執事様とメイド様
青い髪を丸く束ねて、いつもいつでもすまし顔。メイド服さえ着ていればメイド業はもう完遂していると本気で思っているらしく、仕事なんて一切しない。それでも僕の秘密を握っているものだからクビにもできないお荷物メイド、その名はマリー。しかもメイドロボ。訳が分からないよ。
「勝手に人の部屋に入ってくるとはいい度胸ですね。次は法廷でお会いしましょう」
「お前が連絡を全部無視するからだろ! ていうか働け!」
そんな訳で今回はマリーの部屋からお送りします。部屋はエリサ様の寝室と同じぐらい、大型モニタの前で豪奢なソファに寝そべり狩りゲーをしている模様。本来なら勤務時間中。サボりなんてレベルじゃねえぞ!
「今いいところなので邪魔しないでもらえますか。それに仕事ならちゃんと」
「だからメイド服着てるだけがメイドじゃないんだって! ゲームしながらでもいいから話だけでも聞いてくれる?」
「嫌です無理ですお断りです耳が腐ります。お、天蓋竜の翼ゲット」
「お前ロボだろ腐らないだろ! いいから聞いてよお願いだからさぁ」
「人間であれば腐る自覚はあるようで何よりです。こんなド変態にストーキングされている女王がかわいそう」
「新発売のじゃがりもペペロン味をお持ちしました。もちろんコーラも」
「話ぐらいは聞いてあげましょう。ただしおもしろおかしい話でなければ今日があなたの命日です」
……何で僕が下に出ないといけないんだろう。聞いた話では諸々の雑用をすべて僕の部下に任せているらしい。執事付きメイドなんて立ち位置が謎過ぎないか。
どうやらゲームをやめるつもりはないらしいので、勝手に話を進める事にする。
「どうやら我が国を狙い、呪いを操る者がいるみたいなんだ」
「イーエックスアイティー。お出口はあちらです」
「早過ぎない!? つまらないの判断早過ぎないか!?」
「ゲームのやりすぎでは? いい医者を紹介するツテなどないので自分で探してください」
「現在進行形でゲームやってるやつに言われたくない!」
「ではいかがわしい壺を売り付けますので言い値でお買い上げありがとうございました」
「買わないよ! 聞けよ! 人の話を!」
まったく、マリーが相手だと話が全然進まない。
働かないのは前提として認めざるを得ないから、興味を持って自発的に動いてもらうしかないってのに。
「実は、僕が呪われているんだ」
「説得力が有り余りますね。あなたのド変態レベルが常軌を逸しているのも頷けます。あ、また勝手に突っ込んで自滅した」
「変態の呪いにかかってる訳じゃないけどもうそれでいいよ! どう? 興味持ってくれた?」
「つまり私と変態プレイがしたいからわざわざ部屋まで来たと」
「意図的に僕を変態にするんじゃない! そんな訳ないだろ、大体メイドなんて冥王星より圏外だ!」
ああ、確かに僕だってメイドに夢を抱いていた時代はあったさ! お前らが粉々に砕いてくれたけどな!
「そんな事より呪われて困ってるんだよぅ。助けてよマリーちゃん」
「ド変態である事以外にどう呪われているのでしょう。ああもう、また勝手に自滅する。どうして素人は重装アタッカーを選ぶんですかね」
モニタを見れば奥の方に赤い鎧を着たおっさんがぶっ倒れていた。中央にはキラキラ光る杖を掲げた青髪メイドがいる。その隣にいるのは……何だろう? SFチックな装甲を纏ったキャラがドラゴンにレーザーを放っている。よく分からん世界観だ。
「……マリーってゲームの中でもメイドなの? 意外とメイド気に入ってるの?」
「まさかのまさか。この装備じゃないと周回付き合ってくれないんですよ」
ああうん、いるよねそういう人。きっとゲーム廃人なんだろう。
おっと、僕から脱線してどうするんだ。何だっけ、僕にかけられた呪い? そこまで考えてなかったよ。
「やっぱりド変態の呪いでいいです。メイドを見るとムラムラします」
「いっそすがすがしいほどの嘘ですね。呪われているのはあなたではなく、女王なのでは」
いきなり核心を突いてきた!?
「……こっ、興奮するなー! マリーのスカートに潜り込む欲求が抑えきれなーい!」
「ズバリ、女王は王冠が外せないのでは。呪われた王冠なのでは」
「それ!! マリーすごい天才!!」
ニアミスだけどその発想はなかった! それ採用!
「見た目はメイド頭脳はロボな名探偵ですから。なるほど、王家に伝わる呪われた王冠……興味深いですね」
「いや、先代は普通に王冠外してたし違うんじゃないかなー! きっと誰かがそんな呪いをかけたんじゃないかなー!」
「その線もあり得ますね。このご時世に呪いとはますます興味深い」
「だよね気になるよね! 呪ったやつを探してみたくなるよねー!」
「まあ、他のメイド達にも聞いてみましょう」
よし。作戦成功だ。
あとは勝手にメイド達が動いてエリサ様を呪ったやつを探し出してくれるだろう。
「それにしても、あなたが女王から離れているとは珍しいですね。ストーカー兼ボディーガードでしょうに」
「ストーカーでゎない! じゃ、僕も忙しいんで!」
そんな訳でそそくさと退散。こんなところに長居する意味もない。
謁見の間へ戻ると、エリサ様は珍しく携帯ゲーム機でゲームをしていた。
「あれ? お前さっきまで余の隣にいなかったっけ?」
「少し所用がありまして。ゲームとは珍しいですね」
「だからマリーから貰ったって言ったじゃねえか」
「そうでしたそうでした」
画面を覗き込むと、真ん中で赤い鎧を着たおっさんがデカい剣を振り回していた。
「やっぱデカい剣ってロマンだよなー。うちってそういうのないの?」
「探しておきます。……もしかしてマリーと同じパーティですか?」
「だからそうだって。メイド達に遊び方教えてもらってるんだって。つーかマリーが王冠呪われてるか聞いてきてるんだけど。お前余計な事言ってねえよな?」
「断じてあり得ません」
僕はきっぱりと断言した。
なぜなら決して余計な事ではないからだ。
「……あとさー、お前やっぱメイド大好きだよな。スカートに頭突っ込みたいってマジ? 何なの? ツンデレってやつ?」
「断じてあり得ません!!」
ああもう! やっぱりメイドは面倒くさいな!
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