運命とは、理不尽。剥き出しの痛みを抱えて生きる人間と天使の物語。

運命とは、理不尽なもの。
ものを書く側の気持ちとしては、その理不尽さの中で、それでも何とか主人公に希望を掴ませたいと思いがちです。
けれど、この物語の中には、ある意味都合の良いハッピーエンドなどありません。
あるのは、どこまでも理不尽な運命の過酷さ。そして自分自身に降りかかる運命の容赦ない苦しみや痛みを抱え、勝算もないままに血を流して戦う人間の姿です。

「アスコラク」とは、様々な理由で人間としての道を踏み外したことにより「標的」となった者の元へ舞い降り、その人間の首を大鎌で狩る役割を与えられた、美しい天使の名です。
けれど——読み終えた後、この一見残忍な天使は、ぎりぎりの瀬戸際まで運命に追い詰められた人間を救うために舞い降りる存在なのだと——運命から逃れられない人間の苦しみに寄り添う存在なのだと、そう感じました。
運命に追い詰められ、逃げ道を失った人々が苦しみの中で絞り出した様々な思いは、生きる上で決して忘れてはいけないメッセージとして、読み手の心に深く突き刺さってきます。

壮大で重厚な世界観の上に組み上げられた、緻密なストーリー。それらの場面を描き出す描写力もまた見事です。巨大な建造物などのダイナミックで想像力に満ちた描写。彫像や織物などの非常に繊細な描写。全てが一体となり、物語の渦の中へ読み手をぐいぐいと引き込んでいきます。言葉では説明のできない、物語の「力」に圧倒されます。例えるならば、嵐や大波のような……そんな有無を言わせぬ巨大な力に、ぐわぐわと翻弄される感覚。
実際に読んでみなければわからないこの感覚を、ぜひ多くの方に味わっていただきたいと思います。

ずっしりとした重みと、心の奥深くへ訴えかけてくる濃厚な味わいを堪能できる、素晴らしい作品です。

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