり始めたんです。初心者なので一緒にクエ周って頂けませんか?」
「は? やだよ。何でゲームの中でまでお前と絡まなきゃいけねえんだよ」
「………………」
僕は寂しい。エリサ様がゲームにハマってから全然相手してくれない。
こんなゲームは一人でやっても虚しいだけなので、竜騎士の鎧を装備して再びデカい剣を振るってみる事にする。
「見てください本物の竜騎士装備ですよ! すごくないですか!」
「すごいすごい」
エリサ様ったら見もせずにまー。鱗の質感とかすごいのに。今ジャンプしたら一ターン帰ってこないってのに。狩りゲーなんてそんなに楽しいものですかね? ソロプレイしかやった事ないから分からないよ。
おや、こんな時に部下から着信が。普段なら無視だけど出よう。
「エリサ様のおそばにいる時は連絡するなって言ったはずだけど」
『緊急事態です! 東の国境にゴブリンの群れが出現しました!』
「このご時世に? 情報封鎖は」
『現在は通信障害で時間を稼いでおりますがあまり長くは持ちません! 軍の出動許可を!』
「いいよ、僕が片付ける」
通話を切ってため息。何だよゴブリンって。今何世紀だと思ってるんだ。
やっぱこれかな。勇者にしか抜けない剣とか抜いちゃだめだったんだろうな。
「という訳でエリサ様、ちょっとゴブリン退治に行って参ります」
「ゴブリンとか雑魚かよ。お前レベルいくつだよ」
「ソロで一〇レベまでは上げました」
「五〇なったらギルマスに相談してやろう。余は優しいからな」
まったくゲームの話ばっかりだ。あんまり悠長にもしてられないし、サクッとゴブリン片付けてこよう。
はい片付けた。
「エリサ様、ただいま戻りました」
「お前ゴブリンごときに時間掛かり過ぎじゃね? 才能ねえなぁ」
「精進致します」
まったくもうゲームゲームゲーム! この際ゲーム会社も殲滅してやろうか!?
また着信だ。おや、青髪メイドのマリーじゃないか。
「どしたのマリー。そっちから連絡とか珍しいね」
『たまたま東の国境にいたメイド仲間がゴブリンの群れらしきものを見たそうなのですが』
「気のせい気のせい。ゴブリンなんている訳ないじゃんゲームやり過ぎじゃない?」
『彼女が言うには雷のようなものが落ちてゴブリンが全滅し、そのあとには竜騎士らしき男が立っていたそうです』
「だから気のせいだってば。特に用がないなら切るね」
『あ、女王にやたら突っ込むなって言っといてください。あとチャット見ろと』
「はいはい了解了解」
がちゃんツーツーツー。
まったくみんなしてもう。大体何で城付きのメイドが国境辺りにいるんだよ。サボりなんてレベルじゃねえぞ。
「エリサ様、マリーがチャット見てくださいお願いしますとの事です」
「えー無理。敵の動き見ながらどうやってチャット見るんだよ」
こんな不器用な人がよくゲームやれてるよね。きっとパーティの足引っ張りまくってるんだろうな。
しかし、思えば何でマリーはパーティにエリサ様を入れたんだろう? あいつに接待なんて精神は持ち合わせてないはずなのに。
「エリサ様、どうしてゲームをやる流れになったんです?」
「ギルマスが余と遊びたいからだって。メイド達超強いマジで強い。いい仕事するよなー」
「本来なら勤務時間なんですけどね。ギルマスもメイドなんですか?」
「当ったり前だろ。ほら誰だっけ、魔法少女が大好きな子」
知らねえよメイドの趣味とか! せめて外見でお願いできませんかねぇ!
ま、誰であれ別にいい。メイドは総じて悪魔だし。
しかし何とかしてエリサ様とお話したい遊びたい。ちゃんと相手してもらわないと僕の心が渇いちゃう。
うん? また部下から着信だ。もう電源切っちゃおうかな。
「何? ゴブリンならそっちで何とかして」
『緊急事態です! 不審者が王城に出現、近衛兵を薙ぎ倒し謁見の間へ向かっております!』
「僕とエリサ様の聖域に踏み入ろうとはいい度胸だ」
スマホを放り出し謁見の間を出た。エリサ様に血を見せる訳にはいかない。
階下から阿鼻叫喚が聞こえてくるが、幸いにも血の匂いはしない。だが見方によればそれなりに腕が立つはずの近衛兵をあえて殺さず向かってくる手練れだ。
軽率な突撃は避け、あえて謁見の間の前で待ち構える。
小さな足音が聞こえて、大階段を上がってきたのは、SFチックな装甲に身を包んだ……あれ? どっかで見た事あるな?
「エリッくん久しぶりー! エリサちゃんいる??」
「その呼び方……あっ、メイドのまなみちゃん!?」
「そうだよー。エリサちゃん全然チャット見てくれないからー」
「だからって何で近衛兵倒してくるの!? あとそのコスプレ何!? ガチ兵器なの!?」
おかしい、まなみちゃんは比較的マシなメイドだったはずなのに! ゲームしながら近衛兵倒すような子じゃなかったはずなのに!
「だってメイドは立入禁止だーとか言ってくるから!」
いつも笑顔のまなみちゃんがぷくーっと頬を膨らませた。だめだ、やっぱりメイドは悪魔だった。
しかしマリーと違ってまなみちゃんには悪意がない。それにかわいい。しかもロリ巨乳。なので謁見の間へ通す事にした。
「エリサ様、まなみをお連れしました。珍妙な格好ですがメイドです」
「すげー! ギルマスだ! ほんとにいたんだ!」
「あのねエリサちゃん、チャットちゃんと見て?」
「うん! 余、頑張るっ!」
エリサ様ったら目キラキラさせてまー。
僕は寂しい。このままではエリサ様をメイドに取られてしまうのではないだろうか。
そんな訳にはいかないので再び携帯ゲーム機をオン。
あとでまなみちゃんにパーティに入れてもらえるようお願いしよう。
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