女王様と処刑

 僕が仕える若き女王様、エリサ様。長い髪は黄金の絹、大きな瞳は海の宝玉。肩の露わな白いドレスの下は、意外にも子供っぽい下着。

 そんなマジ萌えパないエリサ様には、驚くべき事に萌え耳、じゃなかったロバ耳が生えていた。どうやら誰かに呪われたらしい。


 僕のエリサ様を呪うとはいい度胸だ。必ずや見つけ出してこの世には死よりも恐ろしい事があると教えてやる。

 と思っていたのですが、その前に僕が死刑を受けるようです。

 この国に死刑制度はないのですが、女王様の勅命とあらば仕方ありません。

 という訳で今回は薄暗い拷問部屋からお送りします。


「やっ、やるぞ! マジでやるからな!」

「待ってください! 一体私がどんな罪を犯したというのですか!」

「余の寝室に勝手に入ってベッドにダイブしたからだよ!! あとショーツ盗んでたし! 不敬罪極まってるじゃねえか!!」

「今すぐベッドに押し倒したい気持ちを全力で抑えていたというのに! ひどい! あんまりです!」

「もうお前二回死ねよぉ――――ッ!!」


 いやでもほんとよく頑張ったと思います。萌え耳の秘密を知っているのは僕だけ。いくらでも愛しいエリサ様を脅せるのに寝室行って何もなし。すごくないですか。自分で自分を褒めてあげたい。


「二回死ねるかどうかは分かりませんが、ここには拷問器具や処刑器具がたくさんございます。何から参りますか」

「そうだな。さっそくギロチン」

「失礼ですがエリサ様、物事には順序というものがございます。まずは拷問、それから処刑に致しませんか」

「拷問してどうすんだよ。別にお前から聞き出したい事なんてねえよ」

「前に言っていた私とメイドとのあれこれ……でいかがでしょうか」

「分かった拷問する!!」


 目を輝かせて拷問器具を選ぶエリサ様。どのおもちゃで遊ぶか悩んでいる子供のようで実に愛くるしい。


「あっ、あっちに水車ある! 余、あれがいい!」

「失礼ですがエリサ様! 女王様からの拷問といえば鞭かロウソクと相場は決まっております」

「えっ、そうなの? つーか女王自ら拷問する国とかあるんだ。へー」


 今まさに自国がそうなのですが、ここはスルーしておきましょう。


「ロウソク地味だし鞭にしよ。これどう使うの?」

「スナップをきかせて背中に当ててください」

「こう?」

「ああっ!」

「おーすげーシャツが破れた。おらっ、吐けっ! メイドと何があったんだっ!」

「ああっ! うふんっ!」

「吐けっ! 吐かないとずっと続けるからなっ!」

「もっと、もっと罵りながらお願いしますっ!」

「えっ? ……このうじ虫っ! 虫野郎っ!」

「もっと具体的にお願いします!」

「何か違ーう!」


 おや。エリサ様が鞭を捨ててしまった。まだ拷問は始まったばかりだというのに、情けない。


「お前全然痛そうじゃないじゃん! 何か嬉しそうだし別のにする!」

「失礼ですがエリサ様、こういったプレイはお互いに高め合いながらが基本でございます」

「別に遊んでる訳じゃないんだけど!? 拷問してんだけど!?」

「とにかく基本がなっておりません。まずは縄でイスに縛り付けましょう」

「えー。でも縄とか手が荒れそう。縛り方とか知らねえし」

「仕方ないですね。では自分で縛るとしましょう」


 これをこうして、イスに回して、こう。


「えっ、お前今何やったの」

「自分で自分を縛り付けました」

「どうやって??」

「口で説明するのは難しいのですが、縛られて動けないものですから順を追って説明するのもまた困難です」

「ふーん? まぁいいや。で、余はどうしたらいいの?」

「爪と指のあいだに針を刺したり、歯を抜いていくなどはいかがでしょう」

「痛い痛い痛い! 想像するだけで痛い!」

「痛いのはエリサ様ではなく私ですのでご安心ください」

「無理無理! もうちょっと痛くなさそうなやつがいい!」

「仕方ないですね。ではそろそろ水車いっときますか。あれも拷問器具ですし」


 ちなみに水車とは水車の外側に人を縛り付けて水に沈めたりするやつです。解説終わり。

 縄を解く、のも面倒なので引きちぎり、水車に自分をセットしてここをこうして、こうの、こう。


「エリサ様、準備できました」

「待ってお前今何したの?」

「失礼ですがエリサ様、身動きの取れない状態になってから尋ねるのはやめていただけませんか」

「いやお前縄ちぎったよ!? え、何かおかしくない!?」

「縄を解くためにエリサ様のお手を煩わせるようでは執事失格です。そんな事より早く回してください。そこのハンドルと連動しております」

「ふーん?? まぁいいや。これね。おっ、動いた! このまま水に沈めっ!」

「ごぶごぶごぶ」

「そろそろ上げてみよう」

「ぷはっ! この程度で私は口を割りませんよ!」

「よーしじゃあもっと長く沈めてやるっ!」

「ごぶごぶごぶがぶがぶがぶ」

「…………このまま沈めっぱなしにしてみよう」


 ざばぁ。


「それはいけません。水車はあくまで拷問器具ですので」

「何で自力で戻ってくるんだよ! お前どうなってんの? 水車勝手に回ったんだけど??」

「細かい事はお気になさらず。ではそろそろギロチンに参りましょうか」

「お前自分の死刑に積極的過ぎない?」

「ここをこうして、こうの、こう。はい準備できました」

「もう細かい事は気にしなーい。これはどうやんの?」

「そこのロープが上のギロチンカッターと連動しておりますので、切って頂ければ首がポロリの寸法です」

「マジ? お前死ぬの?」

「何か言い残した事はございますか」

「お前が聞くのかよ。まぁいいや、これで余の秘密を知る者が消える! 死んじゃえーっ! チョキーン!」


 スコーン!

 ポロンのころころ、うーん目が回る。


「……とまぁ、こういった感じでございます」

「分かってたけどやっぱり死なねえのな。余は首が落ちないオチだと思ってたんだけど」

「ご期待に応えられず申し訳ありません」

「で? それはどうなってんの?」


 これをこうして、こうのこう。

 落ちた首を身体に拾わせて再セット。


「ちょっとした手品のようなものですね」

「ふーん。最近の手品ってすごいんだなー」

「次はどれになさいますか」

「もういいや。拷問も処刑もつまんないし帰る」


 という訳で次回は通常運行です。

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