第17話 加代さんの旦那さん

なぜだろう お店を辞めた加代さんが 今度は 見知らぬ男とお客で来ている


俺は 加代さんにお替りの生ビールを持っていった

『秀君 この人 前の旦那 今度やり直しで再婚するけど 今日は親方に頼んでおいたから 最後でしょ お店が暇になったら 一緒に飲もう ね』

「はい 初めまして 島崎秀です」

「こんにちは 前田裕翔です 加代がお世話になったそうで」

「いや お世話になったのは 僕ですが・・・」


そんなやりとりをしていたら ひょっとこ顔の親方が 怒鳴った


「秀 今は仕事しろ! 料理上がってんぞ!」

「はい」


今日も忙しかった 時間が経つに連れ 客もだんだんいなくなってきた

ひょっとこ顔の親方が 一服していた


「秀 今日は もうあがっていいぞ 加代さんがお前に逢いたがってる 相手しろ」

「はい おつかれ様でした」


俺は 自分で生ビールを入れると 加代さんのテーブル席に座った

「お元気そうで」

『うん 秀君も元気そうね 前々から うちのには復縁迫られていたんだけど 今度は ギャンブルを絶対しないって言うからさ 考えたんだけど 元のさやに納まったって感じかな』

「・・・」

「君が噂の秀君か 加代からは 事情は聞いていた 二人ともつきあっていたんだろう ごめんよ」

「あ いいんです 元のさやに戻った方が 加代さんもきっと幸せだと思います」

「うちのは 淋しがり屋だからな 明日 千葉に引越すんだ いろいろとありがとう」


俺は カバンの中から煙草を取り出した 二人の目の前で堂々と煙草を吸った


『秀~ あんた煙草吸うの覚えたんだ 例の先輩の影響?』

「はい」

「いいじゃないか 彼だってもう子供じゃない な そうだろ」

「はい」

『そういえば 秀 何だか逞しくなったね 何かいいことあった あ 喉にカットバン!』

「あいや~ 昨夜からお付き合いしてる娘ができちゃって あ~ 何て言うんだろう つまり・・・ 俺も前の彼女とより戻しちゃって」

『いいのよ 遅かれ早かれ 秀には素敵な彼女ができるって思ってたから お幸せに』

「加代さんも裕翔さんもお幸せに 早く子供作ってください」

『あれ~ 秀も大人になったね うん 丈夫な子作るね 名前 秀にしようかな ははは』


俺は 煙草を揉み消した 加代さんが懐かしい

別れたばかりの時は あんなに泣いたのに 今 加代さんが幸せになったことに すごく嬉しくなった


『秀 じゃあ 本当にお別れね ありがとう』

「じゃぁ 秀君も彼女と頑張って ありがとう」


加代さんと裕翔さんは 店の外に消えた

俺も 親方に挨拶すると店を出た


夜空の星が 綺麗に見えた 

明日も晴れなのだろうか


一ノ瀬にメールを送った

「今 バイト終わったよ じゃあおやすみ」

一ノ瀬から 直に携帯に電話があった

『お疲れ 少しでも声が聞きたくなって・・・ 忙しかった?』

「うん いつもと変わらないよ」

『そう 今 レポート書いてるの 秀の分まで書いてあるから 今日はゆくっりやすんで ね』

「ありがとう」

俺は また煙草を取り出すと 公園のベンチで一服した

どんどん環境が変わっていく 時の流れに押し潰されそうだ

白井先輩の一言を想い出した

今日という日は 二度と来ない だから今を精一杯生きる


俺は 少しはにかむと 家に向かって走りだした

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