第12話 坊や

今日は 火曜日 何故か目覚めが悪かった どうしたんだろう?


ここのところ 毎日酒を飲んでいる それが原因なのか それとも昨日初めて煙草を吸ったからだろうか それとも一之瀬と加代さんの喧嘩を気にしているのか 困った物だ

でも俺は ワンダーフォーゲル同好会会長の白井先輩と同じ[マルボロ]とライターをカバンに入れた まだ箱を開けて1本しか吸っていない 基本的に煙草とは 相性が悪いのかも


彼女の加代さんからもメールは無い どうしたものか気になるが・・・

いつもの電車のいつのも車両にいつもいる 一ノ瀬ひかるがいなかった

今日の講義は 必修講義で一ノ瀬を見たが 顔も合わせてくれない

まだこの間の日曜日のことを怒っているのだろうか


昼のランチタイム いつもの学食に行くと 白井先輩と奥さんの可憐さんや 

ワンダーフォーゲル同好会のメンバーが集まっていた 俺は カツ定食を頼むと 白井先輩が手を振る 相変わらずマイペースな人だ この人は いつも不思議だ まさに謎の人だ

「こんにちは~」

「今日は カツか じゃあ今夜も勝とうぜ 昨日の麻雀の復習はしてるな?」

「はい 講義時間にしてました いただきます」

白井先輩は いつもの王道の日替わりAランチを食べていた

『無理しなくていいのよ 万が一 麻雀負けることもあるんだから』

可憐さんは 食事を終えてコーヒーを飲んでいる


一ノ瀬が 学食に入って来た

『一ノ瀬さん ここここ 一緒に食べましょう』 可憐さんが 一ノ瀬に声をかけた

一ノ瀬は カルボナーラだった

『最近 一ノ瀬さん 元気無いわね どうしたの?』

『そこのむっつりスケベに理由聞いてください』

「何だい 何だい いい加減 秀と仲直りしろよ これは会長命令だ!」

白井さんが 味噌汁を飲みながら 少し興奮気味に喋った

『無理は 無理なんです 今 ここで食事してても腹立って うう・・・』 一之瀬は 突然泣きだした それを見た可憐さんは 席を立ち上がると一之瀬のそばに歩み寄った

『一ノ瀬さん あなた わかった 席を隣に外しましょ いいでしょ 会長』

「うむ かまわん 俺の知った事か まぁいい 女は女同志 それもいいだろ」

一ノ瀬と可憐さんは 遠く窓際の席に移動した


「秀 お前も女泣かせだな こういうのは もっと上手くやれ 頭 頭 頭を使うんだよ 物事には 順序がある 冷静になれ まぁ若いうちは 失敗はつきものだが おい コーヒー飲むか? えぇんか?」

「あ はい 飲みます」

「俺が持って来てやる 高いぞ~ わははは」

あくまでも ノー天気な白井先輩が 羨ましくみえた そして男の逞しさも感じる

この人には 悩みは無いのだろう 人間 誰かしら 悩みはあるものだ

しかし 白井先輩からは 何も感じない むしろ白井先輩らしいオーラさえ感じる


一年生は 講義が終わると 同好会室の掃除をしなくてはいけない

白井先輩は いつもの如く珍しい難しそうな競馬の本を 煙草を吸いながら 読んでいる

一ノ瀬は 俺と目を合わせないようにしている

何だか とても虚しくなった 掃除が終わると 一ノ瀬はさっさと同好会室から消えた

「秀 あれは 重症だな 俺には 理解不能だ」

そんな時 可憐さんが 同好会室に入って来た

『女は 繊細な生き物よ 男と違って どこかのギャンブル馬鹿と違ってね』

可憐さんも カリカリしている 

俺と白井先輩は 顔を見合わせるように 同好会室を後にした

「可憐さんも怒ってましたよ 何でですか?」

「実は 最近お馬さんで負けが続いてるんだ それで可憐に借りてさ 秀 今日の麻雀で取り戻すぞ!」


二人は 意気揚々 高田の馬場駅から歩いて5分の雀荘[窓]に向かった

いつもの頭の禿げた 中年のおじさんが テレビを観ていた

「学生 二人だ おっちゃん 相手いるかい」

「おや 祐也ちゃん 久しぶりじゃないか 相手か~ いるよ あの窓際の二人だ どうだ?打つかい」

「あれ 見た感じ 東大生だな」

「あ~ 最近現れた 現役の東大生らしい 強いぞ」

「あぁ~ 強い奴は 大歓迎だ 打たせてもらう」

俺と白井先輩は 窓際の雀卓に向かった

「おや 噂の哭きの祐也か お前の噂は耳に入ってるぜ」

「さぁな お前ら 俺には初見参じゃねえか どうして俺を知ってんだ?」

「俺らは 泣く子も黙る [東大 麻雀同好会]に所属してんだぜ 祐也 お前の顔写真も同好会室に 飾ってあるよ 裕也 お前の腹違いの兄が この同好会設立したんだろ なぁ 妾の子のくせに」

「腐ってるなお前ら 俺が お前らの性根を叩き直してやるわい」

「ふん そんなこと言ってられるのも 今のうちよ 麻雀は頭脳だ ボンクラには出来ねえよ」

「俺は今まで 勉強で負けたことは 一度もねえぜ 天稟でどうや?」

「ふふ 吠えずらかくなよ 受けてやるよ この指名手配め 座れよ」


俺は あまりの緊迫感に胸に穴が空きそうだった

勝てるのか 相手は強そうだ 自信は無い でも白井先輩だけが頼りだ

俺は カバンの中から 煙草を取り出し 火を付けた

「ごほっ ごほっ」 思い切りむせた

「何だい? 裕也ちゃん こんな煙草も吸えない坊や連れて 大丈夫なのかい?」

「俺の 秘密兵器だ これでも秀才だぜ さぁ 打とうや」

勝負が始まった


窓の外から 夕焼けの光が差し込んでくる



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