第9話ボディーガードの少女を仲間にしました…
「……もう、十分だろ」
俯いたままの姿勢で小さく呟いたミズキの顔は…不敵に笑っていた。
そして、
「ハハハッ!ようやく立場が理解できたか。おい!お前ら、さっさと契約書を――」
「もう十分だ、リア!」
高笑いしながら部下に指示を出そうとしたザレクの言葉を遮り、ミズキは依然大人しく捕まっている少女の方を振り返った。
そして、その声を合図にリアは顔を上げ、
「本当にいいんですね?」
「ああ。思う存分やってやれ」
「分かりました。――約束忘れないでくださいよ!ミズキさん!」
「分かってるよ。だから、さっさとこの状況なんとかしてくれ」
二人はニヤリと笑い合う。
「ハッ!何かするつもりみたいだが、この状況じゃ何も出来ねぇだろ!――リア、確かにお前の戦闘力は高いが、俺に勝てないってことはお前が一番知って――なっ!?」
急に様子が変わった二人に一瞬動揺するザレクだったが、すぐに先程までの調子を取り戻す、が…
「お、お前…何だ、この力…!?」
必死の形相で羽交い絞めする腕に渾身の力を込めるザレク。
その額には大量の汗が溢れ出ている。
「てめぇ…一体何しやがった!」
「別に…ただ今日は遠慮せずに力を出しているだけです」
「遠慮…だと?てめ――ぐあっ!」
しかし、ザレクの奮闘空しく、リアは息切れ一つすることなく拘束をほどいて見せた。
反動で尻持ちをつくザレク。
さらに、次の瞬間…
「ぐあっ!」
「がっ…」
「く、くそ…」
次々に倒れる男達。
「お、おみごと…」
ミズキを囲んでいた男達は一瞬で全滅。
その強さは味方であるミズキでさえ笑顔を引きつらせる程である…。
「う、うそだろ…」
一方、その光景を見せられ絶句するザレクは、
「お、おい…リア。お前、その目……」
顔を上げた先に信じられないモノを目の当たりにし、さらに目を見開く。
――リアの、真っ赤に光った瞳を見て…。
「あー、これですか?言ってませんでしたっけ?私、焔眼持ちなんで。――普段は理性で力を抑えてるんですが、本気出そうとしたり、興奮したりパニックになったりすると目が赤くなっちゃうんですよ」
目を赤くしたまま淡々と告げるリア。
その口調はいつもよりどこか冷たい雰囲気を醸し出している。
「ほ、焔眼…だと?だ、だが、お前、今まで俺の前じゃあ一度も……」
「そりゃあ、使いませんよ。――だって、思惑はどうあれ、あなたは私にお金を貸して、さらにここまで衣食住の面倒を見てくださった方です。主に大怪我を負わせるわけにはいきませんから」
冷酷な赤い瞳、冷たい口調。
普段の真面目でツッコミ役の少女とは別人のようだ。
「て、てめぇ!!」
「でも――」
最早やけくそ。激昂し、襲い掛かるザレク。
しかし…
「ぐおっ!」
その攻撃は軽くかわされ、逆に首筋に鋭い手套を喰らい、その場に倒れこんだ。
「もう遠慮する必要はありません」
リアは、そんなザレクを見下ろし言い放つ。
そして…
「だって、私にはもう、新しい主がいますから。――私が自ら付いていきたいと思わされた、だらしない主が」
だらしない新たな主――黒崎ミズキの方に向き直ると小さくほほ笑む。
「おい、新しい主のこと若干バカにしてない?」
その微笑を受け、乾いた笑みを浮かべるミズキ。
「私の力、どうでしたか?」
「文句付ける余地なんてねぇよ。――契約成立だ」
そんなミズキを見て悪戯っぽく笑うリアにミズキはため息をこぼしつつもリアの方へと歩み寄る。
「改めてよろしくな、リア」
「はい、こちらこそお願いしますね、ミズキさん」
そして、二人は晴れやかな表情で握手を交わした。
「それで、ミズキさん。さっき約束した件についてなんですけど…」
――が、どうしても今後のことが気にかかるリアは遠慮気味に問いかけてみる。
「ん?ああ。ボディーガードを報酬なしで引きうける変わりに、お前の借金を肩代わりして欲しいってやつだろ?」
その問いかけに、何でもないような口調で返すミズキだったが…
「ほ、本当に全額肩代わりしていただいていいんですね?」
そんな男に、リアは緊張した面持ちで改めて念を押す。
「そういう契約なんだから当然だろ?俺は嘘は吐くが約束は守る主義なんだよ」
一方のミズキも、リアの態度に多少違和感を感じながらも、意思を変える素振りは見せない。が、それはあくまで打算的な考えの下である。
(まぁ、借金って言っても、まだガキだしな。せいぜい2~300万ってところだろ。タダでボディーガードを雇えることを考えれば、むしろお得なくらいだ)
太っ腹な契約に見せかけた合理的な契約。
その上、リアの強さは期待以上。
想定以上の結果を得て、内心大喜びのミズキ。
――の、はずだった。
「それで、借金ってのは残りいくらなんだ?」
「と、とりあえずこれを……。」
ミズキに問われ、恐る恐る2枚の紙切れを差し出すリア。
そして…
「まぁ、さすがに一括は無理だから、分割で支払う――っておい!」
何気なく、その紙に目を通したミズキは、2枚目の紙を見た瞬間、思わず驚きの声を上げた。
「お、おい…書き間違え…だよな?何だ、この金額は!?」
手渡された1枚目の紙には“借金残高 230万バリス”の文字が。
そして、2枚目の紙には……
「なんだ!この“借金主であるザレク=ウィルスに暴力を振るう等して逆らった場合、1千万バリスの罰金を課す”って!!しかも、しっかりお前のサインしてあるじゃねぇかよ!!」
借金の合計が1230万バリスになっていることを知り、顔を真っ青にするミズキ。
「だ、だから私確認したじゃないですか!――”本当にいいんですね?”って」
「馬鹿野郎!こんな契約があるって知ってたら他の作戦考えたわ!!」
部屋の中にミズキの怒号が響き渡る。
「ち、ちなみにこの契約書、ザレクさんが国の機関に提出している正式なものみたいでして…」
「ま、マジで…?」
「す、すみません…」
そんな青年にリアは申し訳なさそうに更なる厳しい事実を突きつける。
「ま、待て!もしかしたら、このおっさんもこんな契約書のことなんて忘れてるかも――」
「そんな大事なこと忘れるわけねぇだろ。大事な商品を失うんだ。何を言われようと、動けるようになり次第、俺は国にこの件を報告するぞ」
「で、ですよねぇ…。」
そして、最後の悪足掻きもいつの間にか目を覚ましていたザレクの一言で不発。
地面に伏したままのザレクにきっぱり言い切られ、ミズキは再び頭を抱えた。
(う、嘘だろ…?異世界に来ていきなり1千万以上の借金って……)
逃げ場のない状況に思わず崩れ落ちるミズキ…。
「あの…こんな状況で言うのもあれなんですが…」
そんなミズキの様子に申し訳なさそうにしながらも、
「これからも、よろしくお願いしますね。ミズキさん」
リアは無垢な笑顔でそっと手を差し伸べる。
そして、しばらくリアをジト目で睨んでいたものの、
「くそー!絶対ぇ1千万分以上コキ使ってやるからな!!」
ミズキも涙目になりながら乱暴にその手を取った。
黒崎ミズキ、24歳。異世界に来て1日目。
年下で可愛いボディーガードを手に入れた。
――1千230万という多額の借金と引き換えに……。
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