善と悪、天使と悪魔。その間で揺れ動く人々を描く

とても濃密なファンタジック・ミステリーです。

細部の描写がリアリティに満ちていて、映画を観ているような臨場感がありました。

また、タロットの1枚1枚に寓意が込められているように、この物語も場面の1つ1つに、表面的に描かれていること以上の象徴的な意味があるように感じました。

「天使」や「悪魔」や「呪い」といったものが人々にとって身近だった時代、街には正義と公平を司る「司教庁」というものが存在し、人々に苛烈な罰を与えています。

雨の日に外出してはならないという「雨籠り」の禁を犯して、村八分になった少女。

彼女が待ち焦がれている者の名が「アスコラク」です。

少女をめぐる出来事と並行して、ナチャートという街で起こっていた大量殺人事件。

この「雨の日の祈り」と「ナチャートの悪夢」。
一見別々の2つの出来事、物語が、アスコラクを介して交錯していきます。

個人的には、各章の一話目にある短いメッセージがとても好きです。最初は何となく読んでいたのですが、最後まで読み終わって、このメッセージがそれぞれ「誰」から「誰」に向けたものなのかを考えてみたとき、この作品が一層好きになりました。

ダークな世界の中に希望の光が差し込んでるような物語です。

その他のおすすめレビュー

月嶌ひろりさんの他のおすすめレビュー78