女王様と食事会

 長い髪は黄金の絹、青い瞳は海の宝玉。肩を出した純白のドレスがとてもお似合いで、珍しく王冠を被ってロバ耳を隠しているエリサ様。

 いやーやっぱり萌え耳が見えないぐらいでかわいさは目減りしませんね。増える事はあっても減る事はないものなーんだ。

 答え、エリサ様の魅力。


「じゃがりも? じゃがりもって何? 余、食べた事ない」

「世界で一番おいしい食べ物です。知らないとか人生の全部を損してますね」


 只今、エリサ様はメイドへの恐怖を克服すべく青髪団子のメイドことマリーと食事会をしております。過剰な恐怖心も消えたようで、すっかり世間話などしております。順調順調。

 え? 僕が持ってるこれですか?

 シンバルです。


「エリック、今すぐじゃがりも買ってこい」

「最上級の肉料理とスナック菓子を一緒に食べるのは料理への冒涜ですよ」

「ド変態うじ虫野郎のくせにじゃがりもを愚弄するとはいい度胸ですね。そういえばこのド変態は――」


 じゃーんじゃーんじゃーん!!


「うるせぇ――――――ッ!! てめぇ人の耳元で何鳴らしてんだ!?」

「シンバルです。簡単に言うとうるさい楽器です。私の話をしようとすると鳴る仕組みになっております」

「そういやマリーはエリックの秘密を――」


 じゃーんじゃーんじゃーん!!


「分かった、分かったからやめろ!! 耳潰れるわ!!」

「ご理解頂けて何よりです」


 耳が潰れる……エリサ様の萌え耳は耳として機能しているんだろうか?

 物音に反応してくるくる動いたりするんだろうか。ふふふ、かわいいなぁ。


「ド変態ゴミ虫がにやにや気持ち悪い笑みを浮かべてますよ。セクハラですね訴訟です」

「うるさい黙れ! もう用も済んだし帰れ帰れ!」

「嫌です無理ですお断りです。まだおもしろおかしい話を何も聞けてないですから。帰りたいならお前が帰れこのド変態」

「マリーっておもしろい話っていうか噂好きだよねー。最近何かおもしろい話あった?」

「最近ですか。そうですね」


 何か考えるようにマリーが唇に人差し指を当てた。正直嫌な予感しかしない。シンバルスタンバイ。


「……女王が最近ずっと王冠被ってるとか」

「じゃーんじゃーんじゃーん!!」

「おい!! 楽器!! 楽器使え!!」

「私とした事がついうっかり」


 ……しまった。これはうっかりでは済まされない失態だ。


「おやおや。どうして女王の王冠がNGワードになっているんでしょうか。不思議ですね」

「あっ!! おいエリックてめぇ!!」

「女王としての自覚! エリサ様は女王の重責を忘れぬよう常に王冠を被る事にしたのです!」

「おかしいですね。それは公にしてはならない事でしょうか。女王がその責任を自覚する、私にはどうでもいいですが隠すような事ではありません。何か裏があるのでは、と思ってしまいますね」


 勘のいいやつめ。これだからメイドは嫌いなんだ!


「いや、あのね、だからこれ、女王の自覚なの。余、女王。王冠、被る」

「食事中はさすがに食べにくいと思うのですが。いやはや、細かい事がつい気になってしまうのが私の悪い癖」

「うるさいなぁもー! どうでもいいじゃんそんなの! 余には全然おもしろい話じゃないし!」

「そうですね。事実などどうでもいい。おもしろおかしく転がっていけばそれでいいんです」


 と、マリーは僕を見て唇を動かした。


『じゃがりも一年分で手を打ちましょう』

『前にも同じような交渉したじゃないか。もう食い切ったのかよ』

『昔の事は忘れました。そして今変態ゴミ虫にある選択肢はイエスかイエスです』

『イエスだこの女狐め! もう二度と脅迫には屈しないからな!』

『分かればそれでいいのです。分を弁えなさいこのド変態が』

「……なあ、二人して何見つめあってんの?」


 しまった、エリサ様を置いてけぼりにしてしまった。


「あんな悪魔を見るなんてとてもとても。私の目にはエリサ様しか見えておりません」

「まさかのまさか。視線だけで目障りなド変態を消せないか試していたところです」

「えー? ほんとかなー? ほんとは付き合ったりしてんじゃないのー?」


 うわっ、うざい絡み方。にやにやしちゃってまぁうざい。そんなの許されるのエリサ様だけですよ。エリサ様じゃなきゃ頸動脈です頸動脈。


「あり得ませんね。たとえ人類最後の男女になったとしても始まるのは生き残りを賭けた殺し合いです」

「そして私が勝ちます。こんなド変態、ロケットパンチで一撃です」

「ロケットパンチってププー。お前ロボットかよ恥ずかしいやつだな」

「そうですロボですメイドロボです。あれ、言ってませんでしたっけ」

「えっ」

「えっ」


 こいつは何を言ってるんだ??

 僕とエリサ様が二人してキョトンとしている中、マリーはすっと立ち上がり、腰を落とし握った拳を僕に向けて叫んだ。


「ロケットパーンチッ!!」


 じゃーん!!

 ここでまさかのシンバル防御!


「うわっ! ほんとに腕飛んだ! マリーすごーい!!」

「それほどでもあります」


 うわっ、本当に腕だ、こいつマジでロボじゃないか……! なんかケーブルで肘と繋がってるし!


「腕、離してください」

「あっ、はい」


 マリーが肘の根元のケーブルを軽く引っ張ると、しゅるしゅるぽんと腕は元の位置に戻っていった。

 何事もなかったかのようにマリーは席に着き、もぐもぐ肉を食べ始めた。そんなマリーをエリサ様がキラキラした目で見つめて言う。


「何それすごい! 余もやりたい!」

「いけませんエリサ様! さすがにそれは属性過多です!」

「えーい! ろけっとぱーんちっ!」

「ぐはーっ! やられたーっ!」


 もちろんパンチが飛んでくるはずもなかったが。

 楽しそうなエリサ様があんまりにもかわいらしいので、僕はいつだってやられっぱなしである。


 ……マリーについてはもう少し調べてみる必要があるな?

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