第13話 潰れる寸前のパン屋の再建、始めました…
「それじゃあ、具体的な依頼内容…話してもいいかしら?」
頼ろうとしている相手のあまりの奇抜さに、依頼を断ろうかという思いがよぎったエミリーだったが、
(もう、私にはここ以外に頼れるあてもないし、今の状況を打破できそうな方法も思いつくものはすべて試した…。どの道ここで依頼を躊躇ってても、結果は大して変わらない…。それなら…)
残念ながら自分には彼らに頼る以外の手段がないという悲しい現実を思い出し、ダメ元で覚悟を決めた。
「はい!勿論です」
一方、ダメ元で依頼されているなどとは全く思っていないであろう、無垢な笑顔で嬉しそうに返事するリア。
そんな少女に若干罪悪感を感じつつ、エミリーは真剣な表情で語り始めた。
「リアちゃん、この街に納税義務があることは知ってるわよね?」
「は、はい…」
リアは唐突な話題にキョとん顔。
彼女が『知らない』ということは明白だった…。
「じゃあ、その納税義務を果たせないとどうなるかは、知ってる?」
「え?義務を果たせないと、ですか…?それは、当然借金取りの人が家に来て…」
エミリーの質問は難し過ぎたか…。
分からないとは言えず、何とか答えようとするも、うやむやな解答しかできないリア。
そんな少女の様子を受け、どうやって話を進めればよいか頭を悩ませるエミリー。
そんな時…
「一度目の未納で警告、二度目の未納で全ての資産の差し押さえ+奴隷商人への売却、だったか?」
見かねて模範解答を示したのはいつの間にか意識を取り戻していた青年店長・ミズキ。
「ええ、その通りよ」
「すごい!ミズキさん、なんでそんなこと知ってるんですか!?」
「この街で商売やっててこのルールを知らない奴なんてお前くらいだろうよ」
驚くリアを呆れ顔で皮肉るミズキ。
一瞬話を前に進められるとほっとした様子のエミリーだったが、それ以上二人のやり取りに反応することなく、淡々と話しを進めて始める。
「実は私、露店街でパン屋をやっているんだけど、先月納税義務を果たせなくて…。今月未納なら店長さんが言ったように店を潰された上で、奴隷として売られることになってるの」
「え!?」
依頼人の口から発せられた衝撃の事実にまたしても驚きの声を上げるリア。
一方、ミズキはというと…
「なるほど。つまり依頼っていうのは今月末までの残り2週間で納税分の売り上げを作ってくれってことか?」
エミリーの話に全く驚くことなく、その事実から冷静に依頼内容を予測していた。
「ええ、その通り。ーーつまり、今月末までに残り20万バリス用意しなければ、私が父から受け継いだこの店も、私自身の人生も終了ってことよ」
「…」
あまりに厳しい状況に嫌な沈黙がその場に流れる。
そんな中、エミリーはすっと席を立つと、唐突に床に正座し…そして…
「納税分さえ残していただければ、残りの売り上げはすべて差し上げます!それで足りなければ来月以降で必ずお礼はさせていただきますし、他に私ができることなら何でもさせていただきます!私のことはどうでもいいんです!私は父から受け継いだ店を守りたいんです!――どうか私を助けてください!お願いします!!」
床に頭をこすりつけ、土下座をしながら必死に頼み込んだ。
(成功報酬しか払えない上に、成功する可能性は限りなく低い…。正直、こんな何の得にもならない依頼、断られるのが普通。頼りになるかは分からないけど、まずは依頼を受けてもらわないと…。そのためなら土下座くらい…!!)
プライドなんて全て捨て去り、頼りになるかも分からないような人間に必死に頭を下げる。
「そ、そんな!エミリーさん、頭を上げてください!そんな状況なら今回は料金なんてなしで――」
そんな依頼人の行動に、オロオロしながら慌てて頭を上げるように促すリア。
しかし、そんな中…
「なぁ、エミリーだっけ?あんたの店の毎月の売り上げは?」
「え?」
ミズキは椅子から立ち上がると、土下座するエミリーを見下ろしながら冷静な口調で問いかけた。
エミリーが受けた第一印象からはかけ離れた真剣な目で…。
「い、以前は割りと繁盛してたんだけど…最近は7万バリスくらいがやっとで…」
そんなミズキの態度の変化に戸惑いつつ答えを返すエミリー。
しかし、ミズキはその答えに何も反応することなく、さらに質問を続けていく。
「俺の予想だが、近くにライバル店とかがあるんじゃないのか?」
「え、ええ…。最近出店してきた店で、とにかく安くて…うちは味では負けてないんだけど…」
「それまでの常連客もほとんどその店に取られてるってことだな?」
「ええ…」
「ちなみに、うちに依頼するにあたって元手となる資金なんかはあるのか?」
「そ、それは…」
休む暇なく飛んでくるミズキの問い詰めているかのような厳しい質問に、エミリーの声色はどんどん沈んでいき、
「ちょ、ちょっとミズキさん!何もそこまで言わなくても――」
見かねたリアが止めに入るが、ミズキは無視。
「以上の話から、普通に考えれば今回の依頼の成功率はザックリ20%ってところだなー―あんた、そこら辺ちゃんと理解できてるか?」
「はい…」
そして、続くミズキの厳しい口調の質問にも力なく頷くエミリー。
(やっぱり、引き受けてもらえないわよね…成功する見込みもなく、多額の報酬も期待できない。その上基本報酬もない…。そりゃあ断られて当然よね…)
その表情には最早、諦めの混じった笑みが浮かんでいた。
しかし…
「今後一生、俺とここにいるリアには無料でパンを献上すること」
「…え?」
直後、ミズキの口から出てきた何の脈絡もない言葉に、意味が分からず固まるエミリー。
「依頼を引き受ける上で、成功報酬以外に俺が出す条件だ。成功報酬は基本通り余剰分の50%。――この条件でいいなら、あんたの依頼、俺が引き受けてやるよ」
「み、ミズキさん!!」
呆ける依頼人を他所にミズキは補足で説明するが、目を輝かせるリアとは対照的に彼女の頭は真っ白。
フリーズし続けるエミリーだったが…
「おい、なにボーッとしてんだよ。俺の条件、飲むのか?飲まないのか?」
「の、飲むわ!そんな条件でよければ喜んで!」
ミズキからの催促に慌てて提示された条件を了承。
「決まりだな。それじゃあ契約成立ってことで」
「え…?ええ!こちらこそ、改めてよろしく…」
その返事を聞き、鼻を鳴らして差し出されたミズキの手を、戸惑いながら慌てて握り返すエミリー。
「一緒に頑張りましょうね、エミリーさん!」
「え、ええ、よろしくね!」
(と、とりあえず依頼は受けてくれるみたいね!この二人に任せて大丈夫かは分からないけど……でも、とりあえずこのまま何もせずに最期を迎えることだけは避けられそうね)
あれよあれよという間に依頼を引き受けてもらえることになり戸惑いながらも嬉しい気持ちと、彼らに任せて大丈夫なのか?という不安な気持ちが混在し、複雑な表情のエミリーだったが…
一方、その契約相手は対照的。
(よし、これで餓死することはないな。食糧で困ることは無いし、これ、当分というかこのまま一生働かなくてもいいんじゃね?)
ミズキは既に依頼達成を確信し、内心ほくそ笑むのであった。
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