第14話 加代との別れ

この日は さすがに二日酔いでベットで蠢いていた


『秀 御飯よ 朝ご飯』

「ん~ 今行く」 俺はよろめきながら起きた

親子4人の朝食も珍しい

「あ お母さん今月の分 ローンに回して」

『秀 もうバイト代でたの?』

「いや昨日 思わぬ収入があってさ はい三万円」

父の修が 新聞を読みながら ひと声をかけてきた

「今のところ 大学でも沢山のお友達できて つき合いも大変だな」

『でさ あんたを送ってくれた あの超美人のお姉さん何て言うの?』

もしかして 可憐さんかな 覚えがない

『すご~い綺麗だったわ いくつなの その子』

「姉ちゃんと同じ年かな 今年で21歳」

『付き合ってるの?』

「いや 彼女もう結婚してるもん」

「ほほう 学生結婚か 離婚率高いらしいぞ 秀 奪っちゃえ 奪っちゃえ』

『何よ~ お姉ちゃんのくせに 変なことふきかけかないの』 

母の美枝子がチャチャを入れる

『そういう芽衣だって 男の話全然無いわね』

『一応面喰いなんで そこらへんの男性とは無理です』

「まぁいい お茶飲んで行こうか」

父の修は お茶を飲むと早々にスーツに着替えて出て行った


この日も いつもの時間のいつもの車両にいつもの一ノ瀬ひかるは乗っていなかった

彼女も文学部 同じ必修科目では顔を見せたものの 相変わらず目は 合わせてくれなかった 俺は 罪を認めている 非は 俺にあるのだ だがそれをどう伝えればいいのか

俺には どうしていいか分からなかった 一番身近にいる元彼女が今は 本当にいない


ランチタイムでは 珍しく ワンダーフォーゲル同好会会長の白井先輩や可憐さんもいなかった 当然のごとく一ノ瀬は 俺から離れて席をとった


一年生は 一日の講義が終わると 同好会室の掃除をする

白井先輩は 相変わらず机の上にあぐらをかいて 競馬の本を読んでいた

一ノ瀬は 俺とここでも目を合わせない 俺は だんだん虚しくなっていった

そんな時だった 可憐さんが現れた

『秀君 もううちのお店出入り禁止だからね 昨日の事何も覚えてないんでしょ ねぇ?』

「はい」

『あんな中年のおじさんみたいな飲み方して 女の子見るとすぐ抱きつくし もう』

『秀は そんな男なんです 可憐さん 今頃気づいたんですか』

一ノ瀬が久々に 喋った

「おぃおぃ そこ~! 揉め事はよせ 奴にもいろいろあったんだろうよ なぁ秀?」

「俺・・・帰ります」 俺は 掃除が終わった途端 すぐ同好会室を後にした

俺は もしかしてすごい酒癖が悪いのだろう そう自分に戒めていた 


板橋駅前の居酒屋[はっちゃん]に バイトにいった

今日は加代さんでは無く 中年の小太りのおばさんが ホールで働いていた

「親方 あの方は?」

「あぁ 俺の女房だ しばらくの間 助っ人として働くから 加代ちゃんは やめたよ 準備せぇ」

俺は ホールに飛び出した 半分泣きそうになりながら それでも笑顔は絶やさなかった


バイトが終わって 加代さんに直に電話した 6回目のコール音で加代さんが出た

『あ 秀 どうしたの?』

「うん バイトやめたって聞いて どうするの?」

『前のがさ 今心入れ替えったて・・・ 千葉の習志野に引越すの 前のとやり直してみる ごめんね』

「じゃぁ 気をつけて からだ元気にしててね じゃぁ」

『じゃぁ』


俺は 夜空を見上げながら泣いた それでも涙が溢れてくる 思わず胸がキュンとした

カバンの中から 煙草を取り出すと 火をつけ煙草を吹かした もう咳き込まない

紫煙が ゆらゆらと空に向かって消えていく

加代さんとの懐かしい想い出が 頭の中を駆け回る

歩いて家までの距離が長く感じた


今 俺は また一人になった

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