第11話 聖女との謁見

 僕も聞きかじった程度の知識だが『ギフト保有者』という者がいるらしい。

 それはスキルとは違い魔力を使わずに超常の力を扱う人々のことだ。


 例えば、相手の記憶を盗み見ることができたり、不老であったり、声が超音波になったり、少しの距離を転移することができたり。


 はたまた、病気を操ることができたり、影を凶器にすることができたり、なんでも食べることが出来るようになったり、相手の知識を奪うことができたりと千差万別だ。


 そうした魔力を介せずに超魔法的な行為を行える者のことを『ギフト保有者』と呼ばれている。

 先天的に生まれるものもあれば、後天的に代々受け継がれているものだったりする。

 セリア達のスキル継承と記憶継承も後天的のギフトによるものだ。


 そして聖女リナリアも後天的にスキルを保有した『ギフト保持者』だ。

 彼女の能力は『干渉眼』

 相手と目線を合わせるだけで、相手の肉体情報や精神情報を盗み見て、相手に干渉することが出来る能力だ。

 それもこの能力の恐ろしいところは、少しの間だけなら相手の体を乗っ取ることが出来るということだ。彼女がその気を出せば、今この場で自害を命じられても抗うすべはない。


 

 彼女の家系は女しか生まれない家系で代々聖女になっており、その能力を使って、勇者のご意見番の役割をしている。

 僕も学園の授業で聞いた程度の知識だけど、聖女は特別な力を持っているのは事実らしい。


 しかしその彼女が僕は勇者じゃないと言った。

「へ?」

 聖女リナの言葉を聞いて、思わず素っ頓狂な声が漏れてしまった。

 あっけにとられている僕に対して、リナは言葉を重ねる。


「貴方のを見ました。貴方は勇者さまではありません」

 そう言う聖女さまの顔は完全に真剣だった。

 僕は混乱しながら、リナに質問する。 


「えっと。いやでも僕は聖剣を持って帰ってきましたよ」

「あれは初代勇者が同郷の人を助けるためにしたギミックです」

 彼女は顔を伏せながら言う。

 そして僕の方に近づいてきた。


「あの聖剣は勇者であれば、ギミックを使わなくても抜けるようになっているのです」

 そして彼女は淡々と言葉を紡いでいった。

 二人の距離はどんどん近づいていく。


「もともとあのギミックは、初代勇者さまが自分以外に異世界がらきて、その人間が勇者じゃなかった時、その人を助けるために作ったものなのです」

 しかし、と彼女は続ける。


「それはあくまで、初代勇者の一存。聖剣を抜いた勇者が本物か偽物か聖女がで判別し、その者を勇者として招き入れるかどうか決めるのです」

 彼女はただ淡々と言いながら、こちらに近づいてくる。

 あまりの雰囲気に思わず後ずさろうとすると、体が動かないことに気づいた。

 彼女に体を乗っ取られてしまったようだ。

 やばい! 体が動かない!


「そして教会は勇者の偽物を野放しにするわけには行きません」

「ちなみに偽物だとどうなるの?」

 一縷の望みをかけて聞いて見た。

 一度は助けているわけだし、もしかしたらお咎めなしってことになるんじゃ。

 僕は額から出る汗を気にする暇もなくリナに聞いた。


「処刑ですね」

 ひいい。この少女言うことがえげつなさすぎる。

 怖くてたまらない。彼女にかかれば、僕なんてすぐに消すことが出来からだ。

 こつ。こつ。っと一歩一歩リナはゆっくりと近ずいてくる。

 しかし、僕の体はピクリとも動かない。

 恐怖はますます増していく。

 まるで体全体が石になってしまったかのようだ。

 僕が動こうとしている間にも、リナは近づいてくる。

 そうして彼女との距離が目と鼻の先までになってしまった。

 すると、彼女の手が僕の頬に触れ、彼女はこう言った。

 


「と言うことで、ケイトさまとりあえず勇者やってみませんか」

「へ?」

 またしても、僕はリナの言葉を理解することが出来なかった。

 そして気づいた体を動かすことが出来る。

 思わずその場に座り込みそうになる。


「うふふ、怖がらせてごめんなさい。初めからそんなつもりはなかったんです」

 彼女は口に手を当てながら笑った。

 その姿はいたずらが成功した少女の顔だった。


「もともと私は貴方を殺そうとは思っていません」

「じゃ、処刑とかは」

「嘘です」

 あまりのことに言葉を失う。

 あのまま処刑されてしまうかと思った。

 それほどの緊張感だった。

 そんなこととはつゆ知らず、リナは無邪気に聞いてきた。


「それで、どうですか」

「えっとなにが?」

「だから勇者です。やってみる気はあるませんか?」

 えっとどう言うことだろうか。


「といっても拒否権はないんですけどね」

「へ?」

 未だ働いていない頭でなんとか答えようとしたが、先に答えられてしまった。


「だってこんなにケイトさまの存在が広がってしまった以上何かしらの功績を残さないと、勇者の存在が怪しまれてしまいますから」

「もし勇者じゃないことがバレたら?」

 彼女はなんでもないようにいった。


「打ち首です」

「ひいい」

 リナは僕に背を向けるとテーブルの椅子まで戻り腰をかけた。

 彼女は飄々としているが、会話一つ一つがは心が削られていくようで心臓に悪い。


「大丈夫です。今の勇者のギミックのことは教会内でも聖女の家系であるフローレンス家しか知らない情報です。それにここには貴方と私の二人しかいません」

「でも、僕は勇者じゃないし」

 諦め悪くそう言うが、リナは全然取り合ってくれない。


「勇者じゃないと知ったら、教会の神官は何をするか分かりませんよ」

 それどころか脅しをかけてきやがった。

 本心ではいやだ。いつバレるか分からない勇者生活なんてごめんだ。

 このままほとぼりが冷めるまで、どこかに身を潜めていたい。

 そう言おうとしたが、彼女の正論に押されてなかなかいいだせない。


「ですので、貴方の身を守るためにも勇者になった方が身のためですよ」

 結局僕は勇者になるしか道はないらしい。

 はぁ。また命をかける羽目になるのか。

 でも、自分の命には変えられない。

 聖剣が抜けなくて殺されそうになったり、聖剣を取ってきても殺されそうになるなんて、なんでこんなことになってしまったのだろう。


「ああ、それとですね」

「まだ何かあるの」

 色々ありすぎて、もうお腹いっぱいなんだけど。

 彼女は僕の腰にある聖剣を指差して言う。


「その聖剣ケイトさまには扱えませんから」

「はい?」

 またまた変な声が出た。

 せっかく取ってきた聖剣が使えないとかどういうことだろうか。

 リナはさらに説明を続ける。


「勇者の聖剣は本物の勇者・・・・・しか、その能力を扱うことが出来ないのです。一般人が使えばだたの光る剣でしかありません」

「……」

 思わず口をつぐんでしまった。

 あれだけ苦労して取ってきた剣が使えないなんて。


「じ、じゃこの剣で僕ができることって」

「本物の勇者さまなら山をも両断することが出来ますが、ケイトさまだと小枝を折るぐらいにしか使えませんね」

 あまりの話にめまいがした。


「まぁ威嚇ぐらいには使えるからなんとかしてください」

 あっけんからんと言うと、どこから取り出したのか紅茶を飲み始める。

 その姿は優雅の一言でこちらのことなど、全く気にしていないようだ。


「ケイトさまもいかがです? いい茶葉が入りましたの」

「……いただきます」

 ヤケクソ気味に紅茶を飲むと爽やかな香りが口いっぱいに包まれた。


「あー美味しいな! もう!」

「それはようございました」

 そう言うとリナは紅茶のお代わりを僕のカップに注ぐ。


「これから、ケイトさまには教会からの依頼を受けてもらいます」

「それ本当に必要なの?」

 僕は疑心的な目でリナを見る。

 彼女はどこ吹く風といった風で受け答えた。


「本物の勇者だとアピールするためです。大丈夫です。ちょっと教会からの依頼をこなしていただければ、勇者の称号はさらに高めることが出来ます」

「いや、そこまで名声は必要ないかな」

「はじめに、北の廃墟に住み着いているドレイクドラゴンを討伐してきてください」

「ねぇ話聞いてる?」

「とりあえず今、説明が終わり次第向かってください」

「今から! もう無理だって! ただでさえ勇者選定の儀でヘトヘトに……」

「もううるさいですね! 周りの人たちにバラされたくなかったらおとなしく討伐に行きなさい!」

「逆ギレ!」

 僕は最終的にリナに押し出される形で、部屋を出ることになった。

 でもこれだけは聞いておきたい。


「君はどうして僕を助けてくれるの?」

 彼女しては僕はただの偽物勇者でしかないのに、どうして助けてくれるのだろう。

 そう言うと彼女はこちらに目線を合わせると、にっこりと笑ってこう言った。


「貴方が悪い人でないことは、をみればわかりますから」

 そう言うリナの顔は今日一番の笑顔だった。

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