第18話 日本ダービー
睡眠不足が解消できた俺は 池袋駅の西口改札口で 白井夫妻と一ノ瀬を待っていた
今日は 日曜日 日本ダービーの行わる日だった
俺は 赤いペンと白井先輩が良く買う [勝馬]という競馬新聞を持っていた
資金はある 月末でバイトの給料が出たからだ
待ち合わせの時間に10分前から ここで待っていた
一ノ瀬が現れた
『おはよう 秀 競馬新聞なんて持って 案外似合っているかも ふふ』
「一ノ瀬 手ぶらかい?」
『う~うん バッグの中にお父さんが読んでる 競馬のニュースのとこだけ持って来た』
「おう 待たせたな ほな行こうや」
白井夫妻も現れた 相変わらず白井先輩は元気がいい
『もう ごめんね この人張り切っちゃって おにぎり握って来たから』
4人は中央線で 府中に向かった
大きなどよめきが聞こえて来る ここが数々の名馬の物語を誕生させた 東京競馬場か 胸が高まる みんなで入場券を買うと 早速 前日に白井さんが マークシートに書いてある馬券を購入した
「どや せっかくや 生ビール飲まんか 昨日も大当たり的中やさかいに 俺がみんなにおごっちゃる」
ターフの脇ののどかな芝生の上で可憐さんが用意してきたビニールシートに座った
それにしてもすごい賑わいだ
サラブレッドが返し馬になった状態で ターフを駆け抜ける
壮大な青空 可憐さんも一ノ瀬も長い黒髪が風に靡く
白井さんが 生ビールを持って来た
「とりあえず乾杯や え~~い」
『乾杯~』
青空の下で飲む朝ビールは 最高だった
「秀 だいたいがな 1レースと2レースは 鉄板って言うてな 本命と対抗で勝負できるんよ問題は その後のレースや たいがい荒れるんや もう1レースが始ってる これは 俺がもらいや 3万買ったさかい10万の儲けやな」
何とその通り 1レース開始と同事に白井さんは 当たった
「秀 2レースやるか?」
「はい」
俺は ◎の多くついてる シャインアポロと ○印の多くついてる ダイタクミナミを馬連で購入した 生まれて初めて購入した馬券には 学生は禁止と裏書きに書いてあった もうそんなことはどうでもいい
第2レースが始まった 実況放送に合わせて俺が選んだ馬が好位置にいる いけー いけー そのままだ
予想通り シャインアポロとダイタクミナミが1着2着で 俺の馬券が当たった
「あ 当たった」
『秀 すごい~ いくら買ったの?』
「100円」
一ノ瀬も喜んだ
「秀 その馬券 4.5倍や 450円 まぁデビューには 丁度ええやろ」白井さんが茶化す
『100円からできるんだ 私もやろ~っと 秀 どうやって選んだの?』 一之瀬が問う
一ノ瀬が 喰いつて来た さすが好奇心旺盛な女だ
「うん ◎が多いのが本命で ○が多いと対抗 △って要注意で ▲ってやや穴 ×は注意」
『ふ~ん 白井先輩 ねぇ白井先輩ってば』 一之瀬が白井さんに何かを尋ねようとした
『もう無理よ この人 本気モードに入ったから とにかく止まらないの これって病気ね』
可憐さんは 半分呆れ顔になっていた 諦めて 生ビールを飲んでいる
「よし 今日はすべて穴や 秀 ×がついてる馬が 俺のド本命や」 白井さんが力説する
「えぇ これまで勝ったことない馬ばかりですよ」
「これからは 未勝利戦が続く 今日は良馬場や 場体重だけ注意していれば 何とかなる」
『ふ~ いつもの病気 これさえ無ければ最高の人なのにね~』 可憐さんが一人 蚊帳の外だ もういつもの様にしらけきっている
しかし この日のレースは 荒れに荒れ続けた まさに白井先輩の選ぶ 注意馬が必ず連対に絡む 恐ろしい人だ もう財布の中には 一万札が収まらないほど札束を抱えていた
可憐さんのおにぎりを頬張った後 白井さんは 再度無口になった
いよいよ 日本ダービーが近づいて来る
「おや 今日のド本命 ロゴタイプももキズナも場体重増えとるやん コディーノもくさいな レースは 固いと観たが お前何買うんや?」
「キズナから行こうと思ってます」
「甘いな 俺は またまた注意馬のエビファネイアからや ほな馬券買いに行くで」
かなりの混雑だった 俺も白井さんもいつの間にか 離れ離れになっていた
俺は 3連複で ⑧番のロゴタイプと①番のキズナ そして②番のコディーノを買った
可憐さんのところに戻ると 一ノ瀬も馬券を買っていた
白井さんもしかめっつらで戻って来た まるで真剣勝負に勝負師のようだ
「一ノ瀬も馬券買ったの? 何買った?」 白井さんが笑みをこぼして一之瀬に訊いた
『アクションスターとマイネルホウオウ 誕生日に合わせてみた 7月7日 枠連で7ー7』
「秀 一ノ瀬の方が博才あるで 7-7来たら超万馬券やさかい」
ファンファーレが鳴った
開始早々から 15万人の競馬ファンが競馬新聞を振り回す
地面から湧いてくるようなどよめき 各馬がゲートに入った 恐ろしい光景だ
ゲートが開いた
第1コーナーを回り アクションスターがトップを走っていた
『行けー 行けー そのまま』 一ノ瀬がスポーツ新聞を振り回しながら 叫ぶ
第3ーナーを回ったところで ②番のコディーノと⑧番のロゴタイプが上がって来た
それを追いかけるように ⑨番のエビファネイアが突っ込んでくる
白井さんが叫んだ
「行けー!!! 行けーー!!! 突っ込めー!!! させ! させ! そのままだ!」
勝敗は 写真判定にもつれ込んだ
「勝負だ! この勝負勝たせてもろうで あははは」 白井さんは すでに勝った気でいる
長い写真判定の結果 勝ったのは ⑧番のロゴタイプ 2着は②番のコディーノ 3着は⑨番のエビネファイアだった
18頭も走るんだもん 当たるわけなうないだろう 俺は大損だった
白井先輩は 何と三連複で20万円も購入していた
遂に 白井先輩の財布に諭吉札が入らず 残りは 可憐さんが持つ事になった
「ふ~ えぇ勝負やった 今日も軽く飲むか わしのおごりで」 白井さんは 満足げだ
『わ~い』 一之瀬が待ってましたと大喜びする 可憐さんは表情ひとつ変えない むしろ呆れていると言った方が いいのかもしれない
4人は 新宿に繰り出すと 割烹系の居酒屋に入った
俺は 考えていた 白井さんと俺では次元が違うと・・・
刺身の舟盛りが美味しい
一ノ瀬も嬉しそうだった
だが 可憐さんだけが 宙に浮いているように見えた
「ふ~ 酒も旨いし 肴も最高や 秀 お前競馬に向いてへんわ あはははは」
白井さんは 俺の事をけちょんけちょんに言い放った
その日の夜 俺は何故かもどかしかった 池袋の一之瀬と良く行くホテルに向かった
人間模様が交差する
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