第20話 リアの恋心

「ありがとうございました!またお願いします!!」


夕暮れ時。今日もラムズ街にある小さなパン屋では、元気のよい女店主の声が響き渡っていた。

ローレンとの一件から数日が経ち、無事領主への納税を完了させたエミリーは毎日イキイキと仕事に勤しんでいる。


「もう日が沈む時間か…私もそろそろ片づけ始めなきゃ」


周りの店が撤収作業をしているのに気づき、彼女もぼちぼち店じまいにしようかと考えていると…


「エミリーさん!こんにちは!!」


元気よく手を振りながら走り寄ってくる小さな少女が一人。


「何?リアちゃん、また売れ残り品取りに来たわけ?」

「はい!…あの、今日もありますか?」

「あるわよ。ほら!」

「あ、ありがとうございます!!」


エミリーが既にこうなることを予期し、事前に取り置きしておいた数個のパンが入った紙袋を手渡すと、少女は表情をぱぁっと明るくさせた。


「いいわよ。売れ残り品でそこまで喜んでもらえるなんて嬉しいわ」


そんな愛らしい少女を前にし、エミリーも優しく笑う。


「いやぁ、本当に助かりました。エミリーさんのパンだけが私達の生命線ですから」

「私が全部売り切っちゃったらどうするつもりなのよ…?っていうか、その元凶は今日一緒じゃないの?」


明るい声で悲しい現状を暴露するリアに思わず頭を抱えつつ周りをキョロキョロさせるエミリー。


「あぁ、ミズキさんなら店で寝てますよ。どれだけ揺すっても起きなかったので置いてきました」

「あの男、相変わらずね…」

「まぁ、ミズキさんですからね…」


自分の部下と元依頼人から同時に呆れられる“営業屋”店主であった。


「それにしても、リアちゃん、よくあんな男の下で働いていられるわよね?嫌ならさっさと辞めちゃえばいいのに。私のところならいつでも雇ってあげるわよ?」


しかし、自分のことを本気で心配し、気に掛けるエミリーからの勧誘に対しリア本人は、


「いえ、大丈夫です。心配してくれるのは嬉しいですが、私はあの人と一緒にいるって決めたので」


決して強がりというわけではなく、笑顔で首を横に振った。


「えー?ホントに大丈夫?脅されたりしてるんじゃない?」

「大丈夫ですよ。いくらお金もないのに働く気ゼロで毎日ダラダラしてるだけのダメ人間でも脅したりなんかしませんよ」

「えー、じゃあなんで――まさかリアちゃんがアイツに惚れてるなんてことは――」

「なっ!?わ、私がミズキさんに惚れてるなんて…!そ、そんなことあるわけ……」

「…え?」


冗談のつもりで言ったことに顔を赤らめ、目を泳がせあからさまに動揺しまくる少女に顔を引きつらせるエミリー。


(嘘でしょ…?この反応、完全にガチな奴じゃん…)


「いやいや、男なら他にもっとマシな奴いくらでもいるでしょ。――リアちゃん、早く目覚ました方がいいわよ?」


その声のトーンと表情は先ほどよりも真剣なくらいだった。


「もう…エミリーさん心配し過ぎですよ?」


しかし、そのアドバイスにリアはまだ赤みがかっている顔をパタパタと手で仰ぎながら異議を唱え。


「確かにミズキさんは甲斐性なしですし、怠け者ですし、弱いくせにすぐに調子に乗りますし…とにかく100人に聞けば100人がダメ人間だというような人ですが――ミズキさんにはそれを帳消しにできるくらいの良いところがあるんですよ」


そう言って、懐疑的な目をしているエミリーに、にっこりと微笑んだ。


「そうかなぁ…?」

「はい!そうなんです!」


そして、彼女は思い返す…黒崎ミズキという男を信頼するきっかけになったとある出来事を…。




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異世界で代行商談屋はじめました 沖マリオ @tanki0514

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