第1話 異世界転移


 目覚めるとそこは知らない部屋だった。

 硬いベットに薄い毛布。周りを見渡すと石造りの床に古ぼけた扉。

 さっきまでいた1 LDKのマンションとは違う部屋に寝かされていた。


「ん?」

 とりあえずベットから降りようとすると、手足の感覚に違和感を覚えた。

 どこか自分のものじゃないような感覚に戸惑いを覚える。

 服装も麻でできたシャツに、ゴワゴワした皮のズボン。まるでファンタジー世界に住む村人ような服装だ。


「……えっと、ここはどこ?」

 部屋には生活感がなかった。

 周辺に何かないかと散策がするが目新しそうなものはない。

 簡易な机となぜかベットが5組。

 机の上には筆記用具に置き時計と本が数冊あるのみで、なぜか筆記用具は羽ペンしか入ってなかった。

 

「え、え?」

 思わずあたりを見渡してしまう。

 現実ではありえないような感覚。

 夢でも見ているようだ。


「僕は一体何をしていたんだっけ?」

 直前の記憶を思い出してみる。

 確かいつも通り、大学に行って、ご飯を食べて、友達と電話をして寝たはずだ。

 何一つ、変わったことなどなかった。


「な、何か手がかりになるものはないかな?」

 慌てて周りを物色し始める。

 とはいっても、あされるものなんて限られている。

 机の上にある本ぐらいなものだ。

 

「お、なんか挟まってる」

 パラパラと机に置いてあった本を開くと、そこには何やら紙が挟まっていた。

 椅子に座り挟まっていた紙を読む。


『 入学おめでとうございます。

 皆さんは冒険者の最初の一歩を踏み出しました。ここで冒険に必要な基本的な知識を学んでください。

 新入生歓迎会は第一広場に八時集合です。遅れないように注意してください。

 オルステン冒険者学校教頭マグロッテ・ウストラ 』


「冒険者? ゲームじゃあるまいし」

 冒険者など、ゲームやライトノベルの中でしか聞かない単語だ。

 ゲームといっても学生の頃何本か有名どころをクリアした程度で、そんなに詳しくなかった。

 

 置き時計で確認すると、七時。多分午前。


「と、とりあえず、広場とやらに行くしかないよね」

 このままここにいても埒があかない。

 とりあえず行動しようと、紙に書かれていた第一広場に向かう事にした。





 ケイトが広場に着いた時には、すでに学園長らしき老騎士からの説明が始まっていた。

 広場の中には100人以上の冒険者候補生達が並んでいる。

 遅刻してしまったようだ。

 

 やべ、もう始まってる!

 バレないようにこっそり後ろの列に潜り込んだ。

 幸い誰もが式に集中していて、気づかなかった。


 やれやれ、前途多難だなこりゃ。

 ひっそりとため息をついた。


 なんか偉そうな人が代わる代わる訓示らしきものを述べている。

 初めは真面目に聞いていた、話が進むにつれどんど退屈になっていく。


 これがゲームだったらボタン一つスキップできたんだろうな。

 最後の方などほとんど聞いていなかった。

 偉そうな魔術師のおばさんの演説が終わると、前の方からいくつかのアイテムが配られる。

 白いカード状の板と今日からの授業の時間割らしい紙が一枚だ。


「いいですか、これで皆さんは栄えあるオルステン冒険者学校の一員。今配ったカード(学生証)に指を当ててスキャンと唱えなさい。そうすると貴方達のステータスが表示されます。学生証は冒険者ギルドでも使用できるものです。大切に保管するように」


「それと、すぐに迷宮に潜ってはいけませんよ。はやる余り、ろくに鍛えもせずに迷宮に潜り、瀕死の重傷で戻ってくる生徒を私は何人も見てきました。まずは必要なスキルを学園で学び、草原などのレベルの低いところでしっかりと鍛えてから挑むのです。そうしないと今年のうちにこの中から死人が出ますよ」


 なにを何回も言っているのかと言えば、そんなことだった。

 なんとも当たり前のことだが、こんな厳しく注意しているのだから、よほど大勢いるのだろう。


「有力な冒険者を雇うのは構いませんが、その場合ほとんど成績に反映しないのでそのつもりで。本人は隠し通したつもりでも、冒険者ログを誤魔化すことは出来ませんからね」

 冒険者ログというものは知らないが、当然と言えば当然と言える。

 そうでなければ、金にものを言わせて成績を買うことだってできるからだ。


「しかし、迷宮とはますますゲームっぽいな」

 配られた時間割を見ながら、めぼしいものはないかチェックしていく。


 そう言えば、俺のステータスとかどうなっているんだろうか……とりあえず。


「スキャン」

 自分のステータスを見ることにした。

 呟くと、先ほどまで真っ白だった学生証に文字が浮かび上がる


 Lv1 騎士 

 ケイト・イノシマ

 HP/MP 20/10


 んー優れているのかどうかもわからないな。騎士っていうのは職業だよな。

 RPGとかでは筋力とか素早さとかの表示があったりするもんだがそれもなかった。

 とりあえず騎士っぽい職業に必要な授業を取ってみるか、わからなかったら先生とかに聞けばいいし。


「ーーーーそれでは皆さん良い学園生活を!!」

 壇上では先ほどのおばさん教授の説明が終わり、ようやく式も終わったようだ。

 生徒達もぞろぞろと移動を始める。

 とりあえず、その波に流れるように広場を後にした。





 生徒達の群れにそのままのかって行くと、着いた先は教室だった。

 ここでは先生達が授業のガイダンスをするようだ。


 とりあえずここは真面目に話を聞く。

 もし複数の授業を受けることができるなら、できるだけ受けたほうがいいかもしれない。

 後衛学、野戦学、アイテム学などいろいろな先生達が話をしていく。

 みな若い先生たちだったが、唯一年配の男性が壇上に上がる。

 どうやら彼が騎士課程の先生のようだ。


「前衛学教諭のカーマインだ。まず前衛職を持つ予定のものは、必須スキルであるタウントを覚えてもらう。騎士というと、前に出て敵を倒すものだと考えている者もいるだろうが、それは間違いだ。前衛の本当の仕事はモンスターの進行を防ぐのが何よりも重要である」

 厳つい顔のカーマイン先生は慣れた口調で説明を始めた。


「タウントのスキルは、前衛職の者なら基本スキルとして学生証に半透明で表示されているはずだ。スキルを取る場合は、スキルポイントを2消費して覚えることができる。もちろんこれ以外のスキルを覚えることはできるが、学園の授業の他に、指定モンスターの討伐などの様々な条件が重なって覚えることができる」

 スキルポイントが必要でも、際限なくスキルを取ることはできないみたいだな。

 もし覚えられるだけ覚えられるなら、学校中の授業を全部受けようと思っていたが、早くも当てが外れた。


「騎士や戦士といった前衛職は30レベルでランクアップし、ガードナーやブレードマスターといった上級職になることができるが、これはごく一部のものだ。転職ではレベルもそうだが、スキル構成や討伐モンスター数など様々な要素が組み合わさって転職できるものが変わる。詳しくは授業で説明するがーーーー」

 カーマイン先生の講義が終わると、生徒達は教室からバラけていった。

 どうやらガイダンスは終了したようだ。

 ケイトは教室から退室しようとしていた先生に呼びかけた。


「すいません、カーマイン先生。いくつか質問してもいいですか?」

 先生は先ほどとは打って変わって、親しみやすい雰囲気でこっちに振り返った。


「おう、どうした?」

「先ほどスキルポイントの話が出てきましたけど、どうやったらスキルポイントを入手することができますか?」

「スキルポイントはレベルアップすることで平均1から3ランダムで獲得することができる。まぁ、初めは0ポイントだから気楽にレベルをあげて行けばいい」

「そうなんですね。ありがとうございます」

 とりあえずレベル上げは必須か。あまり死ぬ危険があるのは勘弁したいけど。


「ちなみに、先生はどんな職業についているのですか?」

「俺か? 俺はブレードナイトといって、相手の攻撃をかわしながらモンスターのヘイトを管理する職だ。攻撃力がある分モンスターからのヘイトを集めやすいのが特徴だな」

 どうやら前衛のアタッカーらしい。

 先生が実際になっている職ならなんらかのアドバイスが期待できるかもしれないが……。


 でも、そんな職業だと自分も死にやすいんじゃないか?

 ケイトはモンスター討伐でも安全に進めたいと考えていた。

 ただでさえよくわからない世界にきたことだし、できるだけ安全策をとりたい。

 となると


「一番防御力の高い職業はなんですか?」

「パラディンだな。神聖魔法と盾スキルに高い適性を持って入れば習得することができるらしい」

 パラディン……

 これはいいんじゃないだろうか。回復スキルがあれば最悪ソロでも活動できるだろうし、万が一の保険にもなる。


「……とりあえずパラディンを目指したいと思います」

「おおそうか。難しいと思うけど頑張れよ。何かあったら職員室まできなさい」

「はい。ありがとうございます」


 肩をポンと叩いて先生は教室から出ていった。

 とりあえず前衛職ということだけど、ゲームみたいに死んだら蘇生できるじゃないだろうし、生き延びることを考えよう。無理のない範囲でレベルを上げてここの生活に慣れることが先決だ。


 ある程度考えがまとまって顔をあげると、教室には自分だけしか残っていなかった。

 このままここにいてもしょうがないので、とりあえず前衛職学の教室に移動することにした。

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