第11話 落ち込み(自暴自棄)
あれよあれよと言う間に 大学に入学してから1ヶ月の月日が流れた
月曜日 同じ埼京線で いつも時間のいつもの車両に乗る一ノ瀬ひかると出逢った
「おはよう」
『今日は 私に話しかけないで 向こうの車両に乗ってよ!』 怒ってる
例の加代子さんと喧嘩したからだろうか
俺は スマホでメールの検索をしながら しかめっつらしていた
俺は 次の駅で降りると 車両を変えた
この日 いつも一ノ瀬と同じ講義だが 二人は遠く席を離れ 講義を受けた
ランチタイムになった
いつものように ワンダーフォーゲル同好会のメンバーが揃っている
それを無視するかのように 一ノ瀬と市川勝先輩は 離れてランチを食べ始めた
「秀 こっちへ来い」 会長の白井さんが いつも日替わりのAランチを食べていた
もちろん 奥さんの中野可憐さんもいっしょだった
「秀 話は市川から聞いたぜ 市川は一ノ瀬に告白したそうだ 残念ながら市川はいい先輩でいて欲しいとさ で 昨夜お前の彼女と一ノ瀬叩き合いになったんだろ 理由は 秀 お前にあるんじゃん どうだ? 図星だろ」
「はい 仰る通りです いただきま~す」 俺は 半分泣きそうな顔で食べた
『何も秀君だけが悪いわけじゃないのよ でも複雑な女心としては 一ノ瀬さんがかわいそうね』 可憐さんの意見ももっともだ 嘘偽り無い 本当の事だ
「秀 この際だ しばらく麻雀の勉強しようぜ 俺んちでさ 今日 バイト終わったら来いよ 池袋だ こういう時は 時の流れに身を任せるのが一番いいんだ」
「はい どうせ 加代さんも怒ってるだろうし・・・」
『元気だしなよ 秀君』 可憐さんは 相変わらずフォローをしてくれる
「じゃあ 秀 バイト終わったら メールくれや 板橋からならチャリンコで15分だ 途中まで迎えにいくけん 夜は 長いからな」
「はい」 俺は 力無く答えた
1日の終わりは 1年生が必ず同好会室を掃除する
相変わらず 一ノ瀬は 俺と顔も合わそうとしない さっさと掃除が終わったら帰ってしまった
「ふ~ まぁ秀 いい勉強やろ しゃ~ないわな ほな俺も行くで 戸締り火の用心頼むで」
白井先輩も長い髪の毛を振りかざし 競馬の本を抱えて同好会室を去って行った
俺も今日 バイトの日だ 足取りが重い 加代さん 怒ってるだろうな~
すでに店は満卓状態だった 加代さんは きびきび動いて 見ていて気持ちいい
俺も気合を入れて ホールに飛び出した この時期は 生ビールがよく売れる
何本もの ジョッキを抱えて お替りを持って行く 機敏な対応が必要だ
ひょっとこ似の親方は 焼き鳥料理を焼きながら 小皿料理も作る まさしく熟年の技だ
ところが9時半を過ぎた頃 加代さんは 突然帰ってしまった
逢っただけで 何も話をしなかった
「親方 加代さんは?」
「うん なんでも親戚が来てるらしいって」
「そうですか」
賄いは 店が終わってから親方と食べた
「加代さん 前の旦那がよりを戻したいと 言って来たそうだ」
「前の旦那さん 今仕事何してるんですか?」
「聞いた話だと 自衛隊さんらしい 俺は どうも男と女の話は苦手でな」
賄いを食べた後 白井先輩にメールを入れた
すると 白井先輩から直で 電話がかかってきた
「おう 秀か 東武デパートの正門玄関で待ってろ 板橋からだったら15分で着くやろ」
「はい」
俺は チャリンコで 池袋まで出かけた 多少坂道のある街だが皐月の新緑が薫るお洒落な街だ 高いビルが密集している ビルの窓からは 灯りが点り目に眩しく感じるくらいだ
すでに白井先輩は待機していた
「おう おつかれ 俺の家に行くで」 相変わらずノー天気な人だ 羨ましくなってしまう
「はい」 俺も元気に挨拶した
歩いて10分のところにお洒落なコーポがあった
「ここや ここの102号室が俺らの部屋だ さぁあがらんか」
「はい」
それから 白井先輩の部屋で麻雀のテクニックを学んだ
「秀 コンビ打ちには 絶対必要なテクニックじゃ 題してエレベーターや
ぐ~がピンズや パ~がマンズ ちょきがソウズ 1本指は東 2本指は南 3本指は西 4本指が北 咳1回で白 咳2回で中 咳3回で発や いいか それに合わせてテーブル下で足を踏むさかい その回数で その数字の牌を寄越せば 楽勝や 99%勝てる ただし秀は あくまで国士無双狙いじゃ いいな」
白井先輩が熱意を込めて教える この人の頭脳回路が見てみたい 本気で思った
「ええか それを頭に入れろ それで麻雀卓の下で わいの牌と交換するんや 今日はここまで 良く頭に叩き入れておけや これカンニングペーパー 明日覚えろや」
「はい」
「よし 後 麻雀の牌セットや これで積み方も練習しろ わいと組んだら いいバイトになるきに お前は あがらんでもいいんや 現物牌で降りて わしの欲しい牌を寄越す な!」
「はい」
「よし 1杯飲むか」
時刻は 1時を回っていた 白井先輩と話混んでいたら いつのまにか2時半になっていた
『ただいま~ あら秀君 遊びに来てたんだ~ 大丈夫 こんな夜遅くまで』
「あ 3時になったら帰ります 今 お仕事終わったんですか?」
『そうよ 平日は2時までだから』 可憐さんは 少し酔っていたのか足元がふらついていた
中野可憐さん 俺のマドンナだ それにしても化粧をすると本当に妖艶だ まさにそそるものを感じる この世界にこんな素敵な女性がいるだけでも生きてて良かったと痛感させられる
『秀君 かわいいわね ね 祐也 あなたも弟みたいに思ってるんでしょ』
「俺は 今麻雀のおヒキを探しているんだ ちょっとお坊っちゃん系のな 秀は まさにそのタイプだ」 白井さんは ウーロンハイを飲みながらしみじみ語る
「前回もやったので だいたいのルールは 覚えました あくまでも国士無双狙いでいいんですよね」 ま 俺は おヒキですもんね」
「あぁ 国無だ 俺の合図が入ったら 決まりの牌を 俺によこせばいい」
「じゃぁ 時間ですから 失礼します」
「秀 お前 明日バイト休みやろ 早速打ちに行くぞ」
「はい」
「学生がいっぱいおる 高田の馬場にな 東大が多く集まっている やつらを倒しにな」
「はい じゃぁ 失礼します」
その時だった 可憐さんが 隣の部屋でパジャマに着替えているのを見てしまった
きゅっと締まったウェストに形のいいバスト ヒップアップしたお尻 俺はさっと目をそらした
『じゃあね 秀君 ゆっくり眠るのよ~』
「はい おやすみなさ~い」
帰りの道でコンビニに入ると 白井先輩の吸っている マルボロとライターを買った
何気に コンビニの店の前で 生まれて初めて 煙草を吹かしてみた
思いっきりむせた
「ゲホッ! ゲホッ!」
紫煙が夜の空に 吸い込まれて行った
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