少女が若者に「背負わせた」もの。
少女が呪いのように「背負う」もの。
それらは絡み合う蛇の如く運命に蔓延って、解かれる術はないのでしょうか。
白い肌に絹の黒髪。寒牡丹を思わせる美しき少女。
いかにも儚げな彼女の目が宿す強かな光は、地獄に燃ゆる火のように、不吉なまでに美しい。
心の揺らぎをそのまま顕在化させる目は、或る青年を前にした時、自我を無くしたかの如く頼りない、びいどろ玉になる。
冒頭に浮かぶ月の視点で描かれたともとれる文体は、序盤、少女の心を隠して進む。
ぷつんと少女の下駄の鼻緒が切れた途端、舞台にそそぐ真円の月の光は増して、彼女を縛る呪いの正体を炙り出す。
佳境、秘匿されていたものが解かれてゆく場面の描写は、凄まじく激しい。
業火のようなスポットライトは、人々を何処まで燃やすのか。
猛暑の夜に、あえて読みたい、美の炎を内包して輝く端麗な物語です。
月は何を見ていたか。月に何を見られていたか。
是非、ご自身の目で見届けてください。
山の集落の中でも、ひときわ目を引く屋敷があった。門には蛇の意匠が施されていた。漁村出身の主人公は庭師として、その門のある屋敷にやってきた。その屋敷で出会ったのは、美しい少女だった。言葉を交わすようになった二人のところに、家長の青年が現れる。そして、少女に突然縁談が持ち上がる。
少女は主人公に頼んで屋敷から抜け出す。
そして「海が見たい」という少女の願いを叶えるべく、二人で浜辺に行くのだが、そこで主人公が見たものは、少女を縛り続けるあるものだった。
宿に泊まった主人公は、少女の本当の想いを知る。
本当の意味で、少女を縛っていたのは――。
古風な語り口で、描かれる背徳とその情景が美しい。
まるで純文学の貫録がある文章だ。
二人の行きつく先を、是非ご覧ください。
是非、是非、御一読下さい。
「あたしを連れて逃げて」と囁くお嬢様。その手を引いて闇をくぐる庭師の少年。
駆け落ちするふたりの行く手には何が待ち受けているのか?
短編ですが、明治大正のころを彷彿させる物語の舞台、全体に漂う退廃的な雰囲気。嵌まります。前半の光満ち溢れる二人の出会いから、後半の暗黒に沈む逃避行。そして、二人の行きつく先。果たしてゴールはあるのか?
非現実的な怪異に頼ることなく漂う恐怖。そのものズバリをただの一つも出さずに醸し出される強烈なエロス。
澄んだ泉にそっと足先を触れたら、水中から伸びてきた白い手にいっきに光も届かぬ深海まで引き込まれるような短編です。
浮世から隔てられた山の中にひっそりと佇む旧家。そこに出入りする庭師の弟子・利吉は、美しい令嬢・聡子に密かな恋心を抱くようになります。でも、それは叶わぬ恋。ところが、聡子が十八歳になり、縁談が決まったとき、利吉に言います。
「私を連れて、逃げて頂戴」
そして、二人は駆け落ちを試みます。二人のことを誰も知らないところへ。
文章が濃密で、それでいて読みやすいです。情景が目に浮かぶだけでなく、その場の音、匂い、恍惚まで、まるで自分が体験しているかのように感じられました。
痛い場面は本当に痛そうで、淫靡な場面は息を呑むほどにエロティックです。
駆け落ちた先で、二人を待ち受ける残酷な運命とは?
心に焼きつくような物語でした。