第7話ノルマ達成の報告に向かいます…

「ハハハッ!もっと飲め、もっと飲め!」

「やだぁ、ザレクさんったら、どこ触ってるんですか~」

「別にいいだろ?減るもんでもねぇし」

「も~仕方ないな~」


 とある小さな飲み屋。

 薄暗い店内では、まだ夜も早い時間帯だというのに、ベロンベロンに酔っぱらった客が一人。

 隣には若い女を侍らせ、他の客のことなどお構いなく大声で騒いでいる。


「ザレク様。リア=オルグレンについてご報告が」

「あ?なんだ?」


 そんな男の下へ、一人の初老の男がかしこまって話しかけに行くと、ザレクと呼ばれる男は、あからさまに不機嫌そうな表情に。

 しかし、


「先程、見張らせていた奴隷からの報告が入りまして……。あのリアという奴隷、今朝結んだザレク様との契約を達成したとのことです」

「なんだと!?本当にあの、ただの大量のリンゴを売り切ったって言うのか!?」

「はい、確かに」


 男の報告を聞いた瞬間、ザレクの表情は一瞬で驚愕の色に染まった。


(どういうことだ!?あのクソ真面目で、戦闘力しかとりえのないクソガキが……――まさか!もしかして一緒に同行させた、あの男か!?)


 先程まで豪快に遊びまくっていた男に動揺が走る。

 が、しかし、すぐに男は冷静さを取り戻し、ニヤリと不敵に笑った。


「面白い。こりゃあ掘り出し物かもしれんな。ーーおい、計画変更だ。男の方も俺の下で働かせる」

「か、かしこまりました!」


 返事をするや否や、男は慌てて帰り支度に移り、


「フン!今日はツイてる。リア以外にも金になりそうな奴を見つけられるとはな!」


 ザレクは下卑た笑みを湛えながら呟きながら、一人店を出ていった。


※※※※


「おい、さっさと報告に行かねぇと、あのおっさんに難癖付けられるぞ」


 先を歩くミズキは振り返り、後方を歩くリアに向かって呼び掛ける。

 確かに言っていることはごもっともなのだが……


「だから、何で私が一人で荷物運んでるんですか!」


 行きと同じように荷物一式を乗せたリアカーを一人で引くリアは、ほぼ手ぶらで先を歩くミズキに猛抗議。

 が、しかし、


「リアちゃん。助け合いって大切だと思わないか?」


 抗議を受け、突然真面目な顔で質問を投げかけるミズキ。


「え?ま、まぁ、確かに大切だと思いますけど…。」

「そうだよなぁ。助け合い、大切だよなぁ」


 そんな急な話題に戸惑いつつも答えるリアに、ミズキはわざとらしく同調し、


「――ところで、俺は、お前のトラブルに巻き込まれ、そしてあの大量のリンゴを半日で売り切るという偉業を成し遂げたわけなんだが、どう思う?」


 そして、ニタニタしながら問いかける。


「そ、それは…巻き込んだのは申し訳なかったですし、売り切っていただいたことには本当に感謝してますけど…」

「なるほど。それならその感謝の気持ちを行動に移してみよう。――とりあえずは荷物運びからだな」

「あ~もう!分かりましたよ!このまま私一人で運べばいいんでしょ!?」


 結局、そんな下らない問答に嫌気がさしたリアは、半ばやけくそ気味にこの話題を終わらせた。


「いやぁ、助かるよ。やっぱり助け合いっていいものだな。」

「……この男、本当に最低ですね。」


 どの口が言うのか……。

 自分よりも年下の女の子に対して、正論過ぎる屁理屈をこねて論破し、満足気な男。

 そんな男に、リアは呆れてジト目で睨みつける。


(つい忘れていました。この人が口の達者なクズ人間だってことを…)


 しかし、それすらも目の前の男に対しては無駄だと悟り、思わずため息がこぼれた。


「ほら、さっさと行くぞ!」

「はいはい…」


 そんな少女の様子など気にも留めず、再び誇らしげに前を歩くミズキ。

 しかし、リアはそんなミズキに呆れつつ、律儀にリアカーを引きながらも


(でも、こんなやり取りもこれで最後なんですよね…。そして私は…)


 そんなことを思いながら、ミズキの背中を寂しそうに見つめていた。



※※※※


「ふー、ようやく戻ってきたか」


 そして、そんなやり取りをしているうちに、気付けば二人は目的地に到着していた。

 見覚えのある古ぼけた建物の前…。ミズキがリアと最初に出会った場所である。


 中にいるであろう強面の中年男に売上報告とノルマ分のお金を差し出せばそれで終了。

 にもかかわらず、どこか浮かない表情をしているリア。


「よし!さっさと終わらせて美味いもんでも食うか!――さっさと行くぞ!」


 しかし、リアのそんな様子になど全く気付いていない……フリをしていつも通りにしようとするミズキ。

 意気揚々とドアを開けようとすると、


「あ、あの!ミズキさん!」

「うおっと!――なんだよ、急に。」


 唐突に名前を呼ばれ、驚きのあまりドアノブから手を離し、慌てて振り返る。


「い、いえ…その…なんでもありません」


 しかし、呼び止めた本人は目を反らし、言いかけた言葉を飲み込み、言い淀んだまま。


「なんだよ。何でもないなら、さっさと行くぞ」

「はい…」


 ミズキは再びドアに手を伸ばそうとするが、やはりすぐ後ろで寂しそうに俯くリアが気になりすぐに手を下ろす。


(ったく…コイツがこんな調子だとこっちまで調子狂うっつーの。それに、万が一の時どうするんだよ…)


 そして、一人しばらく考えた後、


「まぁ、仕方ないか。上手くいけば俺の当面の問題もクリアできるしな」


 溜め息混じりに呟くと、今度はしっかりとリアの方に向き直る。


「リア=オルグレン、俺と取り引きしないか?」

「取り引き、ですか?」


 突然の提案にキョトンとするリア。


「ああ。まぁ、お前の力と条件次第だが――俺がお前の悩みを解決してやるよ」


 そんな少女に、ミズキは自信に満ちた表情で宣言した。

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