遥かなる運命を切り開く――。それは哀しくも美しい新感覚ファンタジー

舞台は西欧を思わせるカーメニ。
そこに住む人々は優しく、大聖堂などの建造物は荘厳で美しい。
それなのにどこか陰鬱で悲しい雰囲気を感じさせるのは始まりの雨がもたらす印象でしょうか。

作者の確かな描写力により冒頭から作品世界に引き込まれます。

作者夷也荊氏が概要欄に書いている通り、どの章から読んでも楽しめます。
一つのエピソードが一つの作品としてしっかり体を成しているからです。
しかし<雨の日の祈り>を読んだ方には<ナチャートの悪夢>を読むことを勧めたいですし、その逆もまた然りです。

二つのエピソードが交錯することでお互いの伏線は巧みに回収されていきます。
登場人物たちの細やかな心情までも補完するほどで、読む者にカタルシスを与えてくれます。

これはミステリーの醍醐味のひとつであり、この作品はそれを見事に体現しているのではないでしょうか。
そして前述を可能にしているのは紛れもなくファンタジー特有の要素であり、ここにミステリーとの融合の素晴らしさを感じました。

大切な人のため、そして自らの運命を切り開くため、遥かなる試練と対峙する天使と人々の姿をぜひその目に。
私も第三章に位置付けられている<赤い大地>の扉を開けることを楽しみにしています。

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