作者が知り合いからきいた実話怪談です。ただし、それほど恐怖感はありません。さらっと読めます。が、あとからじわじわ恐ろしさが滲みてきます。
戦前のころ、その村には東から吹く祝い風と西から吹く悼み風があったそうです。ある年、その村に凶事が起こり、村人たちはあることを思いつくのです。
もっと東から吹く祝い風を増やそう、と。
人間は山野を切り崩し、森を切り開いて生活圏を広げてきました。自らの生活を豊かにするために、努力をしてきた。それが悪いこととは一概に言えません。が、神様から賜る恩恵を、もっともっとと欲すれば、それはある一線を越えてしまうのではないでしょうか。
数年後、その村には、恐ろしいしっぺ返しがきます。ですが、本当の恐ろしいのは、後日談。
本当にそんなことがあるのでしょうか? それともこれは、痴呆を起こした老人の戯言なのか?
読後、考えさせられる短編ホラーです。噛みしめれば噛みしめるほど、怖さがじわじわと滲み出してきます。
作者がある人の祖母が語っていたという噺を、聞いた時のことである。
その人の集落では、吉兆となる祝い風と、凶兆となる悼み風が吹く。集落の人々はこの二つの風に敬意を払いながら生活してきた。
ところが、ある時に集落を災害が襲った。そこで集落人々はその対策として、祝い風を呼び込もうと考えてある行動に出た。このことによって、集落には祝い風が多く吹き込むようになったのだった。
しかし、時間が経ってから、もはや取り返しのつかない凶事が集落を襲っていたことが明らかになる。ただ、祝い風だけを求めて行動に出ることを反対した血筋だけを除いて、この凶事に侵された集落はやがて――。
人間が欲望をむき出しにして行為に及んだ時、自然の摂理が牙を向く。
作者が実際に会って、今まさに直接話を聞いていた人物が、一転して
恐怖の対象となり、思わず背筋がゾクリとしました。
是非、御一読ください!
縁起の良いものは呼び込みたいし、不吉なものは遠ざけたい――信じる信じないは別として、日本人なら割と誰でも持っている感覚ではないでしょうか。
でもだからと言って、やっぱりやりすぎたらいけないんですよね。特に昔から伝わっているものの中には、当時は不思議な現象とされていても、現代では科学的に理にかなっているものも多くある。と言っても、そうでないものも多いのでしょうが。
このお話は、科学的に説明できない方にまつわるものです。
吉を呼び込みたいから、自然に手を出す。その結果もたらされたものは、残された人々への警告のように感じられます。
しかし訓戒的な話で終わるかと思いきや、最後は……。不気味な後味の残るお話を楽しみたい方は是非。