第17話 自宅に突撃訪問してみました…。
「お兄さん、これ2つ頂戴!」
「はいよ!2つで150バリスね!」
「私はこのパン4つ!」
「まいど!…4つで200バリスね!」
露店街にあるパン屋。
今日ももう時間は夕方に差し掛かろうというのに、朝からずっと客足が途絶えることはなく、
「ごめんよ!今日は売り切れだ!!」
いつも通り今日の分を全て売り切り、店閉まい。
「相変わらず繁盛してんな。羨ましい」
「ははっ、たまたまだよ」
周りの店からも羨まれるほどの盛況ぶり。まだ、店を出して半年程度だというのに、既にこの露店街ではNo.1の人気店である。
「それにしてもパン屋って意外とチョロいな」
店の片付けを終え、一人帰り道を歩きながら呟くローレン。店のあまりの好調さにその表情は思わずニヤついてしまう。
「素人に毛が生えたようなレベルのパンでも安売りするだけでこんなに売れるんだからな」
ローレンの店の向かいには自分の店より断然味が美味しく、長年この露店街で店を続けているパン屋が。
しかし、毎日繁盛しているローレンとは裏腹に、その店はもうすぐ閉店という危機に瀕しているらしい。
「結局味の違いなんてここらの奴等には関係ねぇんだよ。所詮安けりゃなんでも売れるんだよ!ハハッ!」
ローレンの向かいの店も決して高く売っているわけではないのだが…
「まぁ、でも普通の奴じゃうちみたいな価格は出せないだろうけどな」
向かいの同業者に比べて3割も安い価格。普通、それを実現するためには原価を極限まで削った上でかなりの薄利で売るしかない。
しかし、ローレンの場合…
「俺にはこれがあるからな」
ローレンは周りを見渡し、誰もいないことを確認し、
「クリエイト・クローン!」
そう独り言のように呟くと…
「よし、この荷物"みんなで"手分けして持って帰ろう」
「「「「おう!」」」」
何もないところから現れた4人の"自分自身"に指示を出すと、5等分したうちの一人分を持って再び歩き出し、それに追従する形で"他の4人"もそれぞれの分担分を持って歩き出した。
「こんな魔法でも使えない限り、あんな価格出せるわけねぇんだよ!」
ローレンが唯一使える魔法ーー分身魔法。材料費を極力節約した上でこの魔法で多くの人手を確保し、一人分の費用で大量生産を行う。
ーーこれがローレンが毎日安売りで大量のパンを売ることのできる理由だ。
安売りで儲けようと思ったらその分数を売るしかない。だが、いくら材料を安くしたところで一人では作れる量に限界があるし、作る人数を増やせば人件費がかかって結局安く売ることはできない…。
しかし、そんな普通の店が抱くジレンマもローレンには関係なし。
「この魔法だけしか使えん俺だが、この魔法を使うだけで十分稼げるんだから、魔法様様だよな」
笑いが止まらないとは、今の自分のことを言うのではないか?と思う程上機嫌なローレン。
「まぁ、でも欲を言えばもう少し稼ぎが欲しいところだよな。毎日パン作るのって意外と大変なんだよな。朝も早ぇし」
そんな多少の愚痴もこぼしつつ歩いていると、あっという間に自宅に到着。
「キャンセル」
ローレンが分身魔法を解除すると、すぐさま分身は消滅した。
「この魔法使ってもっと儲けられる方法とかねぇかな」
何気なくそんなことを呟きながら家の扉を開けると、
「お帰りなさい、ローレンさん」
「す、すみません…お邪魔してます…」
「なっ!?」
中にはまるで我が家の如くソファでくつろぐ男が一人と申し訳なさそうにしている少女が一人。
「お、お前は、あの時の!!」
「お久しぶり…と言うほど前の話でもないですよね?」
他人の家だというのに余裕の笑みを湛えているこの青年と、居心地悪そうにしている少女の名は…
「営業屋…だったか…?どうやったかは知らんが、他人の家に勝手に上がり込みやがって…一体何の用だ?」
そんな突然の出来事に、ローレンは警戒心を強めつつ、冷静に問いかける。
黒崎ミズキとリア=オルグレン。
――潰れる寸前の向かいのパン屋から、滞納している納税分のクリアを依頼されている"営業屋"という店の者達である。
「嫌だなぁ。この前約束したじゃないですかーー『お役に立てる話があるから準備ができたら説明させて頂く』って」
ローレンの問いに対し、全く悪びれることなく、逆に自分達はここにいて当然と言わんばかりの態度で答えるミズキ。
「…別にそんなの俺には必要ーー」
そんなイラっとする態度にも冷静に対応しようとするローレンだったが…
「ーー魔法を上手く活用して、今よりも稼げるっていう話…興味ないですか?…気になりませんか?」
彼の言葉を遮り、ミズキはさらに踏み込んできた。
「…どこでそれを?」
魔法のことといい、稼ぎのことといい…誰にも話したことのないことが知られており、警戒心から少し語気を強めるローレン。
「ははっ、それは企業秘密です」
「……」
(コイツ、バカにしやがって…!!ーーいや、それより何でコイツが俺の魔法の話やら稼ぎを増やしたいと思ってること知ってんだ…?別に最悪バラされても大した影響はないが…)
「そんなに警戒しなくていいですよ。別にあなたを脅すつもりはありませんからーー僕はただ、あなたと商談したいだけなんですよ」
全てを見透かされているような目を向けられ、当初は動揺を隠しきれないローレンだったが…
「…それじゃあ、とりあえず話だけってことなら。但しうちになんのメリットも無さそうならすぐに帰ってもらうぞ?」
(どうせこういう奴等はここで断ってもまた来る。それなら今、話を聞いた上でしっかり断っておいた方がいい。それに、もしかしたら本当に良い話を持ってきてるかもしれんしな)
警戒しつつも、若干淡い期待を抱きながらその申し出を承諾。
一方、対するミズキの方はというと…
「はい!ありがとうございます!――では早速ですが…商談を始めましょうか」
ローレン側の予想通りの答えに、ニヤリと不敵な笑みを浮かべていた。
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