カスミソウのせい
~ 六月一日(金) チアリーディング部 ~
カスミソウの花言葉 清い心
どんなクラブにもいい所があるのと。
すべての部や同好会を解体から救うと息巻くこいつは
軽い色に染めたゆるふわロング髪を、今日はポニーテールにして。
手に、カスミソウの花束を抱えて登校して。
渡さんへプレゼントしていましたけど。
香澄ちゃんだけに。
……その、余計な一言。
朝からずーっと考えていたのでしょうか。
花束を受け取って、嬉しそうにはにかむ渡さんの笑顔。
それが一瞬で吹き飛んだので。
君のくだらないジョークを、台風一号に認定します。
さて、本日お邪魔しているのは。
学校創設当時から続く伝統あるクラブでして。
どうして解体候補に挙がっているのやら。
実は俺にとって、もっとも理由が分からないのがこちらなのです。
「なんでこの部が解体候補なんだろう……」
「えっとですね、エロいからだと思います!」
「……瑞希ちゃん。そういう憶測は誤解を招……」
「エロいからだと思います!」
昔から、男子の間で話題にはなっていたのですが。
なるほど女子の間でも有名なのですね。
本日お邪魔しているのはチアリーディング部。
歴代、ユニフォームの布面積が非常に少ないことで有名なのです。
そんな皆さんの中から。
ひときわエ……、おしゃれな感じに布を減らした衣装の方が前に出ると。
俺の手を両手で握りながら、熱い瞳で訴えるのです。
「日本舞踊部の友達から聞いています! 皆さんは部の解体を助けてくださる救世主なんですよね?」
「ご安心ください。チアリーディング部の解体だけは、俺がなんとしても阻止してみせまほー」
これ、一年生たち。
別に不純な動機じゃないのでほっぺたを両側から引っ張らないでほしいのです。
……鼻の下もこんなに伸びてるので、顔の皮が切れちゃいます。
「でも、俺の調査によれば、チア部には廃部にされるような要因が見当たらないのですが」
「エロいからだと思います!」
「そうなんですか? あたしたちも理由がまったく分からなくて……」
「エロいからですよ絶対!」
「それは困ったな、どうしよう。理由が分からなければこのまま解体に……」
邪魔な瑞希ちゃんの口をふさぎながら、まじめな顔でうつむく俺の耳に。
にわかに飛び込む軽やかなホイッスルの音。
それを合図に、ざっとフォーメーションを作るチア部の皆さん。
手にしたポンポンと共に、きれいなおみ足を高々と上げるのです。
≪ L・O・V・E! ウェイクアップ・ミチヒサ!
ウィー・ワナ・ユア・ウィン! Hi・Hi・Hi・Hi! ≫
「絶っっっ対に何とかしますのでお任せください!」
いぇーいと。
俺の熱い返事にもりあがって。
全員、ポンポンでハイタッチ。
超がんばります。
「……センパイ。エッチです」
「ふ、不純です……」
「ぜんぜんエッチでも不純でもない。むしろ健全と言ほー」
俺がまじめに答えると。
引っ張られていたほっぺたが。
ねじ切れるかと思うほどにつねられてしまいました。
まあ、ここを廃部にしたら全校生徒の半分から罷免嘆願が集まるので。
リストに載っているとはいえ、生徒会長もチア部には簡単に手を出せないでしょう。
「ということで、後はこの二人に体験入部させていだだきだいだだだだだ!」
「無理ですよ! センパイのエッチ!」
「私も、むむ、無理です……」
君たちは、頬をつねりながらそう言いますが。
「じゃあこいつが着てきた意味」
「恥ずかしいの」
先輩に着替えさせといて逃げないでください。
「藍川先輩! すっごく似合ってます!」
「ふぁ、ふぁいとです……」
「……それでは、君だけ部活体験していきますか?」
頬を赤くさせながら。
おへそとスカートの裾をポンポンで隠して歩く穂咲さん。
「恥ずかしいけど、このきんぴかのポンポンを貰えるって聞いたから、頑張って練習してみるの」
「だめだろ貰ったりしたら」
「くれるって」
「ほんとに?」
そういえば、最近は金色のものを集めているようですけど。
何のブームなのでしょうか。
とは言えそんな物の獲得のため。
穂咲は皆さんに合流すると。
ぎこちない動きながらも、楽しそうに練習を始めました。
「そ、それにしてもすごいです、藍川先輩……」
「やだやだやだ! おへそが出ちゃってるじゃないですか! み、皆さんは恥ずかしくないんですか?」
一年生二人が耳まで真っ赤にさせながら慌てふためいていますが。
先ほどのきわどい衣装な先輩が、にかっと笑顔を浮かべながら言うのです。
「それ、よく言われるけどさ。なんのためにあたしたちがいると思ってるの?」
「あ、その……、お、応援するためでしょうか?」
「チアー・アップ! あたし達は、みんなに勇気をあげるの! 誰だって、自分を見てくれている人の存在を意識すれば勇気が湧いてくるでしょ?」
元気に片手を掲げてポーズをとるチアガールの皆さん。
なるほど、よく分かるのです。
「あたしは、あなたを見ている。そのことを伝えるために、大きな声で、派手な動きで、最高の笑顔で声援を贈るのよ!」
胸にポンポンを合わせて、祈るようなポーズをとるチアガールの皆さん。
なるほど、よく分かるのです。
「ええと……、で、では薄着なわけは?」
「そりゃ、こーんなあたしたちに応援されたほうが勇気を出しやすいじゃない?」
今度は腰と後頭部に手をやって、セクシーなポーズをとるチアガールの皆さん。
すっっっっっごくよく分かるのです。
「おっしゃる通りだと思います!」
そう叫びながら。
俺は先輩と共に、一年生コンビへ手をかざして。
「「さあ、あなたもいっしょに!」」
「無理っす」
「む、無理です……」
…………ですよねー。
「でも、皆さんと一緒に並んでしまえば平気なのではないでしょうか?」
「それでも無理ですって!」
「だ、だって……、秋山先輩は、あたし達のこと見ますよね?」
「え? そりゃあ見るとは思うけど……なんですその後ずさり」
どこまでも離れていく二人。
どこまでもどこまでも離れていく二人。
そんな二人が遥か彼方から。
大声で歌い始めました。
「ミチヒサえっち不審な視線~♪」
「モホロビチッチ不連続面~♪」
……そんな難しい言葉知らん。
レベル高いなあ、君たち。
でも、君たちがそんな大声で歌うものだから。
『ザザッ……あー、秋山道久。何をやってるか知らんが、職員室に来い』
俺はいわれのない罪により。
しばらく説教されることになりました。
……いわれ。
無いですよ。
……無いですって。
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