餅1~5
彼は元旦に切りモチを十個食べた。二日にはその倍食べた。正月は何やらモチの気運が高まるねなどと言っていた。そうだねと私も返した。三日の朝モチを食べた私と彼は初詣へ向かった。彼の手を握るとなんだか柔らかすぎるようだった。試しに少し引張るとうにゅんと伸びた。彼は気付かずに歩いて行った。
元旦には既に飽きていた餅を仕方なしにただ噛んでいると彼が新年の挨拶に訪れた。近所で餅搗きをしているから初詣がてら食べようと言う。餅はともかく初詣は歓迎である。早速着替え始めると今日は妙に肌がもちもちとして服にくっつく。試しに頬をつまむとうにゅんと伸びた。彼はそこをぱくりと食べた。
旅行に充てられた我々の休暇は今や濃密な倦怠の霧中にあった。彼は畳に転がりもう餅はうんざりだ特に茹で餅は駄目だとぐずぐず言っている。旅先で寝正月とは不面目である。せめて初詣へと引っ張り起こすと彼の身体がうにゅんと伸びて私は尻餅を搗いた。伸びた彼の肌は福福と白い茹で餅のようであった。
年越しの初詣から帰ると我々は早々に布団へ潜った。すると私の唇に温かい柔らかいものが僅かに触れる。されるまま任せておけば可怪しなことに人肌の温かさを通り越してなんだか熱い。たまらず目を開けると彼が私の口に餅を押し当てている。「むにゃにゃ」と叫んだ私を笑って彼はうにゅんと餅を齧った。
ぺったぺったと餅搗きながら、この餅がいきなり生首になったらどんな気分だろうと空想する。人の頭蓋を搗く感触は、或いは樽酒の鏡開きに似たものじゃないかしら。ぼうっと考えていたら相方の手を搗いてしまって、その手はうにゅんと伸びて餅に溶けた。仕方なく相方まるごとぺったぺったと餅に混ぜた。
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