昔書いたもの
彼は今日は家に帰っていないようだった。明かりを付けて、一人で簡単な夕食を作って食べる。この部屋の明かりは暗くて、一人でじっとしているのは少し嫌だ。食器がかちかちと鳴って、外の高速道路から偶に車の音が聞こえる。耳が寂しいから適当にテレビを付ける。最近彼と話していないような気がした。
死にかけのぼくを揺らすのは静かな齟齬と豊かな崩落、手折られ切れた尾の先の待ち兼ね違うは丘の蘭。昨日は既、朽ち果てて消えた街の夜を想いまた違うは故、夜を覆う、さはた。見做し此は皆、云うは華。かみはえ、脳は音、鳴るは白陽はとうもたちなくては行くに、濁らぬはまた、賛美をあらゆるものに。
陽は低く傾いでいる。稲藁の屋根は少しくたびれているようだ。目の前の、未だ植えられない田にとぷりと足を浸けてみる。人の声はまるで無く、時折、風が東のほうから吹くばかりである。おれは暫くそのまま居た。誰か、待っているみたいだな、と、自分の様子が可笑しくなる。或いはそうかもしれないな。
明日も晴れらしいよ、と布団を取り込みながら彼は言った。肌を刺す冷気で空は澄んでいて、星がいつもよりよく見える。スカイツリーのてっぺんの灯りが、まっすぐ南東に伸びて消えていく。巨大猫は天神通りにゆったりと身体を預けていて、道路は大混乱だった。遠い耳鳴りみたいな音で、巨大猫が鳴いた。
ぐーてんもーげん。そっちはどう?こっちはひどいよ。何年か振りの大雪で、すぐ先のスカイツリーだって見えない。歩いてく人がどんどん薄れていくみたいだ。今は分厚いコートを着てぶるぶる震えながらこの手紙を書いてる。そっちの天気はいいみたいで安心してる。制限だ。また書くよ。君の栄光を祈る。
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