一発ネタ集

長きに亘る洗濯の世が終わった。最初生の抑圧であった洗濯は、半ば諦念とともに受容され、次第に人々の悦びとすらなった。生活は洗濯であり、幸福はよりよい洗濯であった。くびきは役割を変え、終焉は解放を意味しなかった。アイロンの世の到来は、外圧に耐え難い虚無の真空が導いた、必然的帰結であった。





サルがサルサを食べた。サルサがサルを食べることはない。サルサがサルを食べなくなって既に久しい。サルサの慣習が廃れて久しい。もうサルサ会の饗膳としてサルサがサルを食べる祭礼は行われていない。そうしてサルの数は増え続け、サルはサルを食べることよりも、サルサを食べることを選んだのだ。





「ちょっとお待ち! そこの貴女」「わ、私ですか」「そう。貴女、右肩が凝ったりしてないかしら」「確かにここ最近ずっと……。でもどうして」「見えるのよ。貴女の右肩に、胴を真っ二つに切断された女の霊の下半身が乗っているのがね……。まるでザクIIのシールドみたいに」「例えが全然怖くない!」





「オレ、今年ナワ行くんだよね」「ナワ?」「ナワナワ」「那覇?」「那覇も行くけど」「じゃ那覇ではないんだ、ナワ」「やっぱ石垣とかも行きたくなっちゃうよ。せっかくだからみたいな」「沖縄のどこかではあるんだ、ナワ」「いやだからナワのどこ行くって話よ」「あ、君沖縄のことナワって言う人?」





唐突に目が覚めた。外は暗い。

傍の時計を覗くと、午前二時。

つい一時間前に寝たばかりだ。

私はまた眠りに就こうとした。

不意に、廊下の電気が灯った。

私は身を固くする。扉を見る。

すうと廊下の光が部屋に差す。

まだ目が慣れない。誰何する。

間口の人物は無言のままいる。

私と相手の息遣いだけが響く。

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