第3話 ランチタイム
月曜日 今日の講義も朝一番からだった 頭が痛い 割れそうだ これが二日酔いなのだろか 胃の中の物は 何も無い とにかく水分補給を暇さえあれば摂っていた 大学に着くと 一ノ瀬ひかるが笑顔で俺に挨拶した
『おはよう 秀 どうしたの? 顔真っ青だよ 大丈夫?』
「あぁ 昨日白井さんと飲んで・・ 昨日の記憶が無いんだ それに生まれて初めての酒じゃん うぷ まじ苦しいんだけど」
『それで二日酔い 呆れたわ 心配して損しちゃった ねぇねぇ 今日の講義一緒じゃない 行こう』 一之瀬は 本当にしらけた顔をして俺を見つめ返す
「あぁ じゃ一緒に講義受けるか よいしょっと」
この日の講義は 一ノ瀬と同じ学科だった
昼のランチも一緒だ
「俺 かけうどん 一ノ瀬は?」
『うん 私は 今日王道のAランチ 鶏肉のソテーとマーボ豆腐いくわ』
二人は 食券を買うと それぞれの料理メニューの受け渡し場所に別れた
『あら 秀君 今からランチ? 一緒に食べる?』 その声は 憧れの中野可憐さんだった
結局 一ノ瀬と可憐さんと3人で食事をしていたら ごそっと音を立ててワンダーフォーゲル同好会会長の白井祐也さんがどかっとBランチセットを持って 3人の間に入って来た
「あ こんにちは 白井先輩 俺昨日 どうやって帰ったんですか? 覚えて無くて」
「だろうな あんなに酔っちゃ タクシーでお前の家まで送ってやった 姉ちゃん綺麗だな いくつだ?」
「二十歳です え~ 俺そんなに酔ってたんですか~~」
『ふふ もう大変 カラオケ唄いまくり 全然覚えて無いんだ~?』
「はい」
「まぁいい 誰にも迷惑かけてないからな それにしても 秀 お前酒弱すぎるぞ」
『先輩 私 話が見えないんですけど 空気も読めない』 突然一之瀬が話しに首を突っ込ん来た 好奇心旺盛の女だ
「いいんだ 一ノ瀬 お前は 黙って喰ってろ」 白井さんは 横目で一之瀬を睨みつける
ランチが終わり みんなでコーヒータイムになった 一ノ瀬が俺の足を踏んだ 横目で俺に何かを訴えているかの様だった
「何だよ 一ノ瀬」
『どうして秀だけ 特別待遇なわけ 私も飲みに行きたかったんですけど・・・』
「ふふ 二十歳になるまでは 何もかもお預けだ これは日本の法律で決まってるんだ」 白井さんは 不機嫌そうにブラックコーヒーを啜った
『うう みんなで私に隠し事してる これって陰謀ですよ 陰謀!』
『違うのよ 白井先輩は 特別に秀君がお気に入りみたいなの まぁ弟分みたいな者ね でしょ 白井先輩』 可憐さんは 一之瀬と白井さんに目配せした
「いいや 俺は 今 麻雀のおヒキを探してるんだ 見かけ優等生っぽいのがいいんでな」
「でも 俺 麻雀じゃんなんか やったことないですよ」
「いくらでも 教えてやるよ この間の本読んだろ いくら初心者でもわかるはずだ」
「はい ルールくらいわ でも 白井先輩ってバイトとかしないんですか?」 俺は 何気なく尋ねた 白井さんは 今日は 機嫌が悪いのだろうか 苦虫を潰した様に答えた
「あぁ 自慢じゃ無いがバイト経験無しだ もっぱらギャンブルで喰ってる」
あぁ~~ 今度は麻雀か~~ 俺のキャンパスライフが崩れていく~~~
『ねぇ 秀君 今のうちに大人の階段上るのよ 私も応援してるわ』 可憐さんが笑う
「ほな 俺行くわ じゃあな お先」 白井さんは 空のコーヒーカップを持って去って行った
白井さんのギャンブル狂には 何かがある でも なぜ東大に行かないで H大なんだろう
そうこうしてるうちに 夕方の同窓会室の掃除の時間になった 白井先輩がもう来ていた
あの頭脳に 要約された知識が見てみたいものだ 謎の男 白井祐也 長い髪の毛を肩まで伸ばし 煙草をいつも吸っている 愛読書は いつも競馬の本だ 白井さんが競馬の本を読みながら 煙草に火をつけ俺に話しかける
「秀 今週の日曜日空けておいてくれ お前 どうせ彼女いないんだろう いいな」
「はい また飲みに行くんですか」 俺は 陽気に答えた
「いや 俺とお前のバイトだ いいとこ連れて行ってやるから はは」
そう言うと白井先輩は 煙草を揉み消し 髪をかきあげ 表へ出て行った
『ふふ 秀君 完全に舎弟になっちゃったね でも白井さんと秀君 いいコンビに見えてよ』
いつのまにか 可憐さんが同好会室に入って来た
『GW 同好会でバーベキューよ 全員強制参加 会費3千円 ひかるちゃん よかったね』
『わ~い これがあるからワンダーフォーゲル同好会入会したんですよ』
『ひかるちゃんもかわいいわね 今 彼氏は?』 可憐さんは 暢気そうに一之瀬に訊いた
『高校卒業と同時に別れました 今はフリーです』
『私もよ どっちが早く彼氏ができるか 競争ね』
『いやだ~ 可憐さんと私じゃ違い過ぎますよ~』
『何言ってんの まだ18歳じゃない ピチピチにはかなわないわ~~』 まるで漫才の様に語り合う 俺と白井さんが仲いい様に 一之瀬と可憐さんも特別に仲良さげに見えた
俺は 掃除も終わったので 二人のやり取りを見向きもせず 同好会室から消えた
そう 今日月曜日からは 生まれて初めてのバイトなのだ
板橋駅に着くと [居酒屋 はっちゃん]の暖簾をくぐった もうお客でいっぱいだった
宮田加代子さんが 生ビールのジョッキを持ちながら 一生懸命小走りしてた
「おい 秀 ここにある法被着ろ あとねじりハチ巻 後は 加代ちゃんに教えてもらんだぞ」
いきなり満卓の中で 俺は 加代さんの後ばかり追っかけて行た
『秀君 手をあげてる人がいたら注文聞いて それで私に教えてくれればいいから』 加代さんは 額に汗をかいている 左手に持つハンディ注文機に盛んに何かをインプットしている
「はい」
こうして俺の 人生初のアルバイトが始まったのである でも居酒屋のホールは 俺にとって天職だったのか 興奮と期待に溢れる中 きびきびと元気良く動き回れた 年上の加代さんが可愛いく感じる 時間の経つのが物凄く早く感じられた
店の中の陽気な雰囲気が何故か心を躍動させるのだ
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