第15話 一之瀬ひかる

恋人だった加代さんとも別れ フリーになった


別れてから3日後 ランチタイムでいつも行く 学食に向かった

毎度同じように ワンダーフォーゲル同好会のメンバーが集まっている

会長の白井先輩が俺に手を振っている 可憐さんもいる 何より驚いたのは 一ノ瀬ひかるもいたことだ どういう風の吹き回しだ 今まで俺の事を無視し続けていたのに・・

俺は ラーメンの大盛を頼むと白井先輩たちのテーブル席に座った

「お 秀 今日はラーメンか たまにはスペシャルの王道日替わりAランチもいいで」

「今日は こんな気分なんです」

『秀君 最近元気無いわね 何かあったの?』 可憐さんが俺の顔を覗き込むように喋った

『どうせ彼女にふられたんでしょ この色キチガイ』 一ノ瀬が久々に 俺に語りかけてきた

「あぁ 悪いか」 俺は 素直に答えた 

『よく そういけしゃあしゃあに言えるわよね 彼女がいるくせに私に手ぇだして』

「まぁまぁ よせ 飯がまずくなる 明日 お前ら二人 わしの家に来い これは会長命令だ いいな」 堪りかねた白井先輩がドスの利いた声でうちらに呟いた

『そうね あなたたち誤解してるのよ 私に言わせてもらえば 二人はお似合いよ きっとお互い意地はって そうやって誤魔化してるのよ 明日は ちゃんとうちに来なさいよ お昼の2時 東武デパート正面前で待ってるわ」

そう言うと可憐さんは いつものコーヒーを飲まず 学食の外に消えて行った

「はぁ~ 喰ったな お前ら コーヒー飲むか? 俺がおごっちゃるけん よかよか ここにいろや わしが運んで来てやるきにな」 白井さんもいろいろ気を使ってくれる

白井先輩は そう言うと熱いコーヒーを持って来た

「なぁ 一ノ瀬 お前の気持ちは ようわかるけん もう少し冷静になれや な いいやろ 秀もな 話せば分かるんや お前らは まだまだ子供や」

俺は ラーメンを喰った後 白井先輩がくれたコーヒーにミルクを三つ入れて飲み始めた

一ノ瀬は ブラックだ

『白井先輩 どうしても明日行かなきゃいけませんか?』

「もちろん かわいい後輩の事や ここは面倒見させてもらうきに これは会長命令だ」

『ふ~ わかりました』


一年生は 講義が終わると同好会室を掃除しなくてはいけない

相変わらず 一ノ瀬は 俺を避ける

白井先輩は 机の上にあぐらをかき 煙草を吸いながら ラジオで競馬速報を聞いている

「来た 来た 来たでー やった 万馬券や 久々の勝利や~」

一ノ瀬は 横目でジロっと白井先輩を見つめた

可憐さんが同好会室に入って来た

『みんな おつかれ あれ あの馬鹿 またお馬さんやってる』

「ふふ 可憐 今日は万馬券や 千円が11万円やで 驚いたやろ」

『もう 行くわ 私 ギャンブル嫌いだから ふん』

こんな夫婦ってあるの? 俺は自分で自分を疑った


翌日の日曜日の2時 もう一ノ瀬も白井夫妻も着ていた

「こんにちは~」

「秀 今日は デパ地下で派手に大人買いや 仰山旨いものあるきに さぁ行くで」

一ノ瀬と可憐さん 俺と白井先輩 会話をしてるうちに あっという間に白井さんのコーポに着いた ショッピングの袋に沢山の料理が詰まっている

「今日は 高級ワインやで これもお馬さんのおかげじゃ~ なぁ 秀 一ノ瀬 喜べ」

可憐さんがキッチンで買って来たものを 大きな皿に並べていた

一ノ瀬も手伝った 見るからにゴージャスなオードブルに変身していた

「よし 乾杯~~」

『乾杯~』

一ノ瀬は 相変わらず無口だった だがワインの飲むペースが早い

『秀 彼女とは どうしたのよ?』 一ノ瀬が突然俺に質問してきた

「あぁ 別れたよ 前の旦那さんとヨリを戻した」

『そうよね~ あんたみたいな坊っちゃんに 年上は無理よ 駄目駄目 ははははは』

一ノ瀬が酔った

可憐さんは 夜のバイトがあるから コーラだった

『一ノ瀬さん 少しお酒のペース早くない』 可憐さんが心配そうに訊いた

『だって これって白井先輩たちが招待してくれたんじゃないですか 酔っていけませんか』

「一ノ瀬 お前 秀といつ知り合ったんだよ」

『高校からです 私将来は 小説家になりたくて それで安西教授の講義受けているようなもんですから』

「じゃぁ お前 恋愛小説書いてみろ 俺が読んでやる」

『いいですよ 将来は 直木賞をとろうっと思って』

『あらいいじゃない 素敵な夢ね 目標があるって 私素晴らしいと思うわ 頑張って』

『えぇ どっかのお坊ちゃんと違ってね はははは』

完全に一ノ瀬が壊れた

結局 可憐さんがバイトに行くということで 飲み会はお開きになった

「秀 一ノ瀬を送れ これは会長命令だ」


外に出ると 一ノ瀬は 千鳥足だった

タクシーに乗った 一ノ瀬の家は赤羽だ 俺と一ノ瀬が生まれて初めて契り交わしたのも一ノ瀬の家だ 一ノ瀬の家に着いた


『秀 もう一杯付き合ってよ 今日は何だか楽しいわ 今日は パパもママも温泉に行って いないの ね いいでしょ』

俺と一ノ瀬は それから一之瀬の部屋で缶ビールを飲んだ

一ノ瀬が 突然俺に抱きついてきた いつもの病気のキス魔に変身したのだろうか

だが今日は いつもと違う 俺と一ノ瀬は そのままベットになだれこんだ

いけないと分かりつつ 体は別に反応していた

一ノ瀬の胸のほくろが見えた



二人は また結ばれた

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