第12話 つかぬ間の休息
僕が聖剣を抜いてから3ヶ月が過ぎた。
この間僕は勇者として、教会からの依頼をこなしていた。
廃墟に住み着いたドレイクドラゴンの討伐を始め、幽霊屋敷のゴースト討伐、秘薬エリクサーの材料調達。はたまた貴族のペット(ケツアルカトルのアルくん)のお世話なんてものもあった。
そんな勇者の命がけの雑用を終わらせ、やっと学園都市マイルまで戻ってこれたのはつい最近のことだ。
僕は3ヶ月ぶりに自宅である寮のベットに倒れこむと、そのままベットに体を預ける。
「あ゛ぁー。もうここから出たくない」
思わず口から本音が漏れる。
しかしそれは嘘偽りの無い言葉だった。
クエストのほとんどで僕はひどい目にあい、彼女達の勘違いがさらに増大した。
逃げているだけでドラゴンを誘導していると思われ
ゴーストに憑依されたときでさえ、親玉を食い止めていると言われた
秘薬の元となる薬草はたまたま群生地を見つけらだけだし
ペットに至ってはなぜか僕だけ懐かれていた。
そんな奇跡的な偶然が重なり、僕の評価が落ちることはなかったものの、もう体力の限界だ。
今にもこのまま寝てしまいそうなほどまいっている。
そして何よりクエストを進めるのに従って、上がる彼女達の期待値も相当なもので、今にも胃に穴が空きそうだ。
教会からの高額な報酬があるのも気がひけるが、彼女達が自分を見る目がどんどんキラキラしたものに変わっていくのを僕は見ていられなかった。
僕は自分の枕に顔を沈めるとおもいっきりため息をついた。
今日は一日部屋でのんびりしてよう。
そう心に決めていた時。
「おっす。帰ったぞ」
「……カーマイン先生」
扉から出て入ってきたのはカーマイン先生だった。
先生は所々傷がついた鎧姿で、まるで戦争帰りのように全身が汚れていた。
しかし、先生はどこまで行っていたのだろうか。
確か高学年の遠征の手伝いだったはずだけど。
「いつの間に帰ってきたんですか?」
「今さっきだ。なんだ随分と疲れてるな」
全身泥だらけの先生に言われるとなんとなく悪い気がしてベットから降りた。
そうだ。今の現状、カーマイン先生なら相談に乗ってくれるかもしれない。
そう思って僕は先生に相談することにした。
「先生。ちょっといいですか?」
「おう。俺もお前に聞きたいことがあるんだ」
カーマイン先生は近くにあった椅子を手繰り寄せると、いつになく真面目な顔になって聞いてきた。
「……お前勇者なのか?」
「いいえ。違います」
僕は即答した。
ちょっと迷ったが僕は聖剣でのこと、聖女との会話の内容をカーマイン先生に話した。
カーマイン先生はこの世界に来たからいつも相談に乗ってくれた信頼できる人だ。
先生は会話に内容に多少驚いた表情をしながらも、僕の話を聞き最後に大きくため息をつくと僕に言った。
「お前、幾ら何でもそりゃ作り話だろ」
「いや、ほんとなんですって」
「お前が冗談を言う性格じゃないことは分かっているつもりだがなぁ。でもなぁ」
カーマイン先生は頭を掻きながら、僕の話を半分も信じていないみたいだ。
その姿は子供にいたずらをしかけられて困っているような顔をしていた。
すなわち全く信じていない。
「ほら聖剣だってここにあるでしょ」
僕は先生に鞘から抜いた聖剣を見せる。
僕は聖剣を先生に渡そうとするが、先生はわかったとばかりに右手でそれを押しとどめた。
「でも普通聖女が偽物に手を貸すか?」
「それが貸してくれたんだから、しょうがないじゃないですか」
本当にこればっかりはどうしてかはわからない。
なんで黙っていてくれたのか。
あの子は『目を見れば分かる』と言っていたけど。
「それが本当だとして、お前だいぶやばい状況になるぞ」
「へ?」
「今、帝国との戦争の真っ只中ってことは知ってるよな?」
「いいえ、全然」
それどころじゃなかったし。
先生は『はぁ』っとため息を漏らすと僕に説明してくれた。
「知らねーのかよ。まぁいい。とにかくこの大陸の約3分の1を占領している帝国と王国、神聖国、中央諸国との連合軍が戦争をしている。ここまではいいな」
「はぁ」
「その中で、王国に勇者が誕生した。このことが国民にどう捉えられると思う」
「勇者が帝国を倒してくれる?」
「そうだ。勇者さまが戦争を終戦すると思うに決まってる」
はぁぁあぁ。なんだその期待は!
人一人の力で戦争が終わるわけないだろうが!
さらに先生の説明は続く。
「お前は国に利用されるだろう。今頃、国の上層部はもうすでにお前の前線行きを決定しているころだろうぜ」
「えええええ!」
無理無理無理。
モンスターを狩ることだってやっとの思いでやっているのに、次は戦争なんて自分のみが持たない。
僕が頭を抱えているとさらに追い打ちがかかる。
「そんな戦争なんて僕には無理ですよ!」
「だろうな。それも偽勇者なんてお飾りぐらいにしか役に多々ねぇしな」
そうだろう。自慢じゃないが僕のレベルでは、始まりの街のモンスターにも負ける自信がある。
やっとの想いで帰ってこれたのに、そんなことって。
「とにかくこれからは、偽物だってバレないように頑張れよ」
「先生の助けてください」
「無理だ」
そんなぁ。
僕はそのまま地面にうちひしがれた。
その後僕が気の毒になったのか、先生は協力を約束してくれた。
とにかく絶対に偽物だと外にバラさないことと、何かあったら力になってくれるとのことだ。
とりあえず先生に協力を仰げたのはとてもありがたいことだった。
戦争のことも調べると行ってくれたし、先生には感謝しかない。
そんなことを考えていると、もしわけなさそうに部屋の扉を叩く音がした。
「お、お邪魔します」
おずおずと扉が開いたかと思うとそこにいたのはセリアだった。
それもいつもの鎧や制服とは違い私服姿だ。
テレーゼは白のワンピースに麦わら帽子。足元には新品らしき赤い靴まで履いている。
明らかにオシャレでいつもと違う格好だった。
「セリア、昨日ぶりだね」
「は、はい」
セリアは何か緊張でもしているのか僕の顔を見ようとしない。
顔もなんだか赤く、あたりをキョロキョロしている。
「どうしたの?何かあった?」
「あ、あの。そ、その」
セリアは部屋の入って来たと思うと、今度は何にもしていないのにあたふたしだした。
なんだろう、小動物みたいでちょっと面白い。
「あのですね、えっと。その……」
「ほら、落ち着いて」
僕は彼女が落ち着くまで、待つことにした。
綺麗な格好だし街に行きたいのかな。
もしかしたら、僕に荷物持ちに来て欲しいのかも。
でもセリアのことだし少し悪いと思っているのかもしれない。
彼女には恩もあるし、それくらいならやってもいいのに。
「せ、先生。お願いがあります!」
「はい」
ほらやっぱり、買い物かな。
セリアは帽子で顔を隠したかと思うと、今度は大きな声で僕にいった。
「私と結婚してください!」
この日、僕は小学生にプロポーズされた。
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