ゲンペイカズラのせい
~ 五月二十九日(火) 女子卓球同好会 ~
ゲンペイカズラの花言葉 親友/チャンス到来
後輩二人に部活を紹介すると言っておきながら。
やはり自分が楽しみたいだけというご様子。
それでも今日は、真面目に運動系の部活を紹介しようと。
体育館へと足を運ぶ
軽い色に染めたゆるふわロング髪を。
今日は頭の上に二つのお団子にして。
そこにゲンペイカズラを一輪ずつ挿しています。
白い袋状のガクの先に紅色の花を付ける、コントラストの美しいお花も。
こいつの頭に刺さっては、バカを彩る源平両軍の旗印。
だんごうらの戦いなのです。
さて、本校に部活は数多くあるのですが。
それ以上に多くの同好会が存在しているのです。
というのも、部費の管理や活動報告書の作成、果ては顧問の確保まで。
それなり面倒なことが多い部活と違って。
部費は貰えないものの、活動場所として空き教室の一角などが貰えるため。
申請のペラいちと毎月一度の部長会議への出席だけで済む同好会を希望する者が非常に多いという訳です。
「え!? うそうそうそ! じゃあ同好会ってそんなにあるの?」
「そ、そうみたい……。お姉ちゃんが、頭が痛いって話してたことがあって……」
そう、本日のご紹介は、部ではなく同好会。
目指す場所は、卓球同好会の練習場所なのです。
「でも運動系ってことに変わりないわよね? ようし! 気合入って来た!」
「う、うん……。熱血な所だと良いな……」
「昨日の化学部も面白かったけどね! ……リトマス紙快感~♪」
「リアス式海岸~♪」
俺と穂咲の後ろを歩く二人の後輩。
二人の間で流行っている言葉遊びで歌うのは。
元気な方は、
清楚な方は、
……しかしどうしてでしょう。
この歌を聞くとイラっとする、大人気ない俺なのです。
さて、そんな二人が探しているのは。
汗と青春と友情と勝利の涙。
つまり、熱血運動部なのです。
でも、ちょっと今日の所はご期待に沿えないかも。
「残念ながら、熱血って感じの所じゃないかもしれないのです」
「え? そうなんですか、センパイ」
「そうだね、同好会だからね」
運動系なのに部活申請をしていないということは。
結果とか、出す気が無いのでしょう。
気軽にスポーツを楽しみたいという方も、もちろんいらっしゃるわけで。
そんな方は、同好会として申請することが多いのです。
「ようこそ卓球同好会へ!」
「今日はよろしくお願いしますなの!」
体育館履きに替えて、バスケ部の練習を横目に見ながら。
緑のネットで囲われたエリアにお邪魔すると。
ブルーの卓球台二つを背に、四人の同級生が迎えてくれました。
「おお、かっこいい卓球台」
「そりゃそうよ! あたしが選んだんだから!」
どうやら同好会長っぽいショートカットの子が、卓球台に頬ずりしている中。
一年コンビが皆さんへ丁寧なお辞儀をすると。
他の同好会メンバーが、早速とばかりに説明を始めるのです。
「……会長さんは説明しないでいいの?」
ルールくらいは一通り知っている俺としては暇なわけで。
卓球台ラブな同好会長さんに声をかけてみると。
「そりゃそうよ! あたしを引っ張り出したかったら、他の三人を倒してからにして頂戴!」
「なんだそりゃ」
変な人なのです。
その反面、他のメンバーは皆さん揃って熱血で。
スイングの型など、大変厳しく指導して下さるのですが。
「……あれ? 本格的?」
「そりゃもちろん! 同好会だから道具は全部自前だけど! 体育館の一番隅っこが練習場所だけど! あたし達はここから、オリンピック出場を目指すの!」
ラケットをびしっと東京へ向けてかざす会長さん。
その目には一点の曇りもなし。
なんと、蓋を開けてみれば真面目な同好会だったのです。
他のメンバーは恥ずかしそうに。
話半分で聞いてねなどと言っておりますが。
皆さんの真剣なご指導を見ればわかります。
ご謙遜ご謙遜。
「……あれ? じゃあ、既定の四人いるのに、なんで部活申請してないのです?」
「それが聞いてよ奥さん!」
「…………なんざましょ」
「顧問になってくれる先生が見つからなくてさ! 泣く泣く同好会どまりよ!」
あっけらかんと笑いながら話してくださいますが。
なるほど、そんなこともあるんだ。
「でも、あたし達は苦難に負けず、オリンピックを目指して毎日たゆまず努力しているのだ!」
「なんてすばらしい! そんな中、お時間取らせてしまって申し訳ない!」
「いいってことよ! 若者に卓球の面白さを教えてあげることも重要だからね!」
「ほんとにすばらしい! 素敵な考え方だと思います!」
「それに今日はもともと、トランプ大会の予定だったし!」
「お礼と褒め言葉を全部返せ!」
だから言ったじゃないと笑う三人ですが。
この変な人にしてやられた気分です。
そしてどうやら説明が終了したようで。
一年生コンビがダブルスで勝負することになったようですが。
その試合の様子を見ていて、よく分かりました。
……やはり、お気楽同窓会というのが真実だったようですね。
得点を見ると。
葉月ちゃんたち、余裕で勝ってしまいそうなのですけど。
「二人とも運動神経良いからねえ。息もぴったりですし」
「えへへ! かっこいいとこ見せますね、センパイ!」
「え、えっと、とても丁寧に教えて下さって、コツがすぐ分かりましたので……」
さすが、一つの苦難を乗り切った友達同士。
お互いがお互いをカバーして、チャンスを確実にものにして行くのです。
二人が欲している場所とは、ちょっと違うのかもしれませんけど。
それでも真剣にスポーツを楽しんでいるので。
今日はこれで良しとしましょうか。
……そして、二人は圧勝からのハイタッチ。
輝く汗にまみれつつ。
お互いがお互いの健闘をたたえ合う。
なかなか綺麗な幕引きです。
「よし。……それじゃあもう一試合くらいお付き合いしていただいて、おいとましましょうか」
「あ! そういう事なら、センパイと勝負したいです!」
「なんですと?」
「あ……、藍川先輩と、ダブルスとかどうでしょう」
……今、引いたのですよ、幕。
綺麗に物語が終わったんだから。
ダメだよ開けちゃ。
とは言え、鼻息荒く、かかってくるのと偉そうな事を言うこいつを止めることも出来ませんし。
しょうがない。
お付き合いいたしましょうか。
最初は俺のサーブから。
ゆっくり目に玉を打って。
葉月ちゃんが、様子見でしょうか、甘い球を返して。
それを穂咲が、チャンスとばかりに全力スマッシュ。
当然、空振りになるものと予想していたのですけど。
まさかのジャストミート。
……そして唸りを上げた白球が、俺の横っ面を穿ちました。
「…………どんまい」
「それは俺が言う言葉ですし、そんな言葉をかけてやる気もありません」
気にしなさい。
真横から飛んできたピンポン玉を拾って。
ムッとしながら、再びサーブ。
今度はちょっと変化球など使ってみたのですが。
葉月ちゃんはそれをいともたやすくスマッシュで返すと。
卓球台に触れることなく。
……穂咲の動きを気にして横を向いていた俺のこめかみに直撃しました。
「ごごご、ごめんなさい!」
「ああ、どんまいです。スポーツだし、これくらい楽勝です」
「楽勝? ……でも……」
「ほんとに楽勝ですから気にしないで。……それよりこれは、どっちの得点なのでしょう?」
俺が質問すると、審判役の方が丁寧に教えてくれました。
「台の真上で当たった場合は
「なるほど、理にかなったルールなのです。オブストラクションね」
さて、二度あることは三度ある。
今度はサーブを打ったら台の下に逃げ込もう。
その時間を稼ぐために、高いバウンドでサーブを打つと。
葉月ちゃんが大きく振りかぶる姿を最後まで確認しないうちにエスケープ完了。
頭上の卓球台にピンポン玉が当たる激しい音が響いたので。
あとは穂咲が空振りする姿を見守るだけ。
……そう思って、卓球台の下で振り返った俺のおでこに。
スパイラル・マーベラス・ギャラクティカ・ラケットアタック。
「ごはあっ!」
あまりの痛さに思わず立ち上がると。
今度は頭頂部に。
デンジャラス・ファンタスティック・シャイニング・台。
「いだっ!」
すっぽ抜けたラケット直撃からの脳天強打。
卓球台の下から悶えながら転がり出ると。
心配して皆さんが集まってくるのです。
恥ずかしいったらありません。
「す、スポーツですし。コブになりそうなほど痛いですけど、楽勝です……」
泣き言なのか何なのか。
我ながらおかしなことを言いながら立ち上がると。
優しい一年生コンビが心配そうに見上げながら。
……心配そうな顔をしているくせに。
俺をイラっとさせるアレを歌い始めました。
「こぶでも楽勝~♪」
「オブストラクション~♪」
俺は、二人の頭にチョップしました。
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