8.敢為邁往
蹴り殺されたゴブリンの死体の列が見えるとクランはさらにその歩調を早めた。
そしてしゃがみこんで何かをやっている緑色の背中が見えた瞬間、飛び上がって両手に持った剣を振り回した。
突然宙を舞った二つの首に視線が行ったゴブリンに着地の勢いで片方の剣を突き刺す。
あっという間に三体のゴブリンを屠ったクランは剣を引き抜くと両の刃の状態を見てから鞘に戻した。
改めてゴブリン達が囲んでいた物を見ると、そこには脚を切り落とされた見覚えのある少女の死体があった。
切り落とされた脚もその作業に使われたと見られる剣もその場に転がっていた。
クランは槍を途中で折ってから引き抜き、体を表に転がした。
茫然とした様子で見開かれた少女の目に手をかざして閉ざした後にクランは両手を合わせて俯いた。
そして目を開くと鞘に戻したばかりの剣を引き抜き、小部屋の奥に投げた。
投じられた剣は奥にある通路から歩いてきたゴブリンの頭に突き刺さり、勢いのまま後ろに倒れた。
「あれは研いでももう使えないかな」
全く警戒せずにやってきたゴブリンを鼻で笑いつつ、スーラの遺体の近くに転がっていたティントの剣の状態を確認した。
しかし先程までめちゃくちゃな使われ方をしていただけに、お気に召す状態ではなかったらしく厳しい表情は据え置きだった。
「無いよりはましか……」
とはいえとりあえず持っていくことにしたらしく、クランは強引にベルトと鎧の間に剣を差し込んだ。
そして通路でひっくり返っているゴブリンの死体から剣を引き抜くと、それで無理やり死体の腕を斬り、露出した骨を通路の両端に突き刺してから縄を結んだ。
腕を左右に動かし、その強度に不安そうな表情を浮かべたがクランは先を急いだ。
しばらく進むと最初の部屋よりは狭いものの、広間になっている部分を見つけた。
クランは岩の陰から中を覗き込んだ。
勝利の美酒の真似なのか大きな個体と小さな個体が円を成して石で出来たカップで何かを飲んでいる姿、そして部屋の奥で何かに向かって腰を振っている動物の骨を被ったゴブリンの姿を見たクランは指を折りながらブツブツと呟いた。
「亜種は二、リアさんはあそこ……やれるな」
そして荷物の中から紐が伸びた丸い物を取り出し、紐を抜いてから部屋の中に放り込んだ。
その直後眩い閃光が部屋を満たす中、クランは素早く来た道を引き返した。
光が収まるとすぐに何体もの足音がクランの後ろを追いかけてくる。クランは縄を跳び越え、さらに走った。
そしてしばらく行った所で身を翻すと持っていた紐付き玉を口で引き抜き、縄に向かって投げた。
直前まで迫っていたゴブリン達は紐付き玉から発せられた光に反射的に目を閉じ、足元の縄に気づかずに引っ掛けて倒れた。
引っ掛けた中でも一番大きな個体にクランは駆け寄ると真っ先にその頭にティントの剣を突き立てた。
「
再び両剣を引き抜き、起き上がり際のゴブリンの首を次々と撥ねる。
「二、三、四」
光に目が眩んだからか、前にいた仲間達が倒れたのを見たからか、仕掛けに引っかからずに手前で足を止めていたゴブリン達にもその刃は容赦なく襲いかかった。
「五、六」
追手を無傷で片付けるとクランは間髪入れずに通路を戻り、再び部屋の中に玉を投げ入れた。
中に残っていたゴブリン達は閃光に備えて目を腕で隠したが、玉は容赦なく腕どころか体ごとゴブリン達を吹き飛ばした。
「ゴブリンでも思いつくようなことを全ての人間様がやると思うなよ?」
木っ端微塵になったゴブリンの死体を蹴り飛ばしながらクランが部屋の中に入ると、ようやく骨ゴブリンは異変に気付いて腰を止め、後ろを見た。
さっきまで笑いながら酒を飲んでいた仲間達が揃って肉塊になり、返り血で所々を真っ赤に染めた真っ白な人間がその真ん中で笑っているのを、見てしまった。
慌てて呪文のような物を唱えようとするもすでに遅く。
開いた口に一瞬で詰め寄ったクランによって剣先を突っ込まれた。
「ア、ア……」
苦しそうにうめく声を無視して勢いよくクランが剣を引き抜くと骨ゴブリンは血を盛大に二方向から吹き出しつつ倒れた。
その倒れた傍らには鉄靴以外全てを脱がされ、体中に透明やら白やら赤やら様々な液体を塗りたくられたリアが息絶え絶えに転がされていた。
クランは剣を投げ捨ててリアの体を抱き上げると頭を撫でながら耳元でこう囁いた。
「一人で半分以上やってくれ……よくやりました」
アビレオ語で最初話したが、リアには通じないのを思い出してアンテロープ語で簡単に言い直す。
するとリアの目にみるみる涙が浮かび、すすり泣き始めた。
鎧にすがりつくリアが落ち着くまで、クランは黙ってその頭を撫で続けた。
こうして大量の犠牲を生みつつ、五人の傭兵達の狩猟は終わった。
死者、一名。
討伐、ゴブリン六十八体、ホブゴブリン一体、ゴブリンシャーマン一体。
褒賞金、銅貨四十枚。
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