第2話 人生初の飲酒

入学式早々 女性陣の勧誘に合い [ワンダーフォーゲル同好会]に入会してしまった

新入生歓迎会もあり いろんな人がいるが みんな優しい先輩たちだった


そんな中 高校時代つき合っていた 一之瀬と1年ぶりにキスをした

また復活してつき合う約束もしたが 結局一之瀬の深酒で単なる口約束だけだったのだ

全くしらけてしまう 正直 俺は まだお酒は 飲んだことがない 家の家系でも お酒が飲めるのは 姉の芽衣と親父だけだ 母は全く飲めない


ワンダーフォーゲル同好会の新入生は 授業が終わると必ず同好会室に集まり掃除をすることになっている

いつものように 競馬新聞と睨めっこしている 会長の白井祐也さんが 煙草を吸っていた


「おい 秀 お前誕生日何月何日だ?」 不躾に白井さんが突然俺に訊いてきた

「5月11日です」 俺は 何気に笑顔で答えた

「ほほう じゃあ今度のレース 馬連で5番11番 買ってみるか 当たりゃ万馬券だ」

「でも外れたら?」 

「馬鹿 今度のレースは鉄板なんだよ 穴買いの俺には 他人の誕生日で勝負した方が分がありそうだ」 白井さんは そう言うと煙草を揉み消した

「別に誰の誕生日でもいいんですね?」 俺は 半分呆れた顔で訊き返した 

「もし当たってたら ご馳走してやるよ はは  じゃあな」

そう言うと 白井さんは 長い髪の毛をかきあげ 同好会室から去って行った

『あら~ 秀君 白井さんにすかっりお気入りされたわね~』 

その声は 俺の憧れの中野可憐さんだった 見回りに来たのだろか 明るい表情だ

「でもいいんですか~? こんな感じで」

『いいのよ 白井さん あれで法学部なのよ 将来は 弁護士になるって あくまでも本人の意見だけど 人は 見かけじゃないわ 大学はいろんな人と仲良くならなきゃ じゃあね』


1年生は 俺を含めると 8人 その中に 高校時代つきあっていた一ノ瀬ひかるもいるわけで 別にこれと無く 無事一日学生生活が終わった


家に帰る途中 駅前の居酒屋で ホール募集の張り紙を見た

高校と違って大学は 何かと親の負担も大きい 親の脛ばかりかじるわけにもいかない

俺は板橋駅前の[はっちゃん]と言う居酒屋に入った


「すいません バイト募集の張り紙見て来たんですけど」

「おぉ~ イケメン君じゃないか 履歴書は?」

「これです」 俺は いつかは バイトするだろうと思い あらかじめ持参していた

「H大か~~ 花の東京六大学の一つだな 中肉中背 頭も良さそうだ いいよ 採用だ」

ひょっとこに似た お腹の大きい親方だ 年は 50歳くらいだろうか うちの親父年くらいだ

店の奥から 若い女の人が現れた

『マスター もう用意できましたけど』

「あ 加代ちゃん ちょうどいい この子 今度からうちでバイトしてもらう 島崎秀君だ」

「ぁ よろしくお願いします 島崎秀です」

『よろしく 私 宮田加代子です』

「そうだ この子の名前は 秀君でいいだろ 加代ちゃん仲良く頼むよ」

「じゃあ 僕は?」

「来週の月曜日から 来てくれ 夕方6時からだ 賄いもある いいね」

「はい よろしくお願いします」

「あいよ」 親方は 愛想良く笑顔で応えてくれた 何だか嬉しかった


金曜日 今日も一日終わった

考えてみたら ここ2週間でいろんな人と出逢ったものだ

特に可憐さんの影響が強すぎる 年上の女性か~ はぁ~ 大人なんだろうな~~


翌々日の日曜日の午後4時を少し回った頃 突然 俺の携帯が机の上で踊りだした

相手は 白井祐也さん ワンダーフォーゲル同好会の会長だ

「もしもし 島崎ですが」 俺は 若干焦りを感じていた どうしても威圧感がある人なのだ

「俺だ 白井だ 大変だぞ お前の誕生日で馬券買ったら 見事的中だ しかも万馬券 これから飲むぞ 至急新宿に来い いいな 必ずだぞ 5時アルタ前集合~~ いいな!」


何事も無い日曜日だと思っていたが 突然の白井先輩からのお誘いだ 断るわけにはいかない この日は 芽衣もいないので自分で選んだ春らしいファッションで新宿に出かけた

待ち合わせの場所に 白井先輩は すでに来ていた


「こんばんは~」

「おう 来よたっか まずは赤提灯で一杯飲もうや」

「え 俺 まだ未成年ですけど」 心臓が高鳴る

「俺は 中学生になる前から飲んじょるで はは 心配すんない 俺のおごりや」

赤提灯の店に入ると すでに煙草と酒の匂いが充満していた

「ビールくらい飲めるだろ?」 白井さんは 席につくなり俺に訊いた

「あ はい」 人生初のビールだ しかも相手は 白井さん 緊張する


白井先輩は 語った

日本の将来 政治 今の自分 過去に好きになった女 ギャンブル 話は 止まらなかった

夜の10時を回った頃 白井先輩が 妙ににやけだした


「秀 行くか? ガールズバー」

「え! 俺がですか まだ行ったことありません」

すでに 俺も酔っていた 何故か急に 女性と話をしたい衝動に駆られていた

「[ピンクキャッツ] 学割が効くんよ はは ほな行くで」

新宿のネオン街に消えて行く 俺の足も千鳥足だった 変に気持ちが高ぶる これが酒の力なのか 足元が揺れる 街の雑踏が妙に艶かしい まさにハイテンションだ 着いた先は ガールズバー[ピンクキャッツ]だった

店の奥に入っていく 白井先輩は 堂々としている まるで 荒野の用心棒のように・・・


『いらっしゃ~い あら 祐ちゃん おひさしぶり~~』

ホステスのミニスカートがやけに 妖艶に見える もうどうなってもいいと思った

『あら 秀君も来たの~』 ふと振り向くと そこには あの憧れの中野可憐さんがいた 可憐さんが 突然俺に抱きついてきた 心臓が止まるほど驚愕した 可憐さんは 大学で見たことのないような化粧で 俺を魅了する

『秀君 今夜はご機嫌ね~~ いい子いい子 さぁ飲みましょ』

俺は 上機嫌だった 最高の夜だ


これが大人の世界なのか 可憐さんの胸が 俺に当たる 可憐さんの美脚が衝動的だ

俺は 完全に酔いつぶれた



週始めの月曜日 頭が痛い・・・

いつ家に帰ったのか どうして自分の部屋にいるのか 検討さえつかなかった いつのまにか朝陽が 俺を照らしている


スマホの写メを見ると 俺の頬に可憐さんがキスをしている写真があった 生まれて初めて飲んだ酒は 妖艶な大人の甘い香りに変わっていた


それにしても 朝陽が眩しく 俺を嘲笑うかのように照らしている

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