46~50

「誰か居るんですか」いいえ。本日この時を祝うのです。もう庭には行かれましたか。今年は空の色が幾分深いですから、色んなものを真青に染め上げているようですよ。「誰か居るんですか」いいえ。家の青い柿が大分熟れてきたようです。省みるまなこが要りますでしょうか?「誰か居るんですか」いいえ。……





この夜誰かが死ぬだろう。子供のような執着心で翳を消し去ろうとする猥雑な街灯の下で? 轍に草の生えかけ、遠く蛍光の如き民家を望む山道で? どこからも隔てられた空地で……。それはぼくを慰める。目が閉じられるほんの瞬間、僅かに匂いがしたなら、同じ匂いのどこかで誰かが、息を引き取る証なのだ。





二十個目を落とした。あといくつ捨てればこの川を堰き止められるだろう? 隣の彼女の髪は残照と同じ色で、「環境破壊や」と言う、その声色だけほんの少し笑っていた。「なあ」一瞬こちらを横目で見た後、ビルに隠れた川の向こうを覗き込むように首を傾げて彼女は言った。「人間なんて、やめたえーのに」





スーツケースには死体が詰まっている。それを皆知らない振りしているのだ。隙間から血の溢れるその赤で、絨毯は染め上げられるのだ。誉れある曙光を迎えるに異存はない。ただ、その赤黒く罅割れた面が陽光に晒されるは忍びない。ぎゅうぎゅうに詰め込まれたスーツケースの中で、皆青白い顔をしている。





雨の水滴の紡錘形がはっきり見えるくらいスローモーに、その衝突で王冠型に割れるグロテスクさもはっきり感じ取れるくらいに、それが既に忘却されている早さで、忘却に溶け込む私そのものに、その衝突に、紡錘形の身体を解いて、彼に電話を掛けよう。これに関しては早まっても早まりすぎることはない。

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