陽光、翳、塵
道端に灰皿を見付けて、一本だけと立ち寄った。本来、今頃は浅草辺りには着いていなければならない筈だったが、几帳面なあの人はもう待合せの店にいるのだろうと思うと、何故だかなかなか足が向かなかった。結局私が箱に残っていた五本を全て喫ってしまってそこを離れたとき、刻限はとうに過ぎていた。
エタノールに砂糖をぶち込んだような味のブランデーを干すと店を出た。粘着質な空気に包まれて漂う吐瀉物の匂いに誘われ、今晩の酒が大挙して食道を駆け上って来るに任せて、俺は路傍に嘔吐した。丁度俺を誘った先客の真上に掛ったそれを見て、火を付けたらフランベ出来るかなと思い
街灯が無くなり、尚も暫く歩くと全き闇に包まれた。今の俺には、都市を照らす、理解への帝国主義的欲望が顕現したようなあのLED灯よりかは、暗闇のほうが幾分かましだった。いつしか舗装路は途切れている。時折ぬちゃぬちゃと音を立てる何かと擦れ違う。漠然と、もう街には帰らないだろうと思った。
夢で見た街(ツイノベ集) けいろ @keidokaii
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