売れないパン屋の少女編

第10話ビラ配りの効果はテキメンでした…

「おい、今月は一段と客が少ないようだが、納税の方は大丈夫なんだろうな?」


 街の露店街にある小さなパン屋。

 周りの店が午前中のピークを迎え賑わいを見せる中、この店には重い空気が立ち込めており、店内には思いつめた表情で俯く若い女店主とやけに高圧的な中年男だけ。

 しかも、この中年男も決して客というわけではなく…


「領主様、今月の納税には必ず間に合わせます。ですので、もうしばしお時間をいただきたく…」


 女店主は、裕福な生活をしている人間などほぼいないはずのこの露店街の中で場違いな程に浮いている高級そうな上着を着た男に跪いた。

 この商業都市・ラムズを治める領主である。


「フン、そのセリフ、確か先月も聞いたはずだがな。貴様は同じセリフしか吐けんのか?そんなんだからこの店には客が来ないんだよ」


 冷笑を浮かべながら見下し、煽る領主。


「す、すみません…。今月は必ず…」


 しかし、そんな領主の挑発に、まだ17歳になったばかりのこの女店主は悔しさを必死に押し殺しながらひたすら頭を下げ続ける。


「フッ、まぁいい。もし、今月も払えなければ…分かってるな?」

「は、はい…」

「フン、月末が楽しみじゃ」


 それを受け、領主は『払えなかったらただでは済まさんぞ』と暗に念押すと、少女を嘲笑いながらその場を去っていった。


 領主の後ろ姿が見えなくなったのを確認し、ゆっくりと力なく立ち上がる少女。


「まだ先月の納税分も用意できてないのに、あと2週間でもう一か月分もなんて……」


 そのノルマはほぼ実現不可能なところまでになっており…


「この店も私自身も、やっぱり時間の問題かな…」


 少女は諦めの混じった笑みを浮かべて天を仰いだ。

 と、そんなところに…


「皆さん、よろしくお願いします!“営業屋”です!」


 不意に、小さな女の子の元気な声が聞こえてきた。

 ふと、声のする方を振り返ると


「どうぞ!営業屋です!そこのお兄さん、どうですか!?――よろしくお願いいたします!」


 少し離れた場所で自分よりも一回り程年下の女の子がビラを配っていた。

 何気なくその少女を眺めていると


「なんだよ、営業屋って。怪しすぎだろ」


 とある通行人が一度は受け取ったビラを店の前に捨てていくのが目に入った。


「ちょ、ちょっとま――!!」


 その行動に腹を立てた女店主は、咄嗟に捨てられたビラを拾い上げ、捨てていった通行人を呼び止めようとしたのだが…


「!!――ちょっと、あなた!ちょっと待って!!」


 そのビラの内容を目にした瞬間、すぐさま話しかける相手を変更した。


「ちょっと!そこのビラを配ってる娘!待って!!」

「私ですか?」


 勢いよく店を飛び出し、少女の腕を掴んで呼び止めると、


「このビラについて詳しく話聞かせてもらってもいいかしら?」


 女店主は先程拾ったビラを見せつけながら、有無を言わせぬ真剣な目で頼んだ。


――“売れ残り商品の販売から絶対に失敗できない商談まで、商売のことなら何でも代行!引き受けた依頼はすべて成功!営業屋です!――そんな謳い文句が書かれたビラを突き出しながら…。

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