3.Ridiculous companion
翌朝、指定された東門にアルバートがたどり着くとそこにはすでにクランの姿があった。
髪は後ろで結ばれ、着ている服はワンピースから細身の鎧に変わり、その両脇には二本の剣がそれぞれ差した臨戦態勢だった。
「お、アルバート殿。おはよう」
気づいたクランの笑顔に手を振って返してからアルバートは隣の壁に寄りかかった。
「まさか来てくれるとは思ってなかったぞ」
「……受けた仕事はきちんとやり切る主義でな。不本意なやつでもな」
アルバートは心底不愉快そうに返すとおもむろに銃を取り出していじり始めた。
その銃口の先には四つの筒がついたダイヤルのような物がはめられていた。
「魔導銃か? 珍しいな」
「知ってるのか?」
「ああ。持ち主の精神力を弾に変換して撃ち出す武器と聞いている。使っているところは見たことはないが」
興味津々に覗き込んできたクランにアルバートは冷たい視線を送った。
「……呆れたな、仮にも依頼したい相手の得物を知らないとは。真っ先に調べる案件の一つだろう」
「
「おーい」
そう言ってクランが笑っているとパンパンに詰まった袋をいくつも背負い込んだ四人の姿が大通りから見えてきた。
「ありゃ、あんたらのお仲間かい?」
ティントが手を二人に振ってきたのを見たのか、通りがかった中年の男性が突然声をかけてきた。
背中に大斧を背負った鎧姿から明らかに同業者だと分かる彼にアルバートは律儀に答えた。
「仲間、というか今回の仕事の同行者だな」
「そうかい。悪いことは言わねぇからあいつらとはさっさと手を切った方がいいぞ。こいつは俺の持論だが、パーティを女で固めてる男にゃロクなやつはいねぇ」
それは持論というよりも傭兵界の常識だったり定説だったりするのだが、それをわざわざ指摘するほどアルバートは野暮ではなく、
苦笑いと首をすくめる仕草だけにとどめた。
「待たせたかな?」
そんな会話が交わされていたとは全く気づいていないティントは笑顔でアルバート達の元へ駆け寄ってくる。
問われたアルバートは首を横に振った。
もしここで「待った」と言ってしまえばアルバートよりも先に着いていたクランに申し訳がたたないからだ。
「それじゃ全員集まったようだから出発しよう。歩くのは面倒だから馬車でも探すか」
ティントの提案で他のメンバー達はすぐに馬車を探し始めたが、アルバートは鳩が豆鉄砲を食らったようにぴたりと動きを止めてしまった。
昨日「歩きで三日ほどの距離」と話していたのと沢山の荷物の量から、てっきり歩いて目的地まで行くものだと考えていたからだ。
「ん? アルバート殿、どうした?」
「ああ、いや、何でもない」
そんなこんなで東門の周りをうろうろしていると、ちょうど問題の村から物資の買い出しに来ていたという農夫が見つかった。
「うちの村に出たゴブリンを退治してくれる冒険者さん達なんだろ? だったら早く連れてってやらにゃと思うしな」
そう言いつつ運賃をきっちり要求してきたが、ティント達は感謝するばかりで金額の交渉などを行う気がさらさらなかったため、アルバート達も言い値で支払わざる負えなかった。
「……この額だったらもう少し遠くまで行けるぞ」
とはいえ人が歩くよりも速く移動できる馬車によって、次の日の昼には着けるだろうと農夫はティント達に告げた。
本来それだけの時間があれば改めて相互理解を図るものなのだが、ベラーノとスーラはひたすらティントに構うばかり。
この仕事が終わったらすぐにいなくなろうとしているアルバートにも話す気は無く、荷台に乗るとすぐに顔に布をかけて寝の体勢をとってしまった。
取り残された二人は顔を見合わせるとどちらからともなく口を開いた。
「あの……あ、どうぞ」
「あの……すいません」
そしてお互いに譲り合って再び黙ってしまった。
しばらくして意を決したようにリアが顔をあげた。
「クランさん……でしたよね。今までどのくらい依頼をこなされてきましたか?」
「あー」
リアの質問にどの単語を使って返せば良いか、通訳が出来るアルバートに横目で助けを求めたが、残念ながら頼みの綱は布で目を隠しているだけでなく早くも寝息までたて始めていた。
「その……ええっと。私、依頼」
「あっ……ごめんなさいなんでもないです」
クランは頭の中の辞書をひっくり返して答えようとしたが、間を開けすぎたせいかその前に切り上げられてしまった。
そんな一部のメンバーにとってはひたすらに居心地の悪い馬車が止まったのは、そろそろ日も暮れようかという時間だった。
「今日はここらで止まるぞー」
夜通し街道を進む、という選択肢は通常とられない。
なぜなら凶暴な獣や賊に出くわしてしまう確率が昼間よりも夜の方が高いからだ。
それだけに夜間の移動というものはよっぽど切羽詰った状況にあるか、夜じゃないといけない事情があるか、昼夜関係なく動けるだけの手練れを連れているか、そういった知識が抜けている愚か者くらいしか行わないことだった。
「あー疲れた。お尻いたーい」
「文句を言ってないで早く準備しないと。日が暮れてしまうわ」
ベラーノが荷車から降りながら辺りをはばからない大声を上げるのをスーラは咎め、農夫とティントは苦笑いしながら見ていたがクランは周囲を見回しつつ顔を顰めていた。
馬車が止まったのは広々とした草原の側で、周囲に魔物や賊が隠れられそうな森や廃墟はない。
しかし周囲に遮蔽物がないということは火などを使ってしまえば、かなり遠方からでもそこに誰かがいるのだということが丸分かりになってしまう。
一応街道沿いは傭兵や兵士によって定期的に駆除されており、そこを大きく逸れたりしない限りは大体の安全が保たれている。
ただ被害に絶対に遭わないかと問われれば「はい」とは即答出来ない程度の安全性しかない。
できればもう少し移動して、窪地のようなものがある所まで行きたいクランであったが、自分よりもこの辺りについて詳しいであろう農夫のことを信じて口をつぐんだ。
「おーい、アルバート、起き」
「起きてる」
その一方、ティントに声をかけられたアルバートは体を起こして胡座をかいていた。
「見張りは俺とあんたでやろうと思うんですけど」
「それは……俺とあんたで
農夫も入れればこの場には七人も人間がいる。これだけの人数がいれば朝までの時間、それほど苦痛も寝不足もなく見張りができる。
夢見がちな新人の割にはきちんと考えたな、と内心感心しようとしたアルバートだったが、次の瞬間その考えははるか彼方に吹っ飛んでいった。
「いや、俺達だって寝ないと辛いだろ? 俺とあんたで交代してだ」
「は? 一人でやる気か?」
アルバートとしてはティントの言っていることは考えられないことだった。
見張りにしろ偵察にしろ、アルバートの周りでは寝落ちや遠距離から狙撃された場合など、一人が意識を失っても隙が生まれないように二人一組でやるというのが常識だった。
「なんか文句あんの? ティントがそうするって言ってるんだから黙って従いなさいよ、雇われの分際で」
単独で見張りをすることの危険性と非常識性をアルバートが訴えようとした瞬間、その不穏な様子に気付いたベラーノがなじるような口調で大声を出した。
隣にいたスーラは声こそあげるようなことはなかったが、内心思っていることはベラーノと同じらしく、アルバートへと向ける視線は冷たかった。
「あー分かった分かった。一人でやればいいんだろ? 俺とあんたと、どっちが先に見張る?」
仮にもリーダーを任されてる者がこんな非常識でいいのだろうかと思ったアルバートだったが、ここで言い争いをしても相手側の味方が多すぎて話にならないことは明白で、徒労だけが増えるのが目に見えたため早々に白旗を上げた。
「あんたで頼む。とりあえず俺は寝たい」
「あいあい。夜半辺りで起こせばいいな」
「あぁ、頼む」
ひらひらと手を振りながら、話はこれで終わりだとばかりに気の抜けた返事をするティントとその
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