まず重厚な世界観に圧倒されました。町や村、人々の生活、社会構造などが詳細に描写されていて、本当にその土地の空気を吸っているかのようです。散りばめられた謎が解き明かされて新たな世界が見えてくる仕掛けに、ぐいぐい引き込まれていきます。
登場するのは、生きるのに必死で悪意のない若者達。運命のいたずらか、社会が内包する不条理ゆえか、彼らは罪に問われることになってしまう。そして彼らの前に現れる、「人の道を外れた罪人の首を狩る」のが役目のアスコラク。
なぜ被害者とも取れる者たちの首を狩るのか、それはぜひ読むことで感じ取って欲しいです。決して一面では捉えられない世界の、人間の、天使の、多くの声が立ち上がってきて物語を紡ぎ、読む人をさまざまな感情で翻弄し、圧倒してくれるはずです。
世界観に圧倒されます。誰も見たこと・行ったことのない異世界を、色鮮やかに書ききる描写力により見事に表現されています。
人の道を外れた主人公達は、個人の力では抗うことのできない理不尽な状況によって、残酷な運命へと導かれてしまいます。彼らのもとに遣わされるのが、アスコラク。標的となった主人公達の、首を狩りにやって来るのです。
何故ここまで、世界というものは理不尽きわまりないのだろうか……その中で、アスコラクは一筋の救いの光にも思えてくるのです。
物語はどこから読んでも良いのですが、是非とも最初から読んでいただきたいです。伏線の数々が回収され、最後は読み終えた達成感と感動に浸ることができます。
運命とは、理不尽なもの。
ものを書く側の気持ちとしては、その理不尽さの中で、それでも何とか主人公に希望を掴ませたいと思いがちです。
けれど、この物語の中には、ある意味都合の良いハッピーエンドなどありません。
あるのは、どこまでも理不尽な運命の過酷さ。そして自分自身に降りかかる運命の容赦ない苦しみや痛みを抱え、勝算もないままに血を流して戦う人間の姿です。
「アスコラク」とは、様々な理由で人間としての道を踏み外したことにより「標的」となった者の元へ舞い降り、その人間の首を大鎌で狩る役割を与えられた、美しい天使の名です。
けれど——読み終えた後、この一見残忍な天使は、ぎりぎりの瀬戸際まで運命に追い詰められた人間を救うために舞い降りる存在なのだと——運命から逃れられない人間の苦しみに寄り添う存在なのだと、そう感じました。
運命に追い詰められ、逃げ道を失った人々が苦しみの中で絞り出した様々な思いは、生きる上で決して忘れてはいけないメッセージとして、読み手の心に深く突き刺さってきます。
壮大で重厚な世界観の上に組み上げられた、緻密なストーリー。それらの場面を描き出す描写力もまた見事です。巨大な建造物などのダイナミックで想像力に満ちた描写。彫像や織物などの非常に繊細な描写。全てが一体となり、物語の渦の中へ読み手をぐいぐいと引き込んでいきます。言葉では説明のできない、物語の「力」に圧倒されます。例えるならば、嵐や大波のような……そんな有無を言わせぬ巨大な力に、ぐわぐわと翻弄される感覚。
実際に読んでみなければわからないこの感覚を、ぜひ多くの方に味わっていただきたいと思います。
ずっしりとした重みと、心の奥深くへ訴えかけてくる濃厚な味わいを堪能できる、素晴らしい作品です。
壮大なお話でした。壮大で深く、ここまでの芳醇なお話に出会えたことを感激しています。
世界観の地盤がしっかりとしていて、厳しい現実の中で生きる人々の様々な想いやあり方が詰まっており心に響きました。風景描写、心理描写、なにもかもが丁寧で生々しく極上で、悲しくもありますが熱くもなります。
神聖さすら感じられる表現力はただただうまいと感動しました。静謐でありながら、力強いところは実に雄々しく揺さぶってきます。文章の強弱やストーリー構成、仕込み方が本当に巧みです。素晴らしいです。読んでいる間、最高の時間を頂けました。
どこから読んでも楽しめますが、個人的には一から読んだほうがやはり色々とにやけたり感心できるのでオススメします。最後が本当に……本当に最高です!この興奮をたくさんの方に知って頂きたいですね。
是非に目を通してみてください。その凄まじさに息を飲んで見惚れるでしょう。
「アスコラク‐首狩天使‐」、
「アスコラク」、一番はどういう意味なのか?
読み進めていくうちに、「美」が浮かぶ作品と感じました。
ミステリーでありダークな雰囲気も忘れない世界観が丁寧で、情景表現も個性がありながら、楽しめます。
物語としては、しっかり読んだうえで「もう一度読み直したくなる」のがこの作品の魅力でもあり、特に各章の短い言葉がとても好きです!!
「雨の日の祈り」、「ナチャートの悪夢」が中心となり、物語は展開、および起承転結がしっかりしているので、これは賞をとった作品じゃないのか……と、少しびっくりしました。
とても濃厚かつしっかり構成された物語なので、本当に名作です!!
『アスコラク‐首狩天使‐』を拝読させて頂きました。
とにかく、素晴らしい! 色んな時代、色んな地域で暮らす人々。多種多様な文化の中で、必死になって生きる人たち。人々の喜びや怒り、悲しみが、丁寧に描かれています。作者様の才能によって、人々の息遣いが聞こえる……それ程、リアルなものになっています。
アスコラクは、不幸な少女と出会います。イネイとアス。天使と少女は、共に行動します。100年経っても、二人の絆は切れません。
アスコラクは、人の道を踏み外したものを裁きます。ただ、罰するのではなく……。人ではない、可哀そうな化け物たちを、救う為に。
イネイも、アスコラクに救われました。天使と少女は、これからも……共に行動していきます。恐らく、天使が役目を終える時まで……。
アスコラク‐首狩天使。人の姿だと……人々に記憶されません。
儚くて……悲しくて……ただ、素晴らしい。
皆様、首狩天使の儚い物語を、ぜひ一読してみて下さい!
一貫して現実から逃げない陰鬱な空気を纏ったストーリーであるが故に、時折垣間見える真の美しさに心を揺さぶられます。
作中で取り扱われるあらゆる物事への深い造詣を窺わせる描写、時間軸を超越した緻密な構成。
そして、天使も、悪魔も、人も、皆が皆己の都合で動く中で、唯一その全てに理解を示す「異形の天使」アスコラクは非常に不可解な存在でありながら、言い知れぬ魅力を放っています。恐らく、この世界において、この物語においてこそ輝く、唯一無二の「主人公」なのではないでしょうか。
本作の見どころは、挙げていけばキリがありません。続編への期待も抑えられません。
「自分如きが何か書いて良いものか」と、レビューを書くこちらの手が震えてしまう程の超・大作です。是非ご一読を!
舞台は西欧を思わせるカーメニ。
そこに住む人々は優しく、大聖堂などの建造物は荘厳で美しい。
それなのにどこか陰鬱で悲しい雰囲気を感じさせるのは始まりの雨がもたらす印象でしょうか。
作者の確かな描写力により冒頭から作品世界に引き込まれます。
作者夷也荊氏が概要欄に書いている通り、どの章から読んでも楽しめます。
一つのエピソードが一つの作品としてしっかり体を成しているからです。
しかし<雨の日の祈り>を読んだ方には<ナチャートの悪夢>を読むことを勧めたいですし、その逆もまた然りです。
二つのエピソードが交錯することでお互いの伏線は巧みに回収されていきます。
登場人物たちの細やかな心情までも補完するほどで、読む者にカタルシスを与えてくれます。
これはミステリーの醍醐味のひとつであり、この作品はそれを見事に体現しているのではないでしょうか。
そして前述を可能にしているのは紛れもなくファンタジー特有の要素であり、ここにミステリーとの融合の素晴らしさを感じました。
大切な人のため、そして自らの運命を切り開くため、遥かなる試練と対峙する天使と人々の姿をぜひその目に。
私も第三章に位置付けられている<赤い大地>の扉を開けることを楽しみにしています。
とても濃密なファンタジック・ミステリーです。
細部の描写がリアリティに満ちていて、映画を観ているような臨場感がありました。
また、タロットの1枚1枚に寓意が込められているように、この物語も場面の1つ1つに、表面的に描かれていること以上の象徴的な意味があるように感じました。
「天使」や「悪魔」や「呪い」といったものが人々にとって身近だった時代、街には正義と公平を司る「司教庁」というものが存在し、人々に苛烈な罰を与えています。
雨の日に外出してはならないという「雨籠り」の禁を犯して、村八分になった少女。
彼女が待ち焦がれている者の名が「アスコラク」です。
少女をめぐる出来事と並行して、ナチャートという街で起こっていた大量殺人事件。
この「雨の日の祈り」と「ナチャートの悪夢」。
一見別々の2つの出来事、物語が、アスコラクを介して交錯していきます。
個人的には、各章の一話目にある短いメッセージがとても好きです。最初は何となく読んでいたのですが、最後まで読み終わって、このメッセージがそれぞれ「誰」から「誰」に向けたものなのかを考えてみたとき、この作品が一層好きになりました。
ダークな世界の中に希望の光が差し込んでるような物語です。
情報を固定化する文字が常に「真実」を語るとは限らない――。
雨。
その雨は恵の雨か。
悲しみの雨でもあったのか。
幾層にも重なり合う人の想いは胸を打つ。
人と異形との違いはあっても寄せる想いは変わらない。
叶えられた願いは、切ない救いと共に。
その深い想いに触れた時の落涙は、とてもあたたかなものだった。
三千年もの間、人々が捧げ続けた祈りは無垢である。
例えそれがすり替えられたものだったとしても――。
そして明かされた真実もまた、無垢である。
首を落とされた者たちの祈りや願いに想いを馳せた時、私は確かに光さす道を見たように思う。
厳粛かつ濃厚な美しさを持つ作品です。
拝読後すぐ、再読させて頂きました。
本当に心打たれる作品でした。
ありがとうございます!
物語全体を通じて、作者様の確かな筆致による情景描写によって、幻想的でやや重い独特な雰囲気が一貫してまとっているミステリー&ファンタジーです。
少女が雨の日に外出をしてはならない、という風習をやむを得ず破ってしまい、村から放逐されたことに始まり、様々な謎が交差しながら物語は進んでいきます。
並行するもうひとつの事件とどう絡み合っていくのかも見所だと思います。
ダークながらも、その中から一縷の光を見出だすような希望もあり、読者に確かな余韻を残していきます。
また実在した世界史における伝説や時代背景をモチーフとして、幾つもの文献に裏打ちされた物語は、より一層の重厚さを醸し出しており、非常に素晴らしい。作者様の執筆に対する情熱と真摯な姿勢が垣間見ることができます。
じめじめと梅雨の雨が降りしきる街角。少女は、恋しい青年の姿を想い描く。褐色の肌、赤い瞳、黒髪と黒い翼――人ならぬ彼はしかし、五年前に少女を救ってくれた恩人だった。身寄りのない少女は、追われる身を隠しながら、彼との再会を待ちわびていた。
突然、少女の前に、神々しい光かがやく天使が現れた。首狩りの鎌を持つ彼女は、少女を断罪する。
「お前の存在こそがあってはならない」と――
時を司る天使は、少女の恋い慕う青年と同じ名を持っていた。
雨にまつわる、少女の犯した罪とはなにか。彼と出会うことは出来るのか。
作者さま渾身のミステリー・ダーク・ファンタジー。固唾を呑んで物語の行方を追っています。